僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「僕が全部相手してあげても良いんだよ、そもそもこの話し合い自体がメリットが無い」
「ありますよメリット、俺の自身の手で過去に決着をつける。それに一々逃げたら克服なんて永遠に出来ませんよ父さん」
「そうか、そうだったね。僕としたことが甘やかしすぎちゃってたかな」
「それだけ俺を心配してくれてたって事でしょ、それだけで嬉しいですよ」
雄英へと戻ってきた龍牙、彼は数々の質問攻めを乗り越えた後に自室に戻ると早めに就寝して翌日に備えた。そして朝を迎えると根津の元へと出向き共に朝食を取った後、時間になったので応接室へと足を向かわせる。共に向かう最中に根津が授業を休んでまで話をしなくても良いというのだが龍牙に中止するという選択肢はないと断言して足を進め続ける。そして応接室の前に到着するとそこには戦兎とヴェノムがスタンバイしていた。
「俺とヴェノムは別室で様子を窺ってますよ先生。いざって時はトリガーを切ってでも出て行きますから」
「校長よぉ、俺は別に龍牙と融合してても構わないぜ。その方が楽だし確実じゃねぇのか?」
戦兎とヴェノムは確実に味方、応接室には前以て戦兎お手製のマイクとカメラが仕込んであるのでいざという時の証拠の確保にも抜かりなどは存在しない。加えてミルコも既に別室にスタンバっている。戦兎は無用だと言ったのだがミルコがどうしてもというので根津が了承したので渋々受け入れた。ヴェノムの申し出に龍牙は感謝するが要らないと断る
「これからするのは話し合いだ、向こうがその意思があるなら俺もそれに応えるの筋。でもまあいざって時は頼むよヴェノム」
「……そう言うならしゃあねえか、何かあったら直ぐに出るからな」
「んじゃ先生、俺たちは待機してますんで」
「宜しく頼むよ。何事もないのが一番なんだけどね」
根津としては話し合い自体に反対しているが、息子の意思を尊重する形で今回の場に応接室を貸した。過去のトラウマを悪戯に刺激する事にもなるし、何より自分が彼らを気に入らないのもある。だが龍牙は大丈夫だと言いながら深呼吸をしながら扉を開けた。そこには正装に身を包んだ鏡 獣助と鏡 乱の姿がある。二人は龍牙の姿を見ると立ち上がろうとするのだが、根津の姿を見ると冷静さを取り戻すように咳晴らしをして座り直した。
龍牙は根津が入ってから扉を閉めると共に席へと着いた。真っ直ぐと龍牙は一切目をそらさずに目の前の二人を見つめた。ギャングオルカ譲りの鋭利な刃物のような冷たくも鋭い雰囲気に思わず二人は息を呑む。
「さて。ビーストマンとミラー・レイディ、今回はどのようなご用件でしょうか」
「そんな言い方はやめてくれないか、その気があると言ってくれたのはそっちじゃないか」
「ええ、話し合いに応じる気はあると確かに言いました。ですが何の話をするかは全く知りませんので」
敢えて惚けて見せる、龍牙としては理解している。前以て白鳥からこの二人の思惑は聞かされている。その言葉に二人は改めて呼吸を整えるようにしながら言葉を紡ぎだす。
「龍牙、私達がお前にした事が許される事ではないなんてことは承知している。心から、本当に申し訳ないと思ってる。だから私達にチャンスを貰えないだろうか、もう一度家族としてやり直す機会を」
「家族、として」
根津はそれを聞いていまさら何を言い出すだと吐き捨てたくなってきた。だがそれらを面には出さずに静かに紅茶を口へと運ぶ。
「私達が本当に愚かだった、親は子供を守るべきだったのに私たちはそれを放棄した。貴方にも辛い思いをさせたという事分かっているし私達が憎いのも良く分かってる、でも分かるでしょ。私達は血の繋がった家族なの、分かり合えない訳なんてないの。親子として繋がってる、だからもう一度一緒に過ごしましょ、ねっ?」」
涙目ながらに訴えるミラー・レイディ、何処か悲劇のヒロインのような声色と反省の色を前面に押し出しているかのような姿だがそれらを見ても龍牙の表情に一ミリの変化もない。唯々静かにそれを聞き続ける、サングラスの奥にある瞳が如何なっているのかも彼らには伝わらない。
「この前の九州でのことも知ってるの、貴方の事で私たちは胸が締め付けられるような思いだったの。だからお願い、私達に貴方を守らせてほしい。白鳥だってきっとそれを望んでるわ」
「頼む龍牙、虫の良い事だって事は分かってるがもう一度親として俺達を認めて欲しい」
そう言って二人揃って頭を下げる姿を龍牙は見下ろしながら、根津と同じように紅茶を口に運んだ。此処まで神妙且つ心からの反省と親子の情に訴えかけるような事が続いているのだが、龍牙としてはどう思う事だろうか。分かり合える、守らせて、望んでいる、様々な言葉が出てくるがどれも龍牙の心を一切揺さぶらない。
「敢えて僕からは何も言わないさ、さて如何したいかは君自身で言葉にするといいよ」
根津からの言葉に一筋の希望のような物を感じる二人、顔を上げながら再び龍牙を見つめる。すると龍牙はサングラスを外しながら、傷が入っている顔を見せ付けながら口を開いた。
「何を言うかと思えば……何も俺を理解してないのが良く分かった、まず俺は全然辛い思いなんてしてない。それすら感じる事もなかった」
「何を、言っているの?」
「守らせて、ヴェノムの一件じゃ俺を守る所か逆に最初に無力化されてたのに」
本気で呆れているような瞳を向けながら龍牙は溜息を吐いた、決着を付けなければいけないのは分かっていたがこうも自分の事を勘違いしているとは思っても見なかった。二人は如何やら自分がまだ心の何処かで親だと思っていると考えているらしい、だが自分はそんな事は一切思っていない。
「白鳥が望んでる、望んでないよ。あいつはそんな事」
「そんな事ない!!あいつは妹としてそれを望んでるに決まってる!!」
「いやもう妹として接してるから、普通に兄妹としてやってるから」
心配されずとも妹とは既に上手くやれている、今から自分が鏡に戻ったとしても白鳥はきっと対応を変えないだろう。今も変わらずに自分を兄と呼んでメールやら電話を寄こしたり、訓練に付き合って欲しいと声を掛けてくる。
「俺の親は根津校長とギャングオルカだけ、貴方達は俺にとっては血縁があるだけの他人だ」
「龍牙お前なんて事……!!」
「俺にとってはそれぐらいなんだよ貴方達なんてね。親として認めて欲しい、違うだろ。俺の口から捨てられたって事が漏れるのを恐れてるだけだろ」
二人の顔が凍り付く、矢張り本当の目的はそれかと根津もため息が漏れた。そして龍牙は再びサングラスを掛けると戦兎からのメールを受信する。モニター内部へとそれが投影されて内容を読んでみる。
『龍牙、殴り込んでいい?』
という簡潔な物だった、取り敢えずそれはやめて欲しいので手をひらひらと振っておく。戦兎から分かったよ、若干不貞腐れたようなメールがすぐに飛んできた。
「俺が望むのはアンタらとの完全な絶縁、二度と俺に関わらないで欲しい。それを約束してくれるなら俺は何も話さない」
「俺たちは何を根拠にそれを信じればいいんだ」
「自分達で言った親子の繋がりって奴を信じればいいんじゃないの」
根津は龍牙にしては中々なきつい言葉の返しで気まずい顔をする二人に少し胸がスッとする。何処までも納得しないといった表情をする二人に龍牙は溜息混じりに言う。
「ならこうするか、俺を守れるって言ったな。校長と師匠以上に俺を守れるって証拠は何処にある。俺からすれば信じられる要素なんて欠片もないんだよ。簡潔に言えばメリットが無いんだよ、俺にとって」
「メリットって貴方、家族を何だと……!!」
「まあまあ落ち着きなよミラー・レイディにビーストマン、君達ちょっと興奮しすぎだよ」
温和な言葉を投げかけながら牽制してくる根津を思わず二人は睨みつけてしまった、それを軽く受け流しながら根津は親として龍牙に言う。
「なら龍牙、二人に示して貰おうじゃないか。僕とギャングオルカ以上、最低でも同等に君を守れるって証明を」
「例えば?」
「そうだね……これから龍牙 VS ビーストマン&ミラー・レイディで戦って貰うって言うのは如何かな」
それを聞いて龍牙はいいですよ、と快諾した。まるで負ける筈がないという確信があるように、それは同時に二人のプロとしてプライドを傷つけて戦意を煽っていく。二人は根津が思った以上に容易く乗ってくれた。
「龍牙が勝ったら完全な絶縁、その場合でも口外はしないと約束はする事。そちらが勝ったらそうだね……お父さんとお母さんと呼んである程度の復縁はしてあげたらどうかな」
「それでいいですよ俺は、そちらは」
「構わない、それでな」
「負けても泣かないでね龍牙、これも愛の鞭よ」
「それはそれは―――師匠ほどに痛い鞭なんてないと思いますけどね」
無理矢理感かもしれないけど、対決実施。