僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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温もりを感じる黒龍

「いやぁ傑作だったな!!参ったぁ、参ったぁぁぁっっ!!だってよ、あのヴィランを追い詰める猛獣って言われるビーストマンがよ!!もう笑いすぎて可笑しくなるかと思ったぜ!!」

「本当に痛快爽快だった!!殴り込むのを我慢した甲斐があったってもんだ!」

 

校舎の一室、応接室へと戻った一同はそこで龍牙に対する話で持ちきりであった。あの夫婦との戦いは全員が見ていたが正しく圧倒的だった、あれほど事情を知っているだけに気分も良くなるという物。それは嘗て嫌な思いをしたヴェノムも同じだった。それに関しては彼が悪いのだが……。

 

「一番殴り込みそうになってたお前らが良く言うな、戦兎お前なんかミルコが殴りに行こうぜ!!って言ってたのを止めるどころか一緒に突撃しそうだったじゃねえか」

「おいバカ龍牙には秘密だって言っただろヴェノム!!?」

「戦兎さん、貴方……」

 

実はあの時のメール、マジで殴り込みに行く5秒前だったりした。だがそれをヴェノムが勝手にすればいいけど行く前に龍牙に一言掛けて許可を求める方がいいだろと諫めた結果としてメールを送っていた。戦兎はミルコを止めるどころか一緒になって額に青筋を作りながらドライバーにトリガーを接続してボトルをセットする所まで行っていたのである。

 

「ミルコさんにヴェノム、戦兎さんっていう組み合わせでヴェノムがストッパーになってるんですか。普通に戦兎さんでしょ」

「いやまあ、その、俺だって頭に来たんだよなあミルコ!?」

「おうよ、あんな戯け夫婦なんか蹴っ飛ばすのが普通だろ!!」

「お二人とも冷静に考えてください、ヴェノムに諫められてるんですよ。基本脳筋で自由奔放なこいつに」

「余計なお世話だ」

 

と二人は思わずソファに座りながらお茶菓子のチョコを頬張ってるヴェノムを見る、ミルコも何方かと言えばヴェノム側だろうがそれでも戦兎に近い立ち位置。そして一番理性的で常識人枠な筈の戦兎が一緒になって殴り込みをかけようとしていたのである、龍牙としては呆れるしかない。しかも、明らかに戦兎の最高戦力を持ち込もうとしていた気満々な状態で。

 

「戦兎、君そんな事を……龍牙の事を真剣に思ってくれるのは僕としては嬉しい限りだよ。でも流石に君は冷静にいてくれると思ってたよ、急に龍牙が手を振った時に連絡が来たとは思ってたけど……」

「いや本当にすいませんでした先生、俺としたことがこいつに乗せられて……」

「なんでだよ!?お前だってあの馬鹿夫婦が調子こいてた時、血管ピクピクでガチギレ寸前だったじゃねえか!!」

「そもそもが俺はあの時はまだギリギリ冷静だったわ!!お前が行こうなんて言うからそれについ乗っちまったんだよ!!」

「いや乗ってる時点でアウトですよ戦兎さん、後ミルコさんもアウトです」

「「……すんませんでした」」

 

二人して小さくなりながら謝罪する姿にヴェノムが爆笑しながらチョコを頬張る、笑うそれ今すぐに叩き潰してやりたくなったのだがなまじヴェノムは唯一自分達をセーブしたストッパーなので何も言えずに悔しそうに拳を握る。

 

「これも傑作だな、世間的にはオールマイトにも並ぶ平和貢献の博士とトップヒーローの一人が自分から馬鹿やらかしてそれを高校生に言われて反省中なんだからな!!」

「黙れヴェノムゥゥッ……!!」

「今すぐお前にフェニックスロボで突撃してやろうか……!!」

「これ以上馬鹿やらかしたら確実に龍牙から失望されんぞテメェら」

「「ぐぬぅ……」」

 

改めて小さくなった二人を見て根津は笑いがこみあげると共に嬉しくなってきた。本当に二人は龍牙の兄と姉のようじゃないか、龍牙の為に此処まで怒りを露わにして激情に任せてしまいそうになるほどにまで龍牙を思ってくれた。その行動は結果的には愚かかもしれないがそこに込められている思いだけは純粋で尊い物だと分かる。

 

「いやまあお二人の気持ちは有り難いですよ、嬉しい限りです。でも流石にヴェノムに言われてメール送って許可取って、その後にあの不貞腐れたようなメールないです」

「おい何で戦兎が不貞腐れてたの分かんだよ!?」

「誰でもわかりますよ」

 

マジかぁと天を仰ぎながら戦兎にこりゃハズいな、とミルコは戦兎に同意を求め思わずそれに頷いてしまう。そして直後に戦兎はハッとしながらミルコを一発叩いた。

 

「お前も言ってんじゃねぇよ馬鹿ミルコ!!」

「今日に至ってはお前も馬鹿だぞ、お前流で言えば馬鹿戦兎だぞ」

「ヴェノムに馬鹿って言われるなんて……」

「おい如何いう意味だ」

 

弟が可愛くてしょうがない年の離れた長男(戦兎)と長女《ミルコ》、そしてそんな弟とほぼ同い年の次男(ヴェノム)と言った感じだろうか。いや悪友かもしれないがそれでも龍牙に近い立場なのは確実だろう。血縁者である両親にはあのような事を言われ既に縁は絶たれた、だがこれほどまでにも素敵な人たちが傍に居て自分の事を思ってくれる。そんな空間に龍牙は嬉しさを感じて少しだけ目を潤ませてしまった、それを察した根津からハンカチが手渡される。それで拭いつつも龍牙は笑顔を浮かべる。

 

「だぁっははははは!!!せ、戦兎お前今馬鹿って言われてたぞヴェノムに!!あの短略的で脳筋のヴェノムに!!」

「煩いんだよ馬鹿ミルコ!!お前だって同類だろうが、お前だって十分にヴェノムと同類だ!!」

「んだと戦兎、俺はこいつみたいに馬鹿じゃねえぞ!!」

「一緒にすんな馬鹿戦兎!!」

「「「上等だ表出ろ!!」」」

「やるならせめて運動場βでやってほしいね、今日と明日はあそこを使う予定無いから」

 

そう言われると三人はそのまま運動場βへと向かって走っていた、今からビルド VS ミルコ VS ヴェノムの三つ巴の大喧嘩が始まると思うと見たいような気もするが恐ろしくて見る気もしない。取り合えず手を振って見送った龍牙は溜息を一つ零し、紅茶を啜る。

 

「父さん、俺寮の部屋に戻るよ」

「分かった。ゆっくり休むんだよ」

 

そう言って去っていく息子を根津は黙って見送られた、龍牙は黙って沈黙を維持したまま寮へと戻った。まだ皆は戻って来ていないのか静かだった。そのまま自分の部屋へと戻るとベットに腰掛け、天井を仰いだ。そのまま何も語らずに沈黙を守り続けてどのぐらいの時間がたっただろうか、そんな時に龍牙が呟いた。

 

「昔、俺が感じてた物って何なんだろうな……」

 

小さい頃、自分は本当にあの二人からの愛情を感じていた。それは覚えているしあれは本当だったと分かっている、だが先程の空間でも深く暖かみのある温もりを感じていた。戦兎やミルコの自分に対する思い、ヴェノムの心配なども酷く心地よかったしあの場の喧嘩も見ていて楽しささえあった―――昔以上に温かった。ならば―――自分が依然感じた者は結局何だったのかとさえ思い、少しだけブルーになってしまう。

 

そんな時、ドアをノックする音がした。龍牙は立ち上がりながら扉を開けてみるそこには―――

 

「来ちゃったよ龍牙君♪えへへへっ」

 

素顔を可愛い笑みで染めている可憐な葉隠が自分に笑いかけていた、今はその笑顔はとても嬉しく感じられた。




次回―――カワイイヤッター!って言わせたい。

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