僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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師の言葉を受け取る黒龍

「―――っ!!!」

 

TVに釘付けになっている一人の男の瞳は輝いていた、誰もが見た事もないような輝き方をしていた。瞳に星々を宿した天窓のようになり、そこから溢れ出すのは尊敬と親愛、様々な感情が入り混じった嵐がそこにある。だが一貫しているのは喜びによる震えだった。映し出されている師の姿を見るたびに震える、そんな姿に周囲の皆は見た事の無いような姿に驚きを隠せなかった。

 

「おいあいつマジで龍牙なのか?」

「いやあいつ以外に誰がいるんだよ」

「でもよ……オイラあんなに目を輝かせてる龍牙見た事ねぇよ」

 

ゲーム友達でもある上鳴、瀬呂、峰田は日頃から龍牙と共に一緒に遊んだりする。友達と一緒にやるゲームで凄い楽しそうにする龍牙なのだが今の彼はそれ以上。見た事もないような輝きの表情でTVの画面に釘付けになっている。試しに峰田が顔の前で手を振ってみるのだが全く反応しない、寧ろ自然に身体が動いて手を避けている。

 

「でもウチはあれに似た感じの見た事あるよ、練習のセッションが最高潮だった時に似てる。いやその時以上だね」

「然り。闇炎龍が今だけは煌めく星の龍と化している」

 

近い物を知っている耳郎と常闇、それでも自分達が知っている物よりも遥かに嬉しそうにしている。そんな龍牙を見つめている葉隠は隣に座りながら声を掛けてみる。

 

「凄い嬉しそうだね龍牙君、当然だよね。だって大好きなお師匠さんだもんね」

「ああ、ああっ……凄い、凄すぎる……!!」

 

龍牙にとっての師とは単なる師というだけではない、目標であり父親でもありとても複雑だがとても大切な存在。そんな父がヒーロービルボードチャートで№3にランクインしたという事実は我が事以上に喜ばしい、目標が更なる高みに行ったというだけではない。父親の凄さがより多くの人に認められたという事にも繋がっている、あれが自分の師なんだ、あれが―――ギャングオルカなんだ!!

 

そんな思いで胸がいっぱいでなっているのかクリスマスで玩具を貰った小さな子供以上に瞳を輝かせている龍牙に皆は微笑ましい視線を向けているのだが、肝心の本人はそれらに全く気付いていない。葉隠に携帯を向けられてムービーを撮られているのにも全く気付いていない。

 

『―――葉隠ちゃん言値で払うからもっとこの龍牙君を頂戴、お願いもっともっと』

「当然ですよもっと撮るに決まってるじゃないですかこんな龍牙君滅多にみられませんよ」

『ぁぁっ……こんなに目がトロンとしててちょっと官能的なエロスを醸し出してる龍牙君……』

「何時もは何処か大人っぽい感じがするのに子供な感じが全開で幼い感じな龍牙君……」

「『た、堪らない……♡』」

 

何時の間にかそのムービーが通話でピクシーボブと共有され、何やら色んな意味でやばい事になっている事にも全く気付いていない。見えないだろうが完全に二人の瞳はハートになっている事だろう。因みに深夜、この二人はこの時の龍牙について熱く語り合っていたとの事。こういう時だけはすさまじく連携が取れている辺り恋のライバルというのは複雑なのだろう。

 

そんな龍牙へと注目が行きがちだが、TVでは遂にギャングオルカへとインタビューのバトンが渡された。その途端、龍牙は姿勢を正して正座をしてそれを僅かでも聞き逃さないような体勢を取った。先程の浮かれていた様子とは一変して良く見せる鋭い瞳、それは改めてギャングオルカと見比べてみると驚くほどによく似ていた。

 

「(似てて当然だよね、だって龍牙君にとってギャングオルカはお父さんでもあるんだから)」

「(そうか、あいつにとっては親父でもあるのか……見比べるとそっくりだな)」

 

それを理解している緑谷と焦凍はそんな龍牙を見て単なる師と弟子の関係などではない事を再認識する。そして始まっていくオルカの言葉に皆が思わず心を掴まれ、飲まれていた。誰もが抱き続けていた永遠の№1ヒーロー、オールマイト。それは唯の憧れではなく、余りにも強く焼き付いてしまった鎖のようでもあった。それらが認識を変えていた、それを求め続けさせていたのだがオルカはそれを打ち破るような言葉を放ち、オールマイトしか見ていなかったものさえも自らに引き込んでいた。

 

そして話は佳境へ、オルカは自らの弟子の事を語りだした。その時、龍牙は思わず立ち上がってしまった。

 

『俺には一人の弟子が居る、そいつが俺に力をくれた。俺の目的はそいつにバトンを渡す、そいつに次のヒーローの世代を託す事。その為に俺は力を尽くす、ヒーローとして―――ギャングオルカは此処からがスタートだ』

 

一人の弟子が居る、彼を育て、彼にバトンへ渡し次代のヒーローを託す。その為にギャングオルカは此処から始まっていくだと語るギャングオルカに皆が驚いた。龍牙が弟子であるのは周知だが此処までの熱意をもって育てているなんてことは全く知らなかった。次代のヒーローを託す、それはある種、別の物ではあるだろうがオールマイトのような平和の象徴にも等しい何かに成り得る事を龍牙に期待しているという事。それを聞いた龍牙は―――

 

「―――っ」

「お、おい龍牙お前泣いてるのか……?」

 

静かに感涙を流しながら凛々しい表情でオルカの言葉を重く受け止めていた。そこにあるのは唯の期待だけではない、自らに課せられる大きな責任も混在している。次の世代を背負わせるという事はそれだけの事、そんな男にならなければならないと龍牙の胸の中に何かが沸々と湧き上がってくる。

 

「―――俺は、俺はもっと頑張ります……師匠の、師匠のご期待に沿えるだけの男に絶対になって見せます……だから俺も……師匠を追いかけます……!!」

 

新たな決意が龍牙の中で燃え上がる、それらは彼を更なる高みへと連れて行く事だろう。


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