僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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未来を考える黒龍

妹と再戦の約束をした所で白鳥は此方を見ているピクシーボブと葉隠の視線を受けて好い加減に兄を返した方がいいと感じたのかこの辺りで引き上げる事にした。

 

「あのお兄ちゃん……私には何も言う資格はありませんけど……頑張ってください、Let's Plus Ultra!!」

「お前までピクシーさん以外のプッシーキャッツの皆さんみたいな事言うなよ……」

 

しかも無駄にネイティブな発音なのが妙に腹立たしい。龍牙ほどではないが白鳥も白鳥であの二人の子供なので相応に優秀なのである、B組随一の優等生で中間も期末もクラスで1位だったらしい。そんな風に妹はそそくさと去っていくのを見送りながら自分は如何するかなぁと思考を巡らせようとした直後であった。鈴を鳴らしたような澄んだ二つの声が自分へと投げかけられたのであった。

 

「龍牙君♪」

「白鳥さんとのお話は終わったみたいね♪」

「ええ、まあ終わりましたよ」

 

兎も角平常運航な様子を保つかのように普段通りの笑みを浮かべておく。忠告などもあるので内心では少々焦りこそあるが普段に近い精神状態。落ち着き払いながら対応をする、二人は龍牙にとっては大切な人であることには変わりない、そんな人達に対して妙な態度を取るのは失礼にあたるし彼女らが自分に向けてくれている感情を無碍にする事にも繋がってしまうと思っているからである。

 

「どんな話をしてたの龍牙君?」

「白鳥も必殺技を編み出したらしい、それらを使って再度試合をしたいって要望だったよ」

「そう言えば龍牙君と彼女って体育祭で戦ってたわよね、あの時の中継凄い気分悪かったの覚えてるわ」

 

思わず思い出しながらも顔を顰めてしまうピクシーボブ。当時の事と言えば可憐な純白の乙女である白鳥が龍牙に圧倒されていた故に観客が龍牙に対してブーイングを飛ばしていた、それは当然中継されておりそれらを見ていたピクシーボブは酷く悪い気分になった。戦いに男に女も無い、寧ろ女だからという理由だけで加減されていた逆に腹が立つ。全くもって自分勝手な人たちだと思ってしまったほどだ。

 

「まあそんなこんなで白鳥(あいつ)もあの結果を結構不満を持ってるみたいで、再戦を使用って事になったんですよ」

「ふ~ん……でも龍牙君なら負けないって!!」

「俺も負ける気なんて更々無いさ。紛いなりにも兄貴としてのプライドもあるからな」

「ぁぁっ―――自信満々な龍牙君もぃぃっ……ぁぁっ……」

 

とそんな風に自信に満ち溢れながらも白鳥を返り討ちにしてやる気に溢れているその姿に瞳の中のハートを炎で燃やす。龍牙と接せられなかった期間がそれなりにあったためか、文化祭だけでは足りなかったのか妙に情緒不安定になっているのかもしれない。そんなピクシーを見て、葉隠は何処か得意げになっていった。

 

「なんたって龍牙君には取って置きのあれがあるもんね!!」

「あれって一体何がどれがそれで何があれなのよ?ちょっとなんで葉隠ちゃん得意げなの!?龍牙君私にもあれって奴を教えてよ~!!」

 

ピクシーが知らないのも無理はない、葉隠ですらそれを知ったのはつい最近なのだから。龍牙の切り札とも言える形態、Plus Ultraの意志を宿した龍牙が辿り着く事が出来た最高の姿、曰くビヨンド・ザ・リュウガ。ハイエンド脳無を撃破する程の力を秘めているそれに言い方は悪いが白鳥が勝てるビジョンが浮かばない葉隠であった。

 

「ニャるほどねぇ……そんなに凄い力を出せるようになったの龍牙君」

「ええ、でも油断せずに戦いますよ。師匠には口を酸っぱくするほどに言われてますから」

 

白鳥からしてもビヨンド・ザ・リュウガは完全に不明な力でどう対処すべきか分からない者だろうが、龍牙から見ても白鳥のブランウィングの力は完全に未知数。もしかしたら常闇のように黒炎を無効化するような力を備えている可能性があるのも否定できない。

 

「と言っても龍牙君の有利は変わらないと私は思うよ、だって龍牙君の強みって純粋に強いだけじゃないもん」

「そう、魅力はもっとたくさんある物ね♪」

「そう言われると嬉しい限りですね」

 

そんな風に言われると照れてしまう、そんな龍牙に対してピクシーは少しばかり強気になった。先程の事もあり、まだまだ自分の知らない龍牙の側面もあるかもしれない。ならば自分は葉隠(ライバル)に負けてしまっている事になる。恋のライバルに負けているのをただ見ているだけ何て乙女が廃る、ならば何をするか。単純な話だ、恋は何時でもハリケーンなのだから!!

 

「ねぇ龍牙君、将来の事って考えたことある?」

「将来……ですか」

「ええ、龍牙君がプロヒーローになった後の事とか。例えば―――家庭の事とか」

「ちょっとピクシーさん!?」

 

何ぶっ飛んだことを聞いているんだと思わず凄い顔になりながら葉隠はそちらを見た、まさかそんな事を聞くなんて完全に想定外だった。そう言われて龍牙は少し驚きながらも腕を組みながら思考を巡らせ始めた―――考えた事もなかったからだ、プロヒーローになり自分が愛されるヒーローになった後はどのようにするのかと。

 

そもそも自分が愛される存在ヒーローになりたかったのは恐れられるのが嫌だったから、という子供じみた反骨精神が根本にある。根津とギャングオルカに教えられたヒーローとしての在り方、そこに自分がどんな存在になりたかったを加えて自らのヒーローとしての道を作っていく。だが仮にそんな存在になれたとしてぞ自分は如何するべきなのだろうか、その先を思考した事なんて一度もなかった、何時も終わりで思考を打ち切っていた。

 

「……その先」

 

―――先の先、そこに辿り着けたときにどんな景色があるのだろうか。自分を完全に受け入れた世界、恐怖ではなく親しみを持って接してくれる人達と共に進める世界になった時にはどうなるのだろうか……そんな時に過ったのは自分に笑顔を向けた壊理ちゃんの姿、笑顔でブラッカーとも楽しそうにしていた姿が愛おしく感じられた。

 

「……子供」

「「っ!!!」」

 

そんな言葉と共に自分の中にあった物が繋がっていく。リューキュウ事務所でねじれが見せてくれた自分の活躍を糧にして立ち上がった異形系の個性を持った人達、自分と同じように自らの姿をコンプレックスになってしまっている人がいる事を知った。ならばそんな人々の為に動くべきなのではないのだろうか、幼い自分のような境遇の子供もいるのではないだろうか。ならば―――そんな人達の為に動きたいと龍牙の胸の内で大きな光が固まった。嘗て根津が自分にしてくれたような事を今度は自分がするのだと、彼にとって新しい夢が生まれた瞬間だった。

 

「子供、子供……そう、そう龍牙君もそんな風に考えてたのね!!」

「うんうん、凄い立派だよ!!」

「―――えっ、あっ……そう、ですかね」

 

思考の海に沈んでいた龍牙を引き上げた二人の声に思わず、慌てながらも返答する―――のだが妙な事になっている事に気付く。二人の視線が……異様な程に熱っぽいというか、凄い蕩けているというか……。何やらやってはいけない事をやってしまったような気がする。

 

そうやってしまっている、龍牙が発した子供という言葉を二人はバッチリと聞いていた。そこから恋する乙女の二人は子供に恵まれた温かい家庭を望んでいると解釈してしまった。龍牙は実の両親に捨てられており、男手で育てられている故にそのような物に飢えているのではと思った。そして二人は思わず自分と龍牙の子供を想像し、共に育てる仲睦まじい家庭を想像してしまっている。

 

「子供、龍牙君との……えへへへっ龍牙君ったらぁっ……♪」

「んんっ駄目よこんな所で、子供に聞かれちゃう……んもう、しょうがない人ね……グフフフッ♪」

 

「……白鳥、なんかお兄ちゃんやらかしたかもしれない」




独りごとには気を付けましょう(経験談)。

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