僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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カワイイヤッターと言わせたかった。


胸の内を吐露する黒龍

「龍牙君、今日は授業休んでたからお見舞いしようと思って」

「体調自体は健康そのものだよ、家庭の事情って奴だよ今回休んだのは」

「確かに相澤先生もそんな事言ってた、でも今回は休んでくれるのはある意味有難いって言ってたよ」

 

中へと入って貰った葉隠、彼女は完全に個性を解除して素顔を晒したまま腰を落ち着けている。そんな彼女の為に戦兎から貰った紅茶を淹れる事にする。自分がいない間の授業はA組とB組との対抗戦的な内容になっていた、ヴィラングループを確保に向かう複数のヒーローという設定。ある意味では互いが互いをヴィランだと理解したうえで行われる戦い。そんな戦いで龍牙が素直にいなくて良かったと相澤が言ったのは複数理由がある。

 

『今回黒鏡は家庭の事情で休みだが、それはある種良い方向に作用する。まず一つ目、今回は普通科から心操がA組に入れる人数的な隙間が出来て互いのクラスの人数が均等になる。そしてもう一つの理由―――単純に病み上がりだから、元々休ませるつもりだった』

 

と相澤は語っていた。九州での一件は皆がTVなどで確認していた、龍牙と常闇の激戦と最後の龍牙の死闘を全員の脳裏に焼き付いている。幾ら退院が許可されているとはいえある程度の安静はしておくに限る、というのが理由。

 

「龍牙君が居たら圧勝だったのに惜しかったよ~」

「さて、それは如何かな。向こうも恐らく俺への対策は全力で打ってくるだろうからそれ次第だよ」

「実際そうだったって言ってたよ~」

 

事実としてB組の注意は殆どが龍牙に言っていたとの事、総合的に優れている能力に圧倒的な持久力は厄介な事極まりない。なのでどうやって龍牙を誘い出し、遠距離攻撃で長時間釘付けにするための作戦を念入りに練っていたと葉隠は聞いた。結果として龍牙は別の運動場でプロヒーローと戦っていたのでその作戦は意味を成さなかった、まあ龍牙的にはどんな作戦だろうと突破するだけと思っている。

 

「何より、今の俺を止めるならマジでギャングオルカを連れてくるのが一番楽だからね」

「本当にそうだろうから笑えないよね」

 

紅茶を差し出しながらも龍牙はビーストマンとミラー・レイディとの戦いで得られた実感を何度も反復させ、脳内でシミュレーションを行い続けていた。唯一のアキレス腱である遠距離に対応出来るようになっている、龍頭の亜種、龍砲とも言うべきバスターベントの発現は単純に腕の伸ばせる範囲が伸びただけではなく出来る選択肢が圧倒的に増えた事を意味している。

 

「あっでも私あのTV見てる時本当に心配したんだからね!!?もう心臓が止まるかと思う位に怖かったんだから!!」

 

そんな話から葉隠ははぐらかされる前にと言わんばかりに怒った顔を作りながら龍牙に注意を促した。活躍の場面は目を皿のように染みて釘付けになっていたが、龍牙が危機に陥った時などはソファから落ちるように崩れ、透明になっていたが顔が真っ青になる程だった。血の気が引き過ぎて青くどころか灰色に成りかけていたほどだった。

 

「あの時だって戦兎さんとミルコさんに任せておけば良かったのに前に出ちゃうんだもん!!無理しすぎだよぉ!!」

「申し訳、ありませんでした……」

 

それに関しては完全に自分の我儘で進みだしたような物なので龍牙は何も言えなくなってしまう。あの脳無がドラグブラッカーの拠り所だったが故に黒龍から自分達が倒すべき存在だと言われた、だから前に出たのだというしかないのである。

 

「もう本当に反省してるの!?前にだって私は無理をしちゃ駄目って言ったんだよ!?」

「してるさ……でも、あれは俺自身がケリを付けなきゃいけなかったんだよ。オール・フォー・ワンを否定する為にも」

「だからって……んもうしょうがないな、今日はここまでにしておくけど今度は周りに確り相談するんだよ!?あそこにいた戦兎さんにだって協力して貰う事だって出来た筈なのに一人で行く何でもう絶対にダメ!!」

「肝に銘じさせてもらいます」

 

その言葉は確かに正しい、それを真摯に受けとめて次に生かそうと龍牙は素直に受け止める。葉隠も分かってくれたならよし♪と微笑みながら笑ってくれた、それを見ると何処か心が軽くなった。自分も紅茶へと口を付ける、矢張り戦兎がくれただけあって美味しい紅茶だと思っていると葉隠は首を傾げるように傾けながら自分の顔を覗き込んできた。

 

「ねえ龍牙君、何かあったの?なんか、元気ないけど」

「―――凄いな葉隠さん、心が読めるの?」

「そんな事ないよ、でもなんか龍牙君が何時もより元気ないなぁって思ったの」

 

単純に感じ方の問題だろうか、それとも彼女から見た自分はそれほどに沈んでいるように見えるのだろうか。龍牙は彼女の瞳の鋭さに思わず驚いてしまった。紅茶の入ったカップを置きながら龍牙は両手を上げながら観念したように語りだした。

 

「今回の家庭の事情って奴はさ、俺が両親との話し合いだったんだよ」

「話し合いって―――もしかしてビーストマンとミラー・レイディ!?」

「ご名答。九州の一件で俺は一気に有名になったじゃん、向こう側したら俺は目の上のたん瘤なのさ。それで向こうとしてはどうしても俺の口を塞ぎたい、それか元鞘に戻ってほしい訳」

 

葉隠は思わず顔を顰めながら拳を握ってしまった、そもそも二人が龍牙を傷付けたのではないか。自分達の評判ばかりに固執してそれだけの為に子供を捨てたのは何処の誰なのか、今度はその子供が自分の力で頭角を現し始めたら今度は手の平を返すのかと怒りばかりが募ってくる。

 

「有難う、俺の為に怒ってくれて。でももう良いんだ、もう終わった」

「終わったって……えっどういう事なの?」

「もう―――俺はあれらと絶縁出来たんだよ」

 

今回の肝がそこだった。龍牙にとって鏡家はもう関わり合いになりたくない存在、個人的な付き合いだけをしている白鳥だけは例外だが親戚も含めるともう二度と接触もしたくもない。

 

「絶縁ってそれじゃあもう龍牙君は完全に自由って事!?」

「ああ、前以て話す事はしないって約束はしたけど向こうとの縁は切れた。証人は根津校長に戦兎さんにミルコさん、後ヴェノムだから対処も不可能」

「やったぁぁぁっっ!!!それじゃあ龍牙君はもう完全に自由って事だね!!」

「まあ、そういう事かな」

 

まるで我が事のように、関係無い事な筈なのに葉隠は飛び跳ねた。じっとしているだけなんで出来ないと言わんばかりに動いてしまう彼女に感謝の思いが沸き上がってしまう。自分の手を取って笑顔を向けてくる葉隠の表情は今までにない位に輝いている。

 

「本当におめでとう龍牙君!!」

「ああ、ああ有難う葉隠さん」

「―――あれ、でもなんでちょっと落ち込んでるの?嬉しいなら別だと思うんだけど……」

「いや確かに嬉しいよ、これで漸く決着がついたって思ってる―――でもなんか、さ……妙な気分でさ」

 

嬉しい事には嬉しいのだ、これで漸く自分の過去に決着がついた。清算したかった過去にピリオドが打てた。喜びで咽び泣けるものならば泣きたいと心から思っている。だが同時にある疑問が胸を過ったのだ、自分は両親から捨てられた、何も思っていなかった筈で10年の時を経てそれも漸く終わった―――でも何故こうも不思議と胸が重いのか。

 

「分からないんだ、俺は如何して―――今こんなに気分が重いのか、俺にとって親が根津父さんとオルカ父さんになった。なのに……戦兎さんやミルコさん、ヴェノムともそれを感じた……何故なんだ」

 

そんな風になっていた龍牙、そんな思いに葉隠が答えをくれた。彼女は床に腰を下ろしている彼の隣へと座り直すとそっと彼を胸へと抱き寄せた。突然の事に驚いてしまう龍牙だが少しだけ強く抱きしめてくれる彼女に、何処か暖かさと心地良さを覚えた。

 

「龍牙君は本当に優しいんだね、本当に……尊敬しちゃうよ」

「―――いや、俺は―――」

「良いんだよ龍牙君―――今は私しかいないから、良いよ」

 

そんな言葉を掛けられた、言葉を失う。今まで胸に秘め続けてきた物はあった、だが虚無を感じた身としては何も言えなくなった。発する前に言葉がなくなってしまった、だから溜め続けてきた物があった。それが10年を経て今解放されたいと思っている、目の前で家族の温もりを与えてくれる人達を感じたからこそ吐き出したくなったのだろう。

 

「―――なんで、俺を捨てた……色々、励ましてくれたのに……一緒だと言ってくれたのに……絶対に自分達みたいになれるって言ってくれたのに……如何して、なんだよ……」

 

虚無を感じていたも龍牙の中には怒りや慟哭、悲しみがあり続けた。幸せを感じるたびに、過去の愛情が思いだされて胸に溜まっていく、それは龍牙は過去の両親の愛情を理解して感謝していたからこそだった。だが今日、彼はその感謝と完全に縁を切った。それによって過去の不平不満を素直に出せる環境が出来上がったが一歩が踏み出せなかった。

 

「うん、そのままどんどん出しちゃっていいんだよ龍牙君、私が全部受け止めるから」

 

そんな言葉に感謝しながら龍牙は次々と言葉を吐き出す、感謝も入っているがそれよりも悲しみや怒りの比率が圧倒的に多かった。それほどまでに龍牙は怒りを感じていたのだ。そして何度も何度も吐き出し続けること2時間、漸く言葉が止まったのか荒い息を吐いていた。

 

「―――凄い楽になったよ、ごめん葉隠さん情けない所見せちゃって」

「ううん情けなくなんてないよ。誰にだって愚痴とかを聞いてほしかったりする事なんてあるよ、それと同じ」

「優しいな葉隠さんは」

「それは龍牙君だよ」

 

そんな言葉を掛けてくれる彼女に龍牙は最後に一言だけ、話す事にした。

 

「葉隠さん、これから言う事を慰めてくれないかな」

「うん、何?」

「―――辛い、よ」

 

それを聞いて彼女はずっと強く、龍牙を抱きしめながら言った。

 

「大丈夫だよ、龍牙君はもう立ち上がれる。支えてくれる人がいる、一緒に笑ってくれる人がいっぱいいるもん。だから一緒に頑張ろう」

「……有難う、それじゃあ頑張るよ俺」

「うん頑張ろう!!」

「ああ、頑張ろう」

 

笑顔のまま、抱きしめていてくれた彼女にお礼を言いながら龍牙は立ち上がった。酷くすっきりしたような気分だった。これから自分の次の人生が始まると思うと何て晴れやかな気分なのだろうかと叫びたくなる。

 

「葉隠さん、本当に君って素敵な人だね」

「んもう龍牙君ったらそんなこと真正面から言わないでよもう~♪嬉しくなってもう、顔真っ赤だよ♪」




カワイイヤッターというよりも葉隠さんの母性が出ちゃった感じに……。
いやこれはこれで―――。
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