僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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戦い―――終わる黒龍

「この、決まれえええ!!!」

『ゴアアアアアアアアア!!!!』

「なっまた来た!?」

 

運動場βでは戦いが繰り広げられている、高々と跳躍したビーストは翼を広げながら急降下して刃のように飛び出した牙と爪で龍牙を切り裂こうとギロチンのように降りてくるがそれを真横から吹き飛ばすようにブラックドラグランザーが突進しながらビルの外壁へと押し込んでいく。

 

「離せ、この化け物がぁ!!」

『ゴアアアアアアア!!』

「くそなんて力……!!」

 

鋭利な爪をビーストの全身に食い込ませるようにしながら外壁へと押し付けていく黒龍は更に力を強めていく。眼下ではレイディがタイマンで龍牙と戦っている、本気だと豪語していた二人は確かにプロヒーローに相応しい力を発揮していくが龍牙を甘く見過ぎていた。龍牙の最強形態であるビヨンド・ザ・リュウガ、それは脳無との戦いで新しいステージへと立っている。龍牙ですらその全貌を全て理解している訳ではない、最高速度が一体何キロなのかも分からないが龍牙は迷う事無くアクセルを踏み続けてギアを上げ続けている。

 

「貴方っ!!くっ!!」

「よそ見してる暇があるといいなぁ!!」

 

レイディは迫ってくる龍牙の攻撃を巧みな技術で捌きながらも自らへのダメージを最小限に抑えていく、同時に相手へと連撃を加えて行くのだがそれらを受けても龍牙は怯まないどころかさらに前へと迫ってくる。強固な鎧と龍牙自身の耐久力に柔と手数のレイディは極めて相性が悪い。

 

「ドラゴン・スマッシャー!!!」

「ちぃぃぃっっ!!!」

 

目の前でオールマイト並みの腕へと巨大化した一撃が迫って思わず舌打ちをしながら、レイディは防御と回避を両立させる体勢を取る。攻撃を捌き自らの身を守りながらも後方へと飛んで距離を取る動きだが、龍牙のそれは受け流す事が出来ずに左肩へと直撃してしまい、大きく吹き飛ばされてしまう。

 

「キャアアアアアアアッッ!!!な、なんて威力……骨が、軋むみたいだわ……」

 

捌ききれなかったとはいえそれでも後ろに飛んだのが功を奏した。ある程度、ダメージを抑える事が出来たが身体の内部へと浸透するような深い痛みが貫いてくる、そして反射を試みる。レイディの捌きの技術は攻撃を受けなければ反射出来ないというカウンター性能を高める為でもある。だが―――目の前へと出来た鏡は既に崩壊寸前であり龍牙の姿が移った瞬間に粉々に壊れてしまった。

 

「駄目、威力がありすぎて私じゃ反射出来ない……!!蓄積してからの放出反射も駄目、ダメージがどんどん溜まって直ぐに限界に……!!」

 

ダメージが許容量を超えてしまうと反射出来ないというのが反射の欠点、それを補う為の捌きの技術。それでも自身へのダメージを抑えきれない龍牙の攻撃能力にレイディは寒気を覚えつつも距離を取るためにレッグホルダーに入れてあった三節棍を取りだして構えを取るが、一撃を放った龍牙は拳を見つめている。

 

「……まだ上げられるな、それに今の感覚、成程こんな応用も出来るのか……試してみるか、ブラッカー!!」

『ゴアアアアア!!!』

 

ビーストを完全に押さえ込んでいるブラックドラグランザーから黒炎が飛来する、それは龍牙の巨大化していた右腕と融合していく。そして腕は元の大きさへと戻っていたが、そこには全く別の物があった。それは一体の龍が炎を吐く為の予備動作をしているのを思わせるような砲塔。

 

「た、大砲!?貴方そんなことまで……!?」

「シュート……いやバスター……どっちもいいかこの際、後で踏陰に相談して決めよう」

 

龍牙ですら両手で保持するような巨大な砲塔、ミニガンを構えるような体勢になりながらも龍牙は深く腰を落とし地面を踏みしめながら引き金を引く。同時に龍の咆哮が轟き、轟音と共に黒炎弾が放たれる。

 

「はぁぁっ!!!」

 

迫ってくる砲弾のような黒炎を棍で弾き飛ばすように振るう、だが黒炎弾の威力とスピードは想像以上だったのか振り抜く事が出来ずに方向を反らすのが精いっぱいでそれは周囲へのビルへと飛来して大爆発を起こした。その轟音と崩れるビルの一角を見て威力を察したのか顔色が悪くなる、そして龍牙は一撃の反動が想像以上だったのか大きく体勢を崩していた、その隙を見逃がさずにレイディは一気に接近していく。

 

「覚悟しなさい、龍牙!!」

 

渾身の力で振るわれた一撃は龍牙の首元へと炸裂する、同時に棍の名部に仕込まれていた機構が発動して衝撃と振動、そして電撃が龍牙を揺るがした。これらで多くのヴィランを無力化してきた、幾ら龍牙とて利くだろうとレイディは思っていたのだが―――

 

「……流石に電撃は少し痛いな」

「っぜ、全然効いてない!?」

「―――俺の師匠、ギャングオルカだぞ」

 

短い言葉を放つと龍牙は砲塔の銃口をレイディへと押し付けた、さらに腕と足に力を込めてトリガーを引いた。放たれた黒炎弾はレイディを包み込んで炸裂し地面を抉るように吹き飛んで行った。予想外の反動だったが一度経験すればより強い力で抑えつけてやれば問題なんて起きない。

 

「がぁっ、あぁぁっ……」

「ラァァアアアアンッッ!!!離さんか、この化け物がぁあああああああああ!!!!」

 

ビーストは妻が炎に包まれ、爆炎が爆ぜた瞬間を目にして狂ったような声を上げながらドラグランザーからの拘束から抜け出して渾身の力で殴りつけた後に妻へと駆け寄った。

 

「おい確りしろ乱!!大丈夫か!!?おい!!」

「だ、大丈夫、何とかだけど……駄目、やっぱり反射出来ない……!!」

 

身体のあちこちにまだ残っている黒炎を必死に消そうとしているビーストとなんとか反射を試みるが、鏡を出現させる事さえも出来ないレイディ。そして自分の妻に此処までの事をする龍牙へと怒りを込めた視線を送るが、その龍牙は巨大な砲塔を振りまわしながら地面へと置き、背後にドラグランザーを控えさせながら此方を見つめ続けている。

 

「如何した、白鳥の方がよっぽど善戦してたぞ。あいつの方がずっとガッツがあった」

「貴様っ―――化け物めっ……!!!」

「それに散々化け物だとか言ってるけど、こいつはもう一人の俺だ。つまり俺も化け物って事だな」

 

コンコンとドラグランザーを叩きながら言葉を紡いでいく、自分とやり直したいとあれだけ言っておきながら結局自分に向ける目には怒りが浮かび平然と化け物と呼んでいる。親子としてやり直す気なんて皆無、向こうからすれば唯のヴィランと戦闘しているに過ぎないのだろう。

 

「結局アンタらは俺とやり直す気なんて皆無だったって事だ、化け物と呼びたいなら好きにすればいい。だが今の父さんたちは俺の事を一度も化け物何て呼んだ事は無い、怖いとも言わなかった」

 

目の前の彼らはやっぱり自分の思っている通りだった、親子としてやり直した何てまやかしの大嘘だ。今のが本音だ、人間の本性は危機に出るというが本当らしい。だがこれで自分もすっきりした、自分の中にあったしこりのような綺麗になくなった気がする。その時、黒龍から声が聞こえる。酷く呆れたような声が。

 

『何も変わってなどいない、こいつらの本質は10年前から何も変化などしていない。分かっていた筈だろう。何故奴らと話す気になった』

「(ケジメって奴だよ、それにこうしておいた方がハッキリするだろ―――色々と)」

『面倒な生き物だ、人間は』

「(その人間から生まれた存在が良く言うな)」

 

そして龍牙曰くバスターベントを黒龍へと投げる。それは黒炎となってドラグランザーへと吸収されていく、咆哮を上げる黒龍は唸り声を上げながら夫婦を睨みつける。黒龍はきっと黒炎で逃げ場を完全に絶ったうえで踏み潰したい、つまり必殺技をぶつけたいのだろうが龍牙としてはその気はない、もう完全に気はすんでいる。

 

「次で最後だ、ビーストマン。ドラグランザーに勝てないアンタじゃ俺にも勝てないからな」

 

既にレイディは動けない、ならば最後の締めに一撃で決めようと龍牙は右腕に龍頭を出現させながら巨大化させていく。次第に黒炎が溢れ出していく右腕が染まり、燃え上がっていく。それを見ると心から震えた、恐怖が全身を包み込んだ。一歩一歩と迫ってくる龍牙と黒龍に恐れを抱いた。

 

「あっぁっ……!!」

 

それでも黒龍は止まらない、脚を止めずに後退っていくビーストマンを射程範囲へと収めると深く足を踏みしめながら腕を振り被った。それはビーストにとっては終わりの一撃だった、これを受けたらどうなるのだろうかと。

 

「ま、まっ……!!!!」

 

ド ラ ゴ ニ ッ ク ブ レ イ ク ス ト ー ム イ ン パ ク ト

 

<DRAGONIC BREAK STORM IMPACT(ドラゴニックブレイクストームインパクト)!!!>

 

「参ったぁっ、参ったぁぁあああっっっ!!!!!」

 

悲鳴にも絶叫に取れるそれが運動場βに木霊する、それ以外は何も聞こえずに静寂が周囲を支配する。その中心地では鼻先数ミリと言った所で黒炎が僅かにビーストマンの顔を焼くようなところで龍牙の腕が静止していた。そしてゆっくりと腕を引き戻した。それを見たからか崩れ落ちていく、獣を見ると黒龍は静かに鼻を鳴らすとバイク形態へと変形すると龍牙に乗れと静かに唸った。

 

「約束通り、これで完全に絶縁だ。終わりだ―――じゃあなお二人さん」

 

そう言うと龍牙は変身を解除してブラックドラグランザーに跨るとそのまま二人の横を走り抜けて去っていく、それをビーストマン、獣助は唯々見送る事しか出来なかった。完全な敗北、手も足も出なかった事実が唯々重く圧し掛かってくる。妻と共に負けないという自信があった、確信めいた物があった―――だがそれは龍牙には全て通じなかった。唯時間を重ねただけではなかった―――その事に深い絶望を感じながら獣助は荒い息をする妻に一言だけ、言葉を漏らした。

 

「―――情けないな、俺達って……」

 

 

決着をつけ、βから出た龍牙を出迎えたのは満面の笑みを浮かべて自分を抱きしめながら褒める戦兎、頭を力任せに撫でながらいいぞよくやったと笑うミルコ、良い見世物を見れたと満足気に笑っているヴェノム。そして―――

 

「お疲れ様龍牙、疲れたかい?」

「いえ、全然大丈夫ですよ父さん」

「そっかそっか、お帰り龍牙」

 

子供に言葉を掛けてあげる優しい父の姿がそこにはあり、龍牙は笑顔でそれに応えた。


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