僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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文化祭の為に頑張っちゃった創造する者

「これで警備システム面はパーペキ、流石俺。プログラミングの腕前も超一流♪」

 

そんな軽口を叩きながら仕事の出来前に満足しながら紅茶の香りを楽しむ戦兎。雄英に来た一番の目的である警備システムの構築などを任された以上は完璧にそれをこなさなければならない。このシステムの全てを文化祭を本当にやるのか、と言いに来た警察のトップに見せるとこれならば問題ないだろうと肩を竦めてそのまま帰ってしまうほどの出来前なのだから。

 

「やぁっ戦兎!順調かな」

「先生、バッチリ終わってますよ」

「流石仕事が早いね!」

 

自分の元へとやって来た恩師である根津、そんな彼へと笑みを浮かべつつも彼の分の紅茶を淹れつつ席を整える。そんな事なんてしなくていいと言われるが戦兎としてはこの位はやらせてほしい、と少しだけ無理を言って準備をさせてもらう。そんな席に腰掛けつつ紅茶を口にする、上質なアッサムに頬が緩んでしまう。まるで自分が来ると分かっていたかのようにチーズケーキがお茶請けとして出された。そんな意図を込めて視線を送っても笑みしか寄こさない教え子に苦笑いを浮かべながらそれを口へと運ぶ。濃厚なチーズの味わいと程よい甘味でアッサムとよく調和している。これこそ至高の方程式だ。

 

「実に良いね、この組み合わせは至高の方程式だ」

「でしょ、I・アイランドに最近出店した洋菓子店の奴ですよ。お土産ついでに持ってきました、これご自宅でどうぞ」

「いやぁなんだかすまないねぇ」

 

本当に周到な教え子だ、基本的に自己中心的且つ飄々として掴み所がなく、知的好奇心を満たすことを優先する身勝手さが強い性格だが強い正義感と温かい優しさを持ち合わせた間違いなくヒーローの素質を持っている立派な男。彼の言葉で一番印象的だったのが

 

「見返りを期待したら、それは"正義"とは言わない」

 

だった。僅かなプロヒーロー活動中での給金も全て寄付をしていた。元々彼には在籍中に確立した技術の特許などで入ってくる収入もあったので資金面の心配もなかったのが一番の理由だろうが、それが彼の信念のような物なのだろう。

 

「君に来て貰って警察庁長官から確り開催許可を貰えて安心したよ。流石だね」

「何、俺はあの人に貸しもありますからね。俺が強く言ったら多分それだけで何も言えなくなるでしょうね」

「君のファンでもあるしね」

 

戦兎はヒーロー中に警察庁の占拠を企てたヴィランの確保、それに合わせてセキュリティ強化などに大きく貢献している。故に警察としては戦兎個人に余りにも大きな借りがある。それを使用してもいいのだが、今回はそうはいけない事情もある、なので別の手段で警察にぐうの音も出ない程に納得させた。

 

「強化も万全、一応敷地内の各所にも俺が改良と再設計をしたガーディアンを複数配置したから大丈夫だとは思います」

「これは凄いね……下手をすればタルタロスを超えるんじゃないかい?」

「いや流石にあそこまで行きませんよ、あれの数歩手前って所です」

 

それでも十分過ぎる、いや厳重にもほどがある。文化祭は誤報であったとしても警報が鳴る、緊急性が高い事が起きた時点で中止と避難が言明されていたのだが……桐生 戦兎は僅かな時間でそれらの条件を撤回させるほどの事をやってのけてしまった。

 

I・アイランドでも採用されているセキュリティロボ・ガーディアン。それらを再設計した上で改良などを加えた物を雄英の各所に配備した、その数は数えるだけで眩暈が起りそうになる程。しかもそれらの性能も桁外れ、一体一体が戦兎の個性によって何かしらをプラスされているので唯のロボではないのも味噌だ。

 

「一応聞くけど、作るのにお幾らしたんだい?」

「―――多分聞かない方が良いですよ。俺だから実現出来た値段です」

 

成程、これは聞かない方が吉だと根津は黙って至高の組み合わせの方程式に酔う事にする。複数の特許などを抱えている戦兎だからこそ、あれら作る為の物を賄えるのだろう。一体どれだけ馬鹿げた金額なのだろう、だが考えるのはやめておこう。きっと頭痛でこの美味しい方程式が喉を通過しなくなってしまう。此処では鋼鉄の男な社長ならばできる、とだけ言っておこう。

 

「それと龍牙はどう思うかな、一時期はI・アイランドの君の所に留学されるのも悪くないなとも思ってた位さ」

「俺個人としては最高の奴ですよ、ベストマッチしますよ絶対」

「おおおっ高評価で喜ばしい限りだよね!!」

 

此処で話を切り替えて龍牙についての話をする。此処に来たのはセキュリティの進捗もそうだが、何より龍牙の話をしに来たのだから。

 

「個性の出力はもちろんですけど、やっぱりあの個性は良いですよね。全てにおいて完璧ですし何より興味深いしカッコいい!!最高の個性じゃないですか、出来る事ならば俺は龍牙の個性をじっくりとっくり研究したいですね」

「君にそこまで言わせる程かい、やっぱり」

「そりゃそうですよ―――ミラーワールドなんて正しく驚天動地でしたよ」

 

龍牙の個性は正しく謎に満ちている。本当にあの二人の個性を遺伝した結果なのかと疑いたくなるレベルで異常な個性だ、龍、正確には干支の龍と鏡を組み合わせて何故そうなるのかと問いかけたくなる。鏡の中の世界に入る込むなんて戦兎は驚き過ぎて顎が外れた上に崩れ落ちるレベルの衝撃を受けた、そしてそれを研究したくてしたくてしょうがなかった。

 

「いやホント、またI・アイランド来てくれねぇかな……今度は数か月単位で」

「雄英のスケジュール的に難しいね、雄英だと研究は難しいかい?」

「まず俺の研究室と同じ設備を整える事から始めないといけませんからね。いやぁにしてもマジで龍牙は最高ですよ、あいつのお陰で幾つ俺の進めてる研究が終わったか知ってます?」

「また新しく特許を取ったあれだね、確か5つだったかな」

「いえ7つです」

 

7つ、戦兎はまたこの世界に衝撃と新しい光を齎した事になる。この男が生まれたお陰で一体人類の技術レベルはどれだけ進歩するのだろうか、全く想像が付かない。そして龍牙の事を語る戦兎の表情はとても明るく、楽しそうに相棒だと語る姿に根津は思わず嘗て彼の隣にいた女性の事を思い出す。

 

「これからも龍牙と仲良くしてやってね、戦兎」

「勿論!俺の方から宜しくしたいですね」

 

そう語る教え子の顔はくしゃっとしていた。本当に嬉しそうな表情に胸が軽くなったような気分だ。

 

「最後に一つ―――やっぱり、そうだよね」

「ええ―――変わりませんよ」

「それに関しては君の自由にすればいいさ、だけど彼女はずっと待ってくれているのも分かってくれよ」

 

そう言って紅茶とケーキ有難うと礼を述べて去っていく根津を戦兎は頭を下げて見送った。そしてパソコンの前に座って紅茶を啜る。暫しの無言の後……少しだけ口を開く。

 

「ラビルドは戻りませんよ、先生……」

 

そんな風に呟く戦兎は何処か悲し気だった。


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