僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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清純な頑張る乙女

「それじゃあ今日のヒーロー基礎学は此処まで、皆お疲れ様!!」

『有難う御座いました~!!』

 

その日の授業の最後はオールマイトの受け持つヒーロー基礎学だった。今までの力強さこそなくなっていたがそれでも生徒たちは態度を変えずに、今まで通りにオールマイトと接し続けている。そんな気遣いに感謝を浮かべながらも今日の授業が終了した。今日のヒーロー基礎学も無事に切り抜け、その結果に成果を感じながらも自らの成長を実感していく生徒らの姿に思わず笑みを零しながら、オールマイトは今日も新人教師として頑張る。

 

「今日も一日が無事に終わったぁ……!!」

「今日のは特にきつかったなぁ……」

 

寮へと戻ってきた。部屋に戻る者や汗を流したいとシャワーへと向かう者とそれぞれいる。そんな中で談話スペースで今日の授業について言葉を漏らしている者もいる。本日のヒーロー基礎学はヴィランが占拠した建物から如何にして人質を救い、ヴィランを確保するかという物だった。ただ闇雲に攻めれば人質の命が危うくなり、手をこまねいている訳にはいかない。タイムリミットまでご丁寧に設定された中々にハードな内容だった。

 

「今回、葉隠が凄いキレてたよな!!」

「そうそう、透ちゃん凄かったわ。あそこでたった一人で乗り込んでいけるなんてすごいわ」

「そんな事ないってば~♪」

 

この授業で最も優秀な成績を叩きだしたのは葉隠だった。彼女は持ち前の神出鬼没さを使って、他のメンバーに囮を務めて貰っている間に内部に侵入して情報を片っ端から手に入れた上に、人質となっている人形を救い出して突入のタイミングまで事細かに伝えた。それ故に彼女が入っていたチームが一番素早く人質の救出とヴィランの制圧を行った。因みに一番評価が低かったのは爆豪のチーム、速攻で突撃してヴィランを手早く制圧して結果的に極めて迅速に人質を助けたのだが……余りにも力技過ぎるので厳しく評価を付けられ、彼は酷く憤慨していた。

 

「でもよくもあそこで自分が真っ先に乗り込むって判断できたよね!!」

「えへへっ……私って個性は透明なだけだからさ、その特性を上手く使っただけだよ!!」

 

と口では言っているが、内心では今回の活動で確かな手応えを感じておりガッツポーズを決めていた。ピクシーボブの助言通りに自分は潜入に高い適性を持っている、今回は運よく救出までこなせた。だが次は実力でやって見せると乗り気になっており、今度サポートアイテムの相談をしてみようと秘かに誓いつつも自分に合った戦い方がないか模索する事も決めていた。そんな彼女に蛙吹は首を傾げながら問いかけた。

 

「透ちゃん何か良い事でもあったの?とっても雰囲気してるわよ」

「そうかな、そう見えるの?」

「ええっ。顔は見えないけどきっと凄いニコニコしていると思うわよ」

「……うん。私なりに目指すヒーローが固まったから、かな」

 

先日のピクシーボブとの話、あれでヒーローになりたいとは思っていたが極めて明確なヴィジョンという物は固まっていなかったものが完全に形となった。自分が成るべき存在、それは様々なヒーローが活躍出来る足場を作り上げる潜入系隠密ヒーロー。それを目指す事を決めた彼女だがその足場を作り上げたい相手が決まっているのは秘密なのか口を閉ざすのであった。そんな中、寮の入り口が開いてそこから影が伸びてきた。それは龍牙だった。

 

「あっ龍牙君、インターンお疲れ様~!」

「ただいま~……はぁっ疲れた」

 

そんな風に言葉を漏らしながらソファに身体を沈めるようにして座る龍牙に蛙吹もお疲れ様と言葉を漏らす。顔には絆創膏や指や手には包帯が巻かれているのが見えている。

 

「大変だったみたいね、やっぱりヴェノムちゃんが関係かしら?」

「うん、今日はあいつ関連で俺が呼び出された……というか梅雨ちゃん、君良くあいつをちゃん付けで呼べるね……」

 

まもなくヴェノムがギャングオルカの事務所からヴェノムが移って活動を行う順番になるので、その時の為の受け入れ準備にもしもの時の為の打ち合わせなどがリューキュウと念入りに行われた。そしてついでに龍牙はヴェノムと共にオルカに扱かれていたので一人だけインターンから戻ってくるのに時間がかかったのであった。あのタフネスお化けな龍牙が疲れたというのだから、オルカの扱きはとんでもないという事である。

 

「あの野郎、途中で俺を盾にしやがって……師匠の全力の超音波は俺なんかじゃ防ぎきれないのに……」

「あららっ……それでボロボロなのね」

「いやボロボロなのは何時もの事だから気にしなくていいよ。寧ろ今回は随分少ない方だから」

『ええっ……』

 

龍牙の身体中の傷の事はもう周知の事実だが、その原因となるオルカの修行直後の姿はあまり見た事が無いのでその傷だらけな姿が日常と化している龍牙の態度に引いてしまう。これが当たり前且つしかも今回はマシな部類だと平然と述べるのだ。一体どんな地獄だったのだろうか……。

 

「龍牙、お前よくそんな地獄を続けられるな……」

「峰田も参加してみるか、為になるよ」

「ふざけんな絶対ごめんだ!!というかオイラを道連れにしようとすんじゃねぇよ!!!」

「ええっ~……だってこの前、近接戦闘上手くなれないかなぁって言ってたじゃん」

「だからって誰が進んで全身ボロボロになる修行に向かって行くってんだよ!!」

「目の前にいるじゃん」

 

話が通じない!!と嘆いている峰田に向けて笑いが起きるが、龍牙は善意100%で峰田を誘っている。強くなるならオルカの訓練は正しく打ってつけ、それで強くなった実例が自分なので間違いなくお勧めできる。そんな誘いに葉隠は思わず手を上げて参加しようと思ったのだが、踏み止まってそうしなかった。

 

「でも怪我しすぎじゃない?」

「いやこれでもマシな方だから。本当にマシな部類」

「それもう修行じゃないよ、苦行って言うんだよそれ!!?」

 

葉隠にそう言われて、そんな苦行に慣れて平然と修行として捉えて過ごしてきた自分は一体何なのかと悩み始める龍牙に葉隠は肩を竦めながら後ろに回って肩を叩き始めた。

 

「それじゃあこの位はしてあげないとね、マッサージしてあげる」

「でも悪いよ、ああでもそう言いつつも肩たたきが凄い心地いい……」

「って凄い硬いよこれ!?一瞬硬化した切島君の身体かと思ったよ!!?」

「何っそんなに硬いのか葉隠!?俺にも試させてくれ!!オリャアアア!!!」

「いででででっ馬鹿馬鹿硬化してやるな!?」

「うおおおっマジで硬いぞお前!?何身体に鱗でもあるのかよ!!?」

「ああ、今日は肩に出たのか」

 

実は龍牙の身体は日常的にオルカの修行によってボロボロになっていた、修行によっては傷が治癒によって治らなかったりすることも多々あった。故か、何時しか身体のダメージが大きい部分に黒い鱗のような物が出現するようになっていた。それは無意識に個性が身体を補強している証拠であり、その部分がダメージが酷い事を示している。今回は肩にそれが出ているらしい。

 

「何をどうやったらこうなるんだよお前……」

「ああっ……師匠と力比べして、圧倒された上で地面に押し付けられて引きずり回されたからかな」

「んもう無理しない方が良いと思うよ、幾らそれが龍牙君とオルカさんの間じゃ当たり前でも周りは驚いちゃうんだから。今ぐらいはのんびりしなきゃだめ、良い?」

「わ、分かりました……ご心配をおかけしてすいませんでした……」

 

と龍牙は不思議と迫力を感じて葉隠の言う通りにする事にした。そんな姿を見て彼女は満足気に笑いながら彼の隣に座り直した。そう、もう焦ったりなんかはしない。こうして隣にいるだけが全てではないのだ、自分は彼を支えられる存在になるのだと誓った。ならそう慣れるように努力するだけ、それで今は満足……

 

「そうだ龍牙君、今度のお休みって暇?」

「ああごめん、もう予定入ってるんだ」

「そうなんだ……あっもしかして……ゲッ……」

 

『させないわよ、好き勝手にはね。言ったわよね、全て使って龍牙君を落とすって。次のお休みに私はもう龍牙君とデートする約束があるのよ残念でした♪オ~ホホホホホッ!!』

 

「くぅぅぅっ……負けないんだから……!!」

「な、なんか葉隠さんが燃えてる……!?」


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