僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
リューキュウ事務所で順調に経験を積み続けていく龍牙、最初こそ見た目でヒーローとしては如何かという意見も多かったのだが、それも徐々に少なくなっていく。昨今のヒーローがアイドル張りに見た目を推していくものが多くなってきた流れに、実力で結果を出し続ける形で一石を投じるような形となっている。ヴィラン顔負けな恐ろしい風貌で善を成すその姿は悪い意見だけではなく、良い方向にも向いているという事である。
「ねえねえ龍牙君聞いて聞いて、きっと喜ぶことだよ!!」
「俺は取り敢えず頭を撫でる事を一旦休んで貰えると喜びますよ、咽び泣きますよ」
「このネットニュース見てよ!」
「聞いちゃいないよ」
「諦めなさいリュウガ、これがねじれよ」
内心ではそれは確りと理解しているのだが口にはせずに入らない、最近では本当に頭を撫でられるのも当たり前になってきているので龍牙は本格的になれてしまっている。雄英でも見かけられると即座に撫でられる、一度本気で逃げようとしたが即座に捕獲されてからはもうマジで諦めモードに突入している。そんなこんなでねじれが見せようとしてきた物を覗いてみるとそこには社会復帰やヒーローを目指す為に復学した人達を纏めた物があった。
「あらっこれって最近話題になってるやつね。個性の影響で見た目とかコンプレックスを抱えてる人たちの多くが次々にそれを乗り越えてるって奴」
「へぇっ~……そんなのあるんですね」
「ほらっここを見てよ」
そんな中、ねじれはニュースの一文を指で示した。そこにはヒーロー科のある大学に復学したという一人の学生の記事があった。その学生は個性を発動すると見た目がホラー映画に出てくるような怪物になってしまう、それでもヒーローになりたいと思い続けて大学にまで進学したが、周囲からの視線やいじめなので休学してしまっていた。だがそんな自分を変えてくれたのは自分よりも幼く恐ろしい見た目をしながらも、ヒーローを志している雄英生だという。
「これって……」
「そう、龍牙君の事だね!!」
絶対にヒーローとしてやっていけないとまで言われていた彼はヴィラン顔負けな姿をした龍牙が、世間がヴィランのような姿だの、ヒーローとして如何なのだ、彼もヴィランになるのでは、と騒ぎ立て続ける流れがあるのにも拘らずそれらを気にせずに立派に戦い続けている姿を見て勇気を貰ったのだという。大切なのは見た目ではなく、何を成したかという事だと気づけた、と書かれていた。そう、龍牙の活躍は姿にコンプレックスを抱く者に勇気を与える事にも繋がっていた。
「しかも見て見て!ヴィランっぽいヒーローランキングに乗ってるヒーローの活躍も最近凄い事になってるよ!」
「特にギャングオルカの活躍がやばいわね……海で大暴れするヴィラン・クラーケンをたった一人で圧倒する大活躍……体格差がえぐいのによく勝てるわねこれ……」
図らずも様々な方向に風を送る存在として龍牙は成長を遂げている、全く思いもしなかった成長は色んな意味で良い方向に向いている。特に一番刺激を受けているのは師であるギャングオルカ。海で大暴れする凶悪ヴィランであるクラーケンをたった一人で叩きのめし、海岸まで引っ張ってきたという事が載せられている。身体の大きさは巨大化したMt.レディの2062cmの倍近い大きさになる超大型化個性を持っているのにそれを圧倒したという。
「師匠が……まああの人なら当然だろうな。レディさんを完封出来るし」
「うわぁっ凄いねギャングオルカ!!」
「最早オールマイトクラスね……」
そんな話をしている折、事務所に一人の影が戻ってきた。影がフラフラとした足取りでソファの上に倒れこむように崩れ落ちた。視線を向けてみるとそこには項垂れているからか普段よりも、何処か身体が溶けているように見えるヴェノムの姿があった。
「事細かに聞き過ぎだ……幾ら俺が覚えてるからって根掘り葉掘り聞き過ぎたあの眼鏡……」
「お疲れ様ヴェノム。チョコレートシェイクあるけど飲む?」
「貰うぜリュウキュー……」
普段よりも緩慢な動きで黒糸が伸びていきそれを受け取るとまるでゆっくりと巻き取られる掃除機のコードのように身体へと戻る。そしてシェイクを啜りながら、行儀が悪いと言われて悪態をつきながらも姿勢を正す。
「その様子だとナイトアイからの質問攻めは終わったみたいね」
「一応な……でもまた欲しい時は連絡するって言ってやがった……こういうのなんて言うんだ憂鬱だっけか……それだ」
「ナイトアイ……ってあのナイトアイですか、リューキュウさん」
「ええっそうよ。嘗てオールマイトのサイドキックだったあの人よ」
サー・ナイトアイ、あのオールマイトのサイドキックを務めていたヒーローで非常に有名なヒーロー。現在は自らの事務所で活動を行っており、確かな経験に裏付けされた堅実な実力で確実に仕事をこなす実力派。そんなナイトアイがヴェノムに何を聞いていたのだろうか、少々気になる所。
「前に俺が極道から仕事を貰ってたって言ったろ、その極道を追ってんだと」
「確か……死穢八斎會って名前だっけ」
ヴェノムが仕事を請けていた組織、ヴィラン予備軍という扱いを受ける極道組織が死穢八斎會。それを今現在ナイトアイが追っている、何か重大な事件でも起こす予定がありその情報を手に入れたのかもしれない。その確実性などを高める為にヴェノムから組織の人間の情報などを望んだ。
「色んな事をすげぇ細かく聞いてきやがった……はぁっ馬鹿正直に覚えてるなんて言わなきゃよかった……」
「お疲れ様、後ヴェノムにもナイトアイから来てた案件には参加してもらうから」
「……マジかよ、俺あいつ苦手なんだが……」
「案件ってもしかしてまたですか」
「まあまたね、ナイトアイから来てるチームアップのね」
龍はまた大きな渦に身を投じる事になる。