僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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―――黒龍と龍牙

「―――こ、此処は……!?」

 

意識が覚醒し、瞳を開けた龍牙を待っていたのは一面闇に包まれている世界。どこに瞳を向けたとしても何もない虚無の闇がどこまで続いており何がどうなっているのかも分からない。ただ自分の身体があり、それだけが明確に認識できる状態に置かれている感覚だけがあり理解出来ない不安が自分を蝕んでいくのだけが分かる。

 

「そうだ、脳無は!?」

 

不安の中でそれを振り払おうとするように脳無の事を思い出す、あれを何とかしないといけない。自分の中にある不明瞭だが自分が何とかすべきだというそれに従ってそれを探すが矢張り何もなく、何も把握出来ない。

 

「何だ此処は……何もない、何も感じない……完全な無……」

 

そうとしか言いようがない何かが漠然と広がっている、言葉にしようもない不安がこみあげてくる。恐怖と不安が混じり精神を食い破ってくるのを感じる、それらに飲まれようとする瞬間に目の前を何かを過ったのを感じた。何かがある、何か不透明で灰色をしたシャボン玉のような物が浮遊している。ここに来てから始めてみる闇以外の物にまるで救いを求めるように手を伸ばしてしまう、そして指が触れた時に何かが広がった。

 

 

 

―――ヒィッ!!?なんだこれは……悪魔、いや怪物!?

 

 

 

―――ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが龍牙をっ……!!

 

 

 

―――ヴィランだ早く通報しろ!!

 

 

「こ、れは……」

 

闇が入れ替わった、何処か僅かに灰色が掛かっているが全く別の景色へと変貌した。それは自らの過去、トラウマに等しい光景。自らが初めて個性を認識し全てが変わった始まりと終わりが入り乱れているあの日があった。親族の瞳、飛び込んでくる怒号に悲鳴、それらは見せつけられなくても脳裏に鮮明に焼き付いている。絶望が自分を飲み込んだ。

 

「俺の始まりと終わり……今思うとこれも全部、あいつのせいだったのか……」

 

オール・フォー・ワン。オールマイトによって砕かれた巨悪、過去に自分はそれと遭遇し個性の源であるドラグブラッカーを奪われてしまった。だがそれが切っ掛けとなって自分が望んできた個性を発現させた、その代償だと言わんばかりに自分に愛情を注いでいた親を奪い去った。交換にしては随分とふんだくられた気分になってくる。

 

―――懐かしいな、矢張りお前のオリジンはこれだったな。

 

顔を横に向けてみるそこには自分が立っていた、酷く愉快そうにだが興味深そうにしながら光景を見つめている自分の姿があった。言葉を失い見つめ続けている自分を見つめているとそれは口角を持ち上げながら、こちらへと向き直り挨拶をしてきた。

 

「ふぅん随分シケた面をするようになったな龍牙」

「俺がいる……!?これが噂のドッペルゲンガー……!?」

「……お前、よくこんな状況でそんな事が言えるな……」

 

と半場呆れているような声を上げるもう一人の自分、だがよく聞いて見ると目の前の自分の声は全く違う声だ。酷く低いが威圧感を帯びたそれは精悍な顔つきと鋭い視線を兼ね備えた男を連想させる、それが自分からしている。だがそれに聞き覚えは一切ない、一体何者なのか。それは気を取り直すように咳払いをしながら口を開く。

 

「お前は誰だ」

「俺は誰よりも近くにいた者、お前と共に歩んだ者、常に歩む筈だった者」

「ともに、歩む……筈……?」

 

具体的な事は言わずに抽象的な言葉で使うそれに眉を顰めるが、それらを聞いて一つだけ該当する物を思いついた。最初こそは根津やギャンクオルカを思い付いたのだが筈だったという言い回しからそれが消え、確信へと変わった。だがあり得るのだろうかという事が同時に過るが、過去を思うとそう可笑しくはない。この目の前の自分は―――

 

「ドラグブラッカー……なのか」

「そうだ、俺はお前がそう呼ぶ存在」

 

その言葉と共に目の前の自分の背後で黒炎が蜷局を巻いて咆哮を上げた。自分と歩む筈だった、元々自分の個性だったそれはオール・フォー・ワンによって奪われた、そして奴によって返された。故に共に歩んだ者。ならばドラグブラッカーしかありえない。それを聞き同時に少しだけ安心する、何故ならば今まで共に戦ってきた黒龍が目の前にいると分かったから安心したのかもしれない。だが同時に何故彼が喋っているのか、自分の姿を取っているのかは分からない。

 

「ドラグブラッカーなら教えてくれ、此処は何なんだ。俺は脳無と戦っていた筈なのに……」

「此処はお前の精神世界とも言うべき場所だ、重傷を負ったお前は一時的な昏睡状態へと至った。そして俺がお前を此処に招いた」

「昏睡状態って……」

 

あの必殺技の激突の直後に自分はそんな事になっていたのかと若干震えてしまうが取り合えず生きているようで安心する。まあ脳無との戦闘中にそんな事になっていたら邪魔になるだろうが……そしてある事を思う、何故ここにいるのかその理由である。

 

「ドラグブラッカー、何故俺をここに呼んだんだ。なんでこんなものを見せた」

「これが始まりだからな、一度見ておこうと思っていただけだ。さてと―――お前を呼んだ理由だが、聞いておくのが筋だと思っているからだ」

「筋……って何の」

「―――俺はお前を乗っ取る事が出来る」

「……はっ?」

 

唐突に知らされた言葉は自分の理解の範疇を超えていた、何を言っているのか理解出来ずに間抜けな声を出してしまう。乗っ取る、自分を、自分を支配できるという意味だろうか、それをドラグブラッカーが行うという事になるのだろうか。

 

「考えた事は無かったか、俺は10年の間あの巨悪と共に居た。俺には俺の意思がある、ならばその意思がオール・フォー・ワンによって支配されていると」

「……いや考えた事もなかったよ、俺は俺に力を貸してくれたし一緒に居たくれたし自分で自分を疑うなんてしなかった」

「ふぅんだろうな、お前はそういう男だ」

 

予想していたかのような言葉で返しながらもドラグブラッカーは真っ直ぐと自分を見据えてくる。つまり、ドラグブラッカーはオール・フォー・ワンの支配下にあり、自分を支配するように言われている。自分の意識が消えかけている上に自分は重傷を負っている。その隙に自分を完全にのっとってしまい支配しようという腹積もりなのだろうか……と僅か不安を抱いていると黒龍は言った。

 

「そうつもりだった、最初だけだがな」

「―――どういう事だ」

「林間合宿の夜を覚えているか」

 

覚えている、本格にドラグブラッカーと共に歩み始めてから迎えた初めての夜だった。満天の星空の下で見上げた夜空は酷く輝いて美しかったのを覚えている。そしてドラグブラッカーに有難う、これからも一緒に宜しくと述べた事も鮮明に。

 

「俺は巨悪に従うつもりだった、この世界を自由に飛び回り暴れまわるのも一興だと思っていた。あの時、お前に宜しくと言った。何を言っているのかと呆れた、だが同時に矢張りお前とあるのが俺としては心地良いというのも分かった」

 

あの脳無はドラグブラッカーの拠り所として生み出された特殊な脳無、ドラグブラッカーが核となって動かすには不適切であった為に単純に超高性能な脳無として運用されているに過ぎなかった。故にオール・フォー・ワンは作戦を変更し龍牙本人にドラグブラッカーを返し、支配する事にした。黒龍もそれに従うつもりだった。

 

「俺達は元々一つだった、だが巨悪によってそれは引き裂かれた、そして再びお前と一つになった時―――俺の居場所はお前にしかないと実感させられた」

 

ドラグブラッカーは静かに手を差し出してきた、その手を見つめて顔を上げてみるとそこには見つめて来ている瞳があった。龍牙はその瞳に込められている物を察したのか静かにその手を握った。

 

「―――龍牙、これからが俺達の始まりだ。あの時ではなくこれからがだ、絶望を希望に。あれらを消し去る、あれはあってはならない遺物」

「それを使って暴れようとしてた奴が良く言うなぁ……まあいい、お前がその気なら俺も手を貸してやる。その代わりもお前も本気で俺に力を貸せ」

「いいだろう、精々俺を失望させない程度には努力しろ。不甲斐なければ俺がお前を支配してやる」

「上等だ」

 

龍は龍牙の姿を解くと黒炎と同化して一体の黒龍へと戻る、そしてそれは龍牙の周囲へと移動しながら龍牙へと黒炎を包み込んでいく。そこにはいつも通りの龍牙の姿、恐ろしくも力強くカッコいいリュウガの姿が。

 

「これからが」

「本当の」

「「ビヨンド・ザ・リュウガ……!!」」

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