僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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全力対決、緑谷と黒龍

「―――まさか、これ程の物とは」

 

素直に驚嘆が口から飛び出た。戦兎やミルコと異なりオールマイトは龍牙の本当のビヨンド・ザ・リュウガは初見、正確に言えば中継で見る事は出来たがこれほどまでに鮮明且つハッキリ見えるそれを見るのは初めて。頭部の龍頭のような瞳に額に輝く龍の紋章、肩から背中にかけて伸びる黄金と銀が混じっている翼にも見えるそれは雄々しい。龍牙の最強形態、それに恥じないだけの存在感と圧倒的な戦闘力にオールマイトは喉を鳴らした。

 

「どうっすかオールマイト、前に試験で龍牙と手合わせしたって聞きましたけど」

「……恐らくあの時に少年がこの姿に成れていたなら私も本気を出して応えただろう、下手な加減であの豪龍の相手を務められるとは思えない」

「それは私も同感だな、ああいう力があんなら全力でやるのが筋ってもんだぜ」

 

ミルコの発言は明らかに違うだろと戦兎は内心で思うのだが、此処で口に出すと絶対に噛みつかれると思ったので何も言わないでおく。オールマイトのそれは本気で望まなければ龍牙の最強とは戦えないかもしれない、というある種の疑念と龍牙への尊敬が込められているがミルコのそれは完全に戦闘中毒(バトルジャンキー)のそれと同じである。単純に自分が全力で戦いたいだけ。

 

剛腕のノビに動きのキレ、相手の想定よりも数歩先へ飛び出すような勢いで加速する動きと変化。速度が乗った一撃の破壊力は圧巻の一言に凝縮出来る。振るわれる腕に合わせて地面を走る黒炎、それを踏み越えて懐に飛び込んだとしても柔軟性と堅さを両立させた格闘術が出迎えてくる。それに対抗するには単純な強さが必要になってくる、純粋なパワーとスピードが必要。だがそれで向かったとしてもタフネスと反射が道を阻んでくる。

 

「今の黒鏡少年を倒そうとすれば真っ向勝負を仕掛けるしかない、だがそれを黒炎や反射、タフネスが壁となって道を阻み続ける。単純に強いだけでは勝てない凄まじく厄介な相手だな……現役時代の私でも出来れば相手したくないなぁ……」

 

う~んという言葉混じりに放った言葉に戦兎も概ね同意である。互角に殴り合えたとしても反射や放出反射が自分の力を上乗せして阻んでくる、あの姿になる前に倒す。成られたら一撃で意識を刈り取るが倒さなければいけないという厄介さ。格下同格からすれば超強敵、格上の相手にも平然と喉元に喰らい付いて引き摺り下ろすというのが龍牙の総評だと二人は思う。

 

 

「如何した緑谷、使わないのか例の黒いのをよぉ!!」

「ぐっっっ!!!!」

 

距離を取り続けている緑谷に対して演習場にある無人のビルの壁を食い破るかのように粉砕しながら追ってくる龍牙。数度攻撃を浴びせたが先程と違って全く手応えが無い、正確にはダメージを与えているという感触はあるし手応えもある。だがそれによって龍牙が全く怯まなくなっている、ゲームで言う所のスーパーアーマーが常時発動しているかのような状態になっている。

 

「らぁぁっ!!」

「SMASH!!」

 

打ち据えられる一撃を身体の向きを変えるような動きでギリギリで回避する、一種の賭け。防御姿勢もまともに取らない状態で今のを受ければ一発KOだったが、これならば素早く攻撃に切り返せると向きを変えた勢いのまま足を振り上げる、そして狙いは一点のみ。今度は急所を的確に、素早く尚且つ力強く叩きこむ。瞬間的に出力を上げて、出力許容上限を超えた一撃を放つ。空を裂き凄まじい音を立て一撃が龍牙の首元へと打ち据えられる。

 

「グオッ……」

 

炸裂する一撃は龍牙の姿勢を崩し、膝を折らせ地に着かせた。同時に緑谷の脚にも上限以上の出力を出した事による反動の痛みが走るが、龍牙を始めて捻じ伏せられたという嬉しさで痛みが消える。だが、それは黒龍の怒りを招く、全身から衝撃が放出されて緑谷は吹き飛ばされてしまう。

 

「今のは利いたな……いいぞ、その調子で来い……!!」

「やっぱり、今の龍牙君は精神的なタガが外れてる……!!」

 

今の一撃で決して痛みを感じていない訳ではない、今の形態になると一種の暴走状態に近くなり精神的なストッパーが一部機能しなくなる。元々ギャングオルカの鍛錬の影響で痛みや恐怖、殺意に対して強い龍牙のそれが更に大きくなっている。肉体面ではなく精神面にスーパーアーマーが発生しているのだろう。唯の暴走なら可愛げもあるが今の龍牙は決して慢心していない、純粋に強気になっているだけで己に何が出来てどこまでなのか完全に把握している。制限速度ギリギリまで平然に出すが、超えるような真似はしない。

 

「あの力に対抗するには……僕も限界を超えるしかない……!!だけど超え過ぎたらすぐに動けなくなる、だからもっと強く、もっと先へ―――更に向こうへ……!!」

 

身体から力が溢れていく、踏みしめた地面から欠片が浮き上がるように吹き上がっていく力。稲光が強くなり全身を強く包んでいく、同時に鈍い痛みが全身を貫いていくようだがそんな事どうでもいい。今目の前にいる龍牙に迫りたい、互角に戦いたい。そんな思いで力を開放させていく。

 

「〈ONE FOR ALL〉……許容限界値突破(オーバー・ザ・リミット)フルカウル……40%!!!」

 

全身に光が稲光のように走りながら仄かに発光している、同時にその光が齎す力を龍牙は敏感に感じ取っている。緑谷から感じる力の波動のそれはオールマイトを連想させるような圧倒的な力だ、目の錯覚かもしれないがオールマイトが緑谷の背後に立ちながら共に戦おうとファイティングポーズを取っているような気がする。

 

「そして―――!!!」

 

同時に緑谷の腕から黒いものが飛び出した、あれが自分があの夫婦と戦っていた時に使っていたという黒いものかと確信する。それらは周囲の建物の瓦礫を掴み取るとそのまま龍牙へと投げ付けながら、建物を叩きつけた反動で緑谷を宙へと浮かび上がらせる。

 

「舐めるなぁ!!」

 

瓦礫を龍頭で粉砕するのだが、その奥から緑谷が迫って来た。投げ付け跳躍した直後に再び、建物に伸ばして掴み己を引き寄せる事で勢いを付けて瓦礫と共に迫って来たのである。そして緑谷はそのまま龍牙の頭部へとケリを繰り出す。

 

「SMASH!!!!」

「ガハァッ!!!」

 

的確に龍牙の頭部を捉えた、それを受けた龍牙が後方へと大きく吹き飛ばされてしまうがその身体に黒いものが巻き付いた。そしてそれを渾身の力で掴みながら緑谷はそれを振りまわした。

 

「うおおおおおおおおおおっっ!!!」

 

ジャイアントスイングのように龍牙を振りまわしながら周囲の建物にぶつけながら回していく、今の緑谷の上限は20%。それの倍の力が発揮されてる、建物を簡単に抉りながら吹き飛ばし、それを天高くへと伸ばす。そしてそれを全身全霊の力で地面へと叩きつける。

 

「はぁはぁはぁっ……ぐっ、アアアアアッッ……!!」

 

全身を抑えながら膝を付いてしまう、身体の節々が痛む。激痛が走る、唯でさえ限界を超えている上にこの黒い力、黒鞭は20%しか制御出来てない状態では負担が掛かるのに40%を無理して使っているのでその負担までもが乗っかってくる。その痛みに思わずフルカウルを解除してしまう、あのままでは確実に意識を失うと判断した。

 

「ひでぇっ事、しやがって……」

 

声、思わず顔を上げるとそこには未だに健在している龍牙の姿があった。しかし片腕を庇う様にしながら片足を僅かに引きずっている、相当なダメージが入ったと思われる。それでももう戦えない自分と比べたら大きな差だが満足感があった、何故ならば龍牙に此処まで迫れた、自分は大きく前進していると分かった。

 

「如何だ緑谷、何か掴めたか……?」

「無我夢中だったから……でも何かが変わった気が、するよ」

「そうか……また何時でも言え、付き合う」

「―――有難う」

 

そう言うと緑谷は仰向けに倒れこんでしまった。そんな彼を見た龍牙は個性を解除すると緑谷を背負って戦兎達の下へと歩き出していく。友の戦いに尊敬の念を抱きながら。


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