僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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「話はつけました」

―――ご苦労、報酬だ。それと感づかれる事は無いだろうな。

「そこは仲介人(カットアウト)の名に懸けて」

―――……信用しよう、これでいい。順調に運ぶ。


嗤う毒、決め手の黒龍

「そして今回、ヴェノムの協力を経て死穢八斎會の活動エリアと重要拠点と成り得る場所を予定していたものよりも遥かに絞り込む事が出来ました。それに加えて八斎會と関りがあるグループなどのポイントを出来る限りリストアップしました、一度で確実に叩きこれらの禍根を絶つ為に皆さんにはこれらポイントを調査して頂きたい。その壊理ちゃんという少女を確実に救うためにも」

「……そう言われたら何も言えなくなる、回りくどいにも程がある。だが事態が事態か……」

 

何処か悔しそうに拳を握りながら苦々しくファットガムは吐き捨てた。小さな女の子の身体が今もバラされているかもしれない、しかもその少女は一度明確に緑谷とミリオに助けを求めたという。きっと苦しんでいる、泣いているかもしれないかもしれない子供を救えないで何がヒーローだ、そう言いたいが下手に禍根を残しては個性破壊の薬のノウハウなどが漏れ、他の組織でも再現やデッドコピーが生まれかねない。

 

「成程、だから俺も確り呼ばれたのか……」

「リュウガ、君の能力はギャングオルカから聞いている。期待、してもいいか」

「任せて下さい。と言いたい所ですが俺の能力では生物は反映されません、あくまで無機物のみです」

「十分だ」

「なんや、リュウガ君に豪い期待しとるな」

 

ファットは思わずそう問いかけてしまった。まるで確実性をもって調査を行えるような確証があるような言葉、それを聞いてナイトアイは瞳で問いかけ、龍牙は頷いた。

 

「今回の調査において、恐らく彼は酷く有力な能力を持っています。彼は鏡の中の世界、とでも形容する世界に侵入する事が出来ます」

「鏡の世界だぁ!?なんだそれ、胡散臭くねぇか」

「いえ、これについてはギャングオルカや雄英の根津校長のお墨付きがあります」

 

この調査では恐らく龍牙の能力は最適といえる、制限時間と体力の制約こそあるが危険なく拠点を調査する事が出来る。だが逆に生物がいない状態でもあるので調査が難しい面もあるので、そこは鏡の中から外を伺って出来る限りの情報を集めるしかない。それらがナイトアイから伝えられると全員から驚愕に満ちた声で溢れていた、その場でそれを把握しているのは個性破壊と自らの個性との比較の為に呼ばれた相澤やリューキュウ程度。

 

「なんやそのごっつい力ぁ!?かぁぁっ~、昔に会いたかったわ!!いやマジで!!」

「……やべぇな」

 

ファットは薬物取締の時期に出会って相棒として手伝ってほしそうな声を漏らしてしまう、彼の力が居ればどれだけ楽に現場を抑えられる事だろうか。ロックロックも素直に驚きを吐露した、そして今まで舐めていた、というよりも厳しかった態度が何処か軟化するように表情を僅かに変化させる。そこまでに龍牙の能力は異常なのだ。

 

「但し、今の俺でもミラーワールドに無条件でいられるのは7分程度です。それを超えるとどんどん体力を吸い上げられて行って最終的には弾き出されてしまいます。しかも弾き出されるのは最も近い鏡面からです」

「相応のリスクはあるって事か……」

「そやけど最後のダメ押しには十分な力やな」

「ええっ彼には私が未来を見るまでの確実性を高める為にも頑張ってもらうつもりです」

 

その言葉に疑問が持たれた。そもそもナイトアイの個性でこの場の誰かの未来を見ればさらに確実性が上がり、情報としても有力な物が得られるのではという疑問がある。だがナイトアイはそれは出来ないと断った。

 

「私の個性、予知の性能は一度使用すると24時間の冷却時間、インターバルが必要になる。見る人物は慎重に選ばなければならない。そして予知を見られる時間は1時間、その間にその人物とその周囲が映し出されているフィルムを1コマずつみられるような物なのです」

「つまり……情報量としてはその人の後の生涯、それを1時間で見ていくから範囲が狭い。取得範囲は出来るだけ抑えたい、という認識でいいのかしら」

 

リューキュウに質問にナイトアイは肯定とも否定とも取れる言葉を返した。ナイトアイの予知は占いのような曖昧な物ではない、過去の経験からその予知は100%に近い確率で僅かな変化こそあるが確実にそれが起っていた。この事から確実性を高めた上で行う駄目押しが最も効果的だと定めている、そして一番の理由が―――

 

「例えばその人物の近い将来、回避しようもない無慈悲な死が待っていた場合……如何しますか」

『っ……』

 

つまり、ナイトアイは過去にそのような事を見た事があるという事になる。そして彼の口ぶりからして回避しようと努力してもそれらを無にする結果が起り、予知通りの結果が訪れてしまう……と言う事があったのかもしれない。下手に予知を行えば未来が確定的になってしまう恐れがあると彼は言いたいのかもしれない。それに、そんな光景を見た事があるならばどんな人でも個性を使うには躊躇する、人の死をマジマジと見せつけられた上でそれを変えられないと分かった時、人はどれだけ弱くなることだろうか……。

 

「何落ち込んでだ、馬鹿かテメェら」

 

と静まり返ったその場をヴェノムが嗤う、かつて見せたような邪悪な笑いだ。周囲が言葉を失うさまを見てそれを嘲笑う。

 

「テメェ何を嗤ってんだ!!?」

「やる事は決まってる、死穢八斎會を潰す。それだけは確定してる、それに今は見ねぇって言ってるだけで見る時には見るって言ってんじゃねぇか。だったらその時に見ればいいだけだ、ちげぇか」

「そりゃ、そうだけどよ……」

 

使わないと言ってる訳ではない、今は使わないと言っているだけだ。時が来れば使う、そうナイトアイは言っている。そうしたいならそうさせればいい。自由を尊重するヴェノムらしい意見にリューキュウと龍牙は肩を竦める。そんな言葉に場は空気を持ち直していく、ナイトアイは内心で彼に感謝していた。

 

「今俺らがすべきは八斎會を潰す、あとその子供を助け出すだけだろ。簡単な事だ、分かり易くていい。後はそこに行くまでの道を整える為にこれから行動すりゃいいだけって話、それを今からグチグチ言ってんじゃねぇよ。それこそそこのデブ助みたいに動けねぇよ」

「デブ助やのうてファットさんやで、それにこれでも動けるやわらか重戦車って言われとんね」

「マジで如何でもいいわ」

「乱暴な言い方だけどヴェノムには賛成よ、重要なのは小さな女の子が助けを求めてる。ヒーローとして動かない理由はないわよ」

 

その言葉には皆が頷く。ヴィランが悪事を起こしている、それによって小さな女の子が泣いている、助けを求めているからその女の子を助ける為に動く。なんとも分かり易くヒーローらしい理由だ。

 

「では皆さん、改めて―――今回の協力をよろしくお願いします」

 

事態は大きく動き出す、それらは巨大なうねりとなり様々な物を飲み込みながら荒れ狂う。


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