僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
遂に迎えた退院の日、漸く病院から出て自由に動ける日がやって来たと龍牙は念入りに身体を伸ばしていく。安静の為とは言えじっとしていた為か身体がボキボキとなりながら解していく、大分鈍っているのが自覚出来るのでそれを取り戻す為の事もしなければならない。後は受付の辺りで待っている付き添い兼護衛として流子と雄英に戻るだけ、必要なのかとも思うが断る理由もないし素直に好意は受けておく。手続きもしてくれるという事なので感謝しながら荷物を纏め終わろうという時、携帯が鳴ったので見てるとそこにあったのは白鳥の名前、通話ボタンを直ぐに押した。
「もしもし、如何した白鳥」
『あっお兄ちゃん今大丈夫?今日退院だって聞いたんだけど』
「ああこれから退院する所だ、後は帰るだけだ」
『それじゃあちょっと話しても大丈夫?それとも掛け直すのを待った方がいい?』
「いや大丈夫だ、それで何で掛けてきたんだ?単なる退院祝いって訳でもないんだろ」
『……うん正解』
既に荷物は纏め終わっているような物、流子からはゆっくり準備を済ませて良いからと言われているし少し時間電話で時間を取っても大丈夫だろう。そして妹は何故自分に電話を掛けたのかを尋ねると、何処か神妙な声を出しながら切り出してきた。
『お父さんとお母さんが慌ただしくなってきてるの、お兄ちゃんの活躍が如何にも凄い気になってるみたいだよ。まあ嬉しいって感じではなさそうだけどね、私は凄い嬉しいよ。お兄ちゃんの背中を追いかけるつもりでいる身としては遠くに飛ばれた感じだけど』
「お前も翼があるんだから飛び立てばいいさ、何自分の道を飛べばいい。他人に言われて変えるのは飛び方とペースだけでいい」
『ありがとね、それでお父さん達が気にしてるのはこれからの事。お兄ちゃんに対する取材で自分達に対する話題が出た場合にどんな対応をするかを気にかけてるって感じ』
興味を引くというよりは危機感を持っていると言った所だろうか、自分から関係が漏れる事を危惧している。自分としては話す気はない、みだりに話すような内容ではない。そもそもそんな質問をしてくるかという疑問もあるのだが白鳥はヒーロー界隈で話題になっている噂を持ち出してきた、それはホークスも耳に挟んでいる物で黒鏡 龍牙は鏡家と何らかの関り、いや血縁があるのではないかという噂がある。
「そう言えばホークスさんもそんな事を……」
『元々黒鏡っていう名字からして関係があるんじゃないかって言われたりしてたからね、それに加えて体育祭とかでもお兄ちゃんの個性とかを見てお父さん達との関係性を疑っている人は結構いたみたいだけど、最近になってかなり信憑性がある噂になってるみたい』
名前だけではない、個性についても龍牙とも関係性は深いとしか言いようがない。ビーストマンの個性、干支。ミラー・レイディの個性、反射。それらを複合したような個性を宿す龍牙に対する注目は日に日に大きくなるにつれてこの噂に対する調査などは増えて行った。体育祭においてそれらを見せている事でそれらを用いて研究もされている。ビーストマンが唯一使えない干支の龍とミラー・レイディの反射、それらが龍牙との関係を強く匂わせる。
「成程、でもあくまで噂程度でしかないんだろ。確証はないんだからそこに辿り着けないだろ」
『そうとも言えるんだけど噂でもこれはかなり有名な話になりつつあるから記者が興味本位で質問するのも時間の問題だと思う、反射は私も出来るけど私は全然使わないから余計にかな』
「俺だって滅多に使わないけどな」
遅かれ早かれ世間の注目がそこに注がれる事だろう、それを鏡夫妻は気にかけている。早急に自分と話を付けて話さないように交渉する、可能ならば―――
「俺が鏡 龍牙に戻る、それを望んでいるとかか」
『私はそれもあり得ると思ってる。お父さんとお母さん、いや親戚とか全てを含めるとそれが確実に穏便に終わらせられる手だと考えると思う』
「確かにありそうだ、確実だな」
ある意味それを一番に望む事だろう、自分が黙るよりも確実。逆に自分へと向けられている評価や評判さえも飲み込む事も出来るからいい事尽くめだろう。そちら側にとってはそうだろう、だが龍牙にとってはマイナスでしかない。
『答えは分かり切ってるけどお兄ちゃんってその気ある?』
「逆に聞こうか妹よ、あると思うか」
『皆無だと思いま~す』
「正解だ、〇上げよう」
『わ~い』
軽いやり取りだが簡潔に言えばない、それに尽きる。龍牙にとってはもう過去の事は過去で決着がついている、だから出来る事ならばもう関わり合いになんてなりたくはない。決着がついたと言ってもトラウマである事には変わりない、あの出来事は無くす事は出来ないし
「俺は今の俺に誇りを持ってる、黒鏡 龍牙っていう今の自分にな。校長や師匠に色んな物を貰って育ってきた今が好きなんだよ。昔に戻って事はそれらを捨て去れって事になるんだよ、同時に過去に俺にした行いをチャラにしろって事でもある」
『虫が良すぎって話だよね』
「そういう事、だけど―――そうだな、一度話はしておくべきかもしれないな」
最後の荷物を鞄へと突っ込む、そして同時に戦兎が傷を隠すのにとくれた多機能内蔵サングラス型モニターを手に取って電源を入れて思う。過去は気にしないと言いながら自分は過去から背を向けているだけではないかと、決着を付けずにそこから眼を反らしているだけ。キッチリ話を付けて、終わらせるべきだと思う。そしてそれを装着しながら白鳥に向けて言った。
「伝言を頼めるか」
『お父さんとお母さんにって事だよね、何を言えばいいの?』
「―――その気があるなら来い、俺はその気があるって」
『分かったよお兄ちゃん、私は何があってもお兄ちゃんの味方だから。私ブラコンだから』
「自分で言う事かそれ」
『お兄ちゃん大好きっ子ですから』
「困った妹だな」
最後に有難うと言ってから龍牙は通話を切った。そして荷物を担ぎ上げて―――病室を出る。
「(俺はアンタらが思ってるような男じゃない、好い加減ケリを付けよう)」