僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「―――これが俺の全てです、隠すつもりはありませんでしたが無暗に話す事でもありませんでしたので今までお話しませんでした」
本当の味方になってほしい、そんな願いの理由を話していく龍牙の言葉を流子は黙って聞き続けた。口を挟む事もなく唯、それに耳を傾け続けながら咀嚼して飲み込んでいく。彼女にとっては今まであった物を壊すような物を利かせる訳になるのだから龍牙も躊躇してきたのも分かるように時々頷くようにしながら。そして全て話し終えた時に流子は顔を影を作りながら握り拳を作っていた。
「すいません、流子さんの中にあったものを壊してしまったかもしれません。嘘は言ってません、これが俺の過去なんです。黒鏡 龍牙ではなく鏡 龍牙という存在の全てです」
何も言わなくなってしまった龍牙は殴られたり怒鳴られたりする覚悟はあった、ビーストマンとミラー・レイディのファンからしたら信じられないような事なのは自覚している。だがそれが自分の過去に会った真実であり事象なのである。それらが今の自分に至った経緯、それらが嘘だと揶揄されても自分はそれらを真実だと言い続ける。
「何よ、それ……あの、ビーストマンさんとレイディが……そんな……」
漸く聞こえてきた声、そこには到底信じ切れないという物に溢れている。流子としてはビーストマンとミラー・レイディは何処か憧れのような存在でもあった、理想のヒーロー夫婦としてあんな夫婦になれたら素敵だろうなぁと心の何処かで思っていた。そして龍牙の救出チームに数えられた虎にも二人が居たと聞かされた時には安心感さえ覚えていた。そんな二人がそんな事を……と、龍牙はこれは殴られるだろうなと覚悟をしていると静かに雫が落ちる音がした直後に流子は静かに顔を上げながら目の前の彼を抱きしめた。
「りゅっ流子さん……!?」
「何よそれ、何なのよそれって!?そんなのあんまりじゃない!!そんなの、そんなのって酷すぎる……ひどすぎるよぉ……」
抱きしめるというよりもまるで抱き縋るに近いかもしれない、心情的には龍牙を抱きしめて慰めたいのかもしれないが余りにも辛くて抱き付かないと崩れ落ちてしまうような声色に龍牙は困惑していた。
「そんなの救いがないじゃない、龍牙君だって個性が使えなくて苦しくて悲しくて、それでも平気だったのは支えて貰えてたからなのに……そんな人達からいきなり捨てられて、色んな物を否定されて……それなのに、如何して如何して……」
無個性と言われ、虐められて無視されて孤独を味わってきた。そんな龍牙の為に手を尽くしてきた両親がある日、望んできた個性が発動した時に両親だけではなく親戚からも見捨てられた。皮肉にもそれは巨悪から齎された望んできた筈の物のプレゼントだったのに同時に厄災を孕んだパンドラの箱だった。それらを聞いて流子は号泣せずにはいられなかった、あんまりじゃないか、救いがない。それなのにどうして龍牙は今こうしていられるのかと問わずには入れられない、彼は言った。両親を恨んでなどはいないと。
恨んでいない、というよりも恨むという事すら考えなかったと言った方が正しかった。あの日、龍牙という人間の中で時間が止まってしまったようにそこで静止してしまった。何もなくなった、唯々時間の中に身を置くだけだった。恨み、悲しさ、怒りという感情も虚無に飲み込まれて無くなってしまったのだ。仮に今、両親に復讐したいかと言われたら龍牙は迷いなくこう答えるだろう。
「自分の親は根津校長とギャングオルカです、二人に復讐なんて考えません」
そこに一切の淀みはない。彼にとって実の両親などは唯の血縁がある人間でしかない、その程度の認識しか持ち合わせていない。自分のとっての親は根津とギャングオルカと胸を張って答える。二人以外に自分の親などいないと言う。生みの親より育ての親、というよりも龍牙にとっては実の両親など血縁程度の繋がりしかない他人に過ぎないのかもしれない。
「だからって酷過ぎる……そんなの子供にする事じゃないよぉ……親なら子供を守るのが普通なのに何で……」
「もういいですよ流子さん、もういいんです」
「だって、だって……」
「もう俺の人生に泣かないでください。もう終わった事で済んだ事なんです」
過去は変えようはない、時間の流れは一定。それを覆して変える事なんて出来る事ではない、龍牙の中ではもう終わった事で完結している出来事の為に泣かないで欲しいというのが素直な願いだった。
「龍牙君……」
「俺今凄い楽しいですもん。師匠に鍛えられて校長に勉強教えて貰って、ばっちゃんとお茶飲んだりミッドナイトさんと優さんに連れ出されて服を見て貰ったり……今は雄英に通って友達もいれば俺の事をカッコいいって言ってくれる素敵な人にも巡り合えた」
過去なんてもうどうでも良くなるほどに今は堪らなく楽しい。雄英に通って友達も出来ればライバルもいるし自分の為に歩み寄って歩んでくれる人もいる。これほどまでに幸福な時間なんて今までなかったと思えるほどに充実している時間が詰まっている。
「俺の人生の為に泣かないでください、今は凄い楽しいんですから。最高です今の時間」
そんな風に笑って答える龍牙の表情は晴れやかで清々しい。澄み切った晴天のようだった、そこに悲しみや怒りなどはなく喜びと楽しさに溢れている、そんな顔を見せられたらもう泣けないじゃないかと流子は鼻を鳴らす。そんな彼女の涙を止めるようにそっと涙が龍牙の手によって優しく拭われる。
「流子さんにも俺は言い表せない位に感謝してます、有難うございます」
「―――っ……うわぁぁあああんなんでぞんなに龍牙ぐんはいい子なのぉぉおおお!!!」
嬉しさと恥ずかしさ、改めて惚れ直したなどなど色んなものが混じり合って顔が真っ赤になってしまった流子は龍牙の胸に顔を埋めて再び泣き始めてしまった。そして同時に誓う、この先どんなことが待っていても絶対に龍牙の味方で居続けるという事を。彼を支える一人になって見せる。
オチ要因として優秀なピクシーさんだけど、偶にはヒロインっぽい感じがあってもいいよね!!
尚、これからこんなヒロインっぽい場面があるとは言っていない。あるにしても滅多にない。オチ要因の方が多分性に合ってるから。