僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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ベストマッチな奴らを見る黒龍

紅茶を二杯飲んでも未だに続ける戦兎とミルコの喧嘩、流石に龍牙も見かねたのか声を掛ける事にした。この二人を止めるのは中々に難しい、二人の喧嘩は在学中に何度も起こっているある種の名物的な側面も持つ程行われていた。結局最後は実力行使と称して試合をして決着を付けていた。故か、二人は互いに実力を磨き合って行った。そんな二人の喧嘩をどうやって止めるのか根津としては興味があった。

 

「戦兎さん好い加減にしてくださいよ父さんじゃなくて校長の前で!!ミルコさんも落ち着いてください、お二人に何があったのかは知りませんけど、礼節を知る大人として二人がどれだけ恥ずかしい事をしてるのか理解してください!!」

「「うぐっ!!」」

「成程そうやって止めるのか」

 

紛いなりにも確りした大人が恩師とも言うべき存在とその息子を前にして子供っぽいに尽きる喧嘩をし続けている現状を客観的に見たらどれだけ恥ずかしいのかを指摘して、本人らに認識させてそれをやめさせる。感情を確りコントロール出来る大人相手ならば十二分に有効的な方法に根津は良い手だと褒める。彼らが学生ならば確実に感情を優先して続けていた事だろうが、今ならば確実にやめるだろう。二人は掴んでいた胸倉を離して距離を取って素直に頭を下げた。

 

「すいません先生、恥ずかしい所を見せちゃいました……」

「悪かったよ校長……馬鹿みてぇな所を見せちまって……」

「みたいじゃなくて実際に馬鹿だろうが……」

「ああもう、戦兎さんやめてください。また恥晒す気ですか」

「うぐっ……」

 

また喧嘩の発端になりそうな所を強制的に終了させる龍牙。そんな彼に根津は息子の成長を感じる、大人の仲裁も出来ていて何よりだと思いながら紅茶を啜る。龍牙もそれに参加する為に席に座り直すのだが……先程まで戦兎が座っていた所に座り直した。そう戦兎とミルコが対面するようにしてカップの配置を変えて紅茶を淹れ直したのである。

 

「お、おい龍牙そこ俺の席……」

「ちゃんと面を向かって謝って下さいね、お互いに。喧嘩したらそうするってミッドナイト先生に聞きました、俺は喧嘩した事ないですけど」

 

ミッドナイトに教えて貰った青春の一幕として有名な物が夕暮れの河川敷での喧嘩だという、お互いに殴り合って倒れ伏し、そんな状態で謝罪しあって互いを認め合うのは最高のシチュエーションらしい。と言っても龍牙が喧嘩もした事が無いので何とも言えないが、喧嘩する事があったらそうした方が円満に解決出来るのだろうかと内心で勘違いをしている。そんな心遣いを受けた二人は、気まずそうに対面するように座り直した。

 

「「……」」

「ちょっと」

「「―――……すんませんでした」」

 

渋々頭を下げて謝罪する二人に根津は思わず噴き出した。世間的に言えばこの二人は超有名人、一方は日本を支えるトップヒーローの一角で男勝りな豪快な女傑で勝気なバニーのミルコ。一方は超天才で技術による平和貢献はオールマイトにも負けないとされる桐生 戦兎。その二人が一介の高校生に促されて頭を下げているのだから面白くてしょうがない。

 

「お二人ともなんでそんなに険悪なんですか、さっきの戦兎さんの言葉にも棘ありましたし」

「……昔な」

「おう、ちょっとな……」

 

出来る事ならば話したくないというのは共通らしく、短くそれだけを語った。龍牙としてもそれ以上聞き出すつもりはない、自分だって公にしたくはない過去を持っている。あまり人に話す気にならない話、それと同じならば自分とて藪を突くような真似はしない。だが、ハッキリ言ってこの二人の剣幕は異常だ。言葉の節々には明らかに互いの事を深く理解しているからこそ言える事が多くあった、長い付き合いだけではなく深い信頼があるのが読み取れる。しかもその信頼は継続されている、今もそれを向けあい続けている。

 

「まあ俺だって人の事は言えませんので詮索はしませんよ、だけどせめて人前で喧嘩するのは控えた方がいいのでは?」

「俺は元々こいつとは二度と会う気はなかったんだ。それなのにこいつが来たこんな事になったんだ、つまり俺は悪くない」

「……だけど会うかもしれない、そんなリスクがあるのに日本に来てくれたんだろお前は……」

 

そんな言葉に戦兎の紅茶を口へと運ぶ手が止まった。元々日本に来た理由は根津からの依頼を受ける為、だが日本に来る以上ミルコに会う可能性だってあった。彼女はずっと戦兎に会いたいと思い続けていた、そんな彼女が雄英に戦兎が居るという情報を得てやってくる可能性とてあるのに関わらず。

 

「……可能性で考えれば極めて低確率だ、そんな確率程度で先生からのお願いを断るなんて馬鹿だと思っただけだ」

「それでも、俺が雄英に行く可能性を踏まえたらかなり高いだろ」

「……」

 

黙って紅茶を口にし続ける戦兎、顔を伏せて表情を隠し続けて戦兎にミルコは問いかけを続ける。

 

「戦兎、俺はずっと後悔してる。あの日、俺はお前の信頼を裏切った。お前が俺に預けててくれた全部を俺は自分から捨てちまったんだ……あの日の言葉がずっと胸に残ってる」

 

 

―――お前は自分から俺とのベストマッチを捨てたんだよ!!!

 

 

「何にも分かってなかったんだよ、俺は……」

「だからワザとらしくサイドキックも取らないで活動を続けてるってか、お前らしい馬鹿な理由だな」

 

ミルコは今のヒーローには珍しく一切のサイドキックを取らない単独で活動をし続けている。事務所も構えない姿勢でヒーローをし続けている。世間はそれは何故かという事を話題にする事もある、彼女が単純に一人が好きである、動きやすいからと様々な理由が囁かれているがもっと単純な理由があった。隣に立って欲しい人物が居るからである。

 

「頼む戦兎……俺に、俺にチャンスをくれ……最後で良いんだ、だから―――もう一度俺とコンビを組んでくれ……」

 

やっとの思いで絞り出された弱弱しい言葉と共に彼女の瞳から涙が滲み出る。男よりも男らしい彼女には珍しい女性らしさが出ている姿に失礼ながら根津は驚いた。彼女を知っている程に今の姿は驚かれるだろう、それほどまでにミルコと戦兎の関係は深かった。それは戦兎が基本フォームとしているラビットタンクにも表れている―――何故ならばラビットフルボトルはミルコから抽出した成分から出来たボトルなのだから。そんな彼女を見つめながら戦兎は重々しい口を開いた。

 

「……俺だってお前と一緒だった時の事を忘れた事なんか一時だってなかったよ、馬鹿ミルコ」

「えっ……」

 

小さい声故に聞き取る事が出来なかったが、それは戦兎が内に秘めていたミルコへと向けていた信頼その物。戦兎だって分かっていた、自分が彼女を拒絶し続けているのは一時の感情で彼女を突き飛ばしてしまった若気の至りで本心は全く別な物である事を。純粋に恥ずかしく、今更あの時の言葉を撤回出来ない。下らない自尊心が邪魔しているだけに過ぎなかった。それに―――ミルコと再会してこれで最後になるかもと思うと、怖くて会えなかった。それを超えるように、一歩踏み出すように名刺に今の連絡先を書いた。何となく残している昔のアドレスではなく、今使っている最新のものを書いてそれをミルコへと投げると席を立った。

 

「……今度はそこに連絡寄こせ、今度は建設的な話をしよう―――ミルコ」

「っ―――戦兎っ!!」

 

そう声を出した時には戦兎は根津に頭を下げて足早に部屋から出て行ってしまった。その背中を見つめる事しか出来なかったがミルコの心は歓喜で満ちていた。約10年、長い月日を経てまた交友が復活したと言っても過言ではない。漸く来た、この時を待ち続けた……!!

 

「わりぃちょっとこれで失礼するぜ!!龍牙、この礼と汚名返上はきっちりさせて貰うから覚悟しとけ!!おい待てよ戦兎ぉ!!」

 

そう言ってミルコは龍牙の頭をわしゃわしゃと撫でるとそのまま駆け出して戦兎を追いかけて行く。そして扉越しにだが『待てや戦兎ォォ!!』という咆哮が聞こえてきた。それを聞きながら根津は言う。

 

「フフフッやったね龍牙、あの二人の仲直りのきっかけを作ったみたいだよ」

「俺は何もしてないですよ。ただ謝って下さいって言ったらああなっただけです」

 

確かに龍牙は何もしていないかもしれない、単純に反省を促しただけ。元々二人は本気で嫌い合っていた訳ではない。単純に素直に成れず、そのままずるずると引きずっていた。それをちゃんと向い合せただけ、解決したのは本人同士。

 

「これで、ラビルドは復活かな」

 

だが二人は知らない―――

 

 

 

 

「だから謝ってんじゃねぇか!!」

「ふっざけんな馬鹿ミルコ!!背後から全速力で迫った勢いのまま蹴る馬鹿がどこの世界に居んだよ!!ああそうか俺の目の前にいたな、すいませんでしたこの筋肉馬鹿ミルコ!!!」

「テメェだから筋肉付けんなって何度言えば分かるんだこの研究オタクのナルシスト!!!」

「「上等だ表出ろ!!!」」

 

とんでもない喧嘩を戦兎とミルコが始めようとしている事を。

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