僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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広がる黒龍の名

九州における脳無との戦いは幕を閉じた、エンデヴァーを筆頭にヒーロー達が決死の戦いで異常なまでの戦闘力を誇るハイエンド脳無の撃破に成功。そしてもう一体のハイエンド脳無は重傷を負いながらも戦い続けた龍牙によって完全に沈黙し確保された。その後龍牙は意識を失った直後に全身から血を溢れ出させたので病院へと緊急搬送され、そこで入院し手術を受ける事になった。

 

そしてこの一件はTV中継が行われており新たな№1ヒーローエンデヴァーの門出として大きく取り上げられていた。エンデヴァー自身も大きな傷を負っての辛勝だった、故に人々は不安を口にもするがそれを大きく変えるような出来事もあった。一人のエンデヴァーファンの少年が叫んだ、何時までいない象徴の尾っぽを引っ張るのか、今戦ってくれているのは誰だ、そう中継スタッフに向けて叫んだのだと。奇しくもオルカの言葉に似通っているそれは人々の心を揺さぶって今の時代はエンデヴァーだと再認識させていた、そしてもう一つ、ニュースになっている事があった。それは―――

 

「よぉっ龍牙、身体はもう大丈夫か」

「手術の経過は良いみたいですし、リカバリーガールに治癒も掛けて貰いました。1週間もしない内に退院出来るそうです」

「流石のタフネス加減だな、見舞いに果物買ってきたから剥いてやるよ」

「すいません態々」

 

ベットの上で横になり続けている龍牙、そんな彼に気を利かせるようにお見舞いへと訪れた戦兎とミルコは彼へと持って来たお見舞いの品を置きながら龍牙が元気にしているようで胸を撫で下ろした。倒した直後に意識を失った彼を抱き止めたのは戦兎だった、その時の龍牙の重傷加減には愕然とした。よくもまあ動けたものだと呆れるしかないレベル。加えて全身がボロボロになっており、10時間越えの大手術を終えてまだ3日しか経過していないのにもう元気そうにしている。これも龍牙がタフネスお化けなお陰だろうか。

 

「にしてもお前ひっでぇ有様だな、折角のイケメンが台無しだ」

「顔にも攻撃食らってますからその辺りはしょうがないです」

「それよりお前右腕大丈夫なのかよ、脳無に潰されてただろ」

 

龍牙は布団の中にあった右腕を見せる、ギプスで固められているが確かにそこに右腕は健在なようで戦兎は安心したように胸を撫で下ろした。龍頭は圧壊こそしたが、逆にそれが腕を守る役割をしてくれたのでなんとか無事だった。それでもまだ古傷が増えたのか身体は酷く凸凹になっているようだが。

 

「寧ろその程度で済んで良かったってとこか、リカバリーガールの治癒でもそこまでしかもって行かなかったって事か」

「古傷で済んだなら十分ですけどね、古傷なら師匠に作られまくりましたから」

「いや笑い事じゃないでしょ龍牙」

 

事実、龍牙の身体にはまた新たな傷が増えていたが本人は余り気にはしていない。そんな反応に二人は肩を竦めるのだが戦兎は少しだけ悪い笑みを浮かべながら新聞を取り出した。

 

「龍牙、お前ニュースとか見たか、今凄い事になってるぞ」

「エンデヴァーさんが新しい№1として認められてるとかですか?」

「それもあるけどそうじゃねえよ、これを見ろよ」

 

戦兎が大きく開いた新聞の一面にはどうやって撮影したのか脳無へと最後の一撃が炸裂する瞬間が収められた写真が掲載されていた。しかもそれはエンデヴァーではなく自分であった、そしてでかでかと『次代を担うヒーロー、ドラゴンライダー・リュウガ!!!』と書かれていたのである。

 

「如何だ驚いた龍牙、お前も遂に全国的に超有名人って奴だな!!」

「まだ一部の週刊誌でしかお前がギャングオルカの弟子だって事は出回ってなかったけど今回の件が切っ掛けでお前が弟子だった事は最早周知の事実になったみたいだな」

「ありゃあ……でもまあ本当に何時撮られたんですかねこれ」

 

龍牙としては有名になったりなどは正直あまり興味はなく、オルカの弟子だという事も隠す気が無かったのでハッキリ言ってどうでもいい。聞かれたら普通に弟子だと名乗るつもりだった。新聞には自分に対する評価やら神野の悪夢の時の事なども含めて詳しく書かれたりもしている。

 

「まあ前に新聞で非難されたのと比べたらいい記事なのかもしれないですね」

「いやそれと比べてやるなよ、あの新聞社って確かもう潰れてるだろ」

「他の大手に吸収されてた気がする」

 

そんな肝心のドラゴンライダーは窓の外を見つめながら、本当の意味で漸く自分が立てたと思えた。黒龍と手を取り合えた、そして巨悪が残した物の一つを潰す事が出来たのだからある種満足に満たされる。そんな満足気な龍牙を見ている兄貴分の戦兎は内心で、どうやってミルコを振り切ってI・アイランドに戻ろうかと考えているのだったが……新聞の記事を見てある心配が頭を過ってしまった。

 

「……あ~龍牙、この前校長に聞いたんだけどエンデヴァーの娘さんと形だけのお見合いしたらしいじゃん」

「冬美さんとですよね、一応しましたよ。形だけの」

「形だけの見合いって何だよそれ、なんか訳ありっぽいから詳しくは聞かねぇけど」

「いやまあそれは良い、お前への注目度はこれから跳ね上がる。同時に厄介事も増えて行くぞ」

 

それは龍牙としても予感としてあった、恐らくあるだろうなとも思っていた。まあヒーローになるのだからその辺りも考えてはいた。

 

「大丈夫です、校長にその辺りの対応の仕方とか少しずつですけど教えて貰ってますので」

「先生が教えてるなら大丈夫か、まあ何かあったら直ぐに言えよ。力になってやるから」

「当然、俺もな。ほれ連絡先くれてやるよ」

「お前なんか頼ってどうにもならねぇだろ、寧ろ状況が悪化するだけだからやめとけ龍牙」

「ンだと戦兎ぉ!!?」

「ほら此処が病院だって事も忘れて騒ぎ出す位だぜ」

「ぐっ……」

 

病室としては非常に賑やかだがとても楽しげな雰囲気に包まれている空間は龍牙としては非常に嬉しかった。そしてあることを決める、唯立派なヒーローになるだけではなく誰かがこうして楽しく過ごせる時間を守れるヒーローになると心に誓うのであった。

 

 

「お兄ちゃんメール見てくれたかなぁ……いっそ電話すべきかな、でもまだ入院中だろうし……あっそっか根津校長さんに言えばいいのか!?」

 

 

―――風に乗って広まっていく黒龍の名前、その陰で新しい嵐が起ろうとしている事に彼はまだ気づいていない。


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