僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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平和の象徴らと手を握る黒龍

「今日はありがとう黒鏡少年、緑谷少年もいい経験になっただろう」

「良いんですよこの位、俺もいい相手になれて良かったです。緑谷お前大丈夫か身体」

「うん、大丈夫。リカバリーガールも疲労がメインだって言ってたから休めば明日にも全快するって」

 

戦闘後、龍牙は緑谷と共にリカバリーガールの元を訪れた後にオールマイトが待っている談話室へとやってきた。そこにはオールマイトだけがお茶を用意して待っていた、戦兎とミルコは何処に行ったのだろうか。

 

「あの二人は交代みたいに演習場に入ったよ、ミルコの方が君たちの戦いを見てて滾っちゃったみたいだから戦兎君がその相手をするみたいだよ」

「ミ、ミルコさんと戦兎さんの戦いなんて絶対に凄いに決まってる!!戦兎さんのビルドの特徴は数多くのフォームによる臨機応変な変幻自在な戦術の組み立てとそれらにある性質を駆使した戦い、それとミルコさんの凄まじい身体能力のぶつかり合いなんて……!!」

「まあ凄いんだろうなぁ……多分、ミルコさんが滾ったって話だし戦兎さんもガチで対応するだろうから相当凄い事になりそう……」

 

本気になった戦兎は恐らくあのトリガーを切る事も間違いないし、現役ヒーロー時代にたったの一度きりしか使った事の無い戦兎の真価とも言うべきあのトリガー、1年間という期間の中でも一度しか訪れなかった本気。それは龍牙も詳しい事は知らないのだが戦兎曰く

 

「俺の本気がどのぐらい凄いかって?そうだな……ギュインギュインのズドドドドッ!!って感じ」

「いや全然わかりません」

 

というやり取りが戦兎の間にあった。緑谷も見たがっている事だろうし後で許可さえ下りるのならば映像記録のデータを回して貰って鑑賞でもしてみよう。

 

「しかし黒鏡少年、本当にあれは凄かったよ。私としても君のあの姿とは戦いたくはないと思ってしまうほどにね」

「オールマイトにそこまで言われるなんてすごいよ龍牙君!!」

「何言ってるんだよ、戦いたくないだけでオールマイトは勝とうと思えば勝てるって事なんだよ。この場合褒めるべきはオールマイトだよ」

「HAHAHA!!いやぁこれは一本取られちゃったね!」

 

事実、試験として戦った時のオールマイトでも勝とうと思えば勝つ事は十分に出来る。龍牙の能力は極めて厄介だがそれを突き抜ける程の攻撃を加えてやればいいだけの話でオールマイトはその攻撃を可能とする。冗談抜きでオールマイトがやばいとしか言いようがない。

 

「それで緑谷、お前あの黒い奴制御出来そうなのか」

「微妙、かな……あの時は無我夢中だったから……」

 

龍牙の戦いの最後、緑谷は明確に自分の意思でそれを選択して行使していた。あの時は緑谷自身が自分の力を限界を超えていたから行使出来るようになっていたのか、それとも既に使用出来る域にまでに到達しているのか。それが謎、試しに緑谷は意識を集中してみる、すると―――手首の辺りから黒い物が飛び出した。

 

「うわぁ出たぁ!?」

「いやお化けじゃないんだぞ」

「だが以前の訓練では出そうと思っても出せなかった、これは大きな進歩だぞ少年!!どの程度出せるのかな」

 

オールマイトの言葉で冷静さを取り戻した出久は落ち着きながらそれを操作してみる、そして目の前のある湯吞を掴みたいと思うとそれへと伸びて掴み、自分の手に握らせた。それを見たオールマイトはおおっ!!と声を上げる、そして再度行使してどこまで出せるかを試してみるとおおよそ30センチと言った所だろうか、加えて凡そ出久の半分程度の握力程度の力しか出せない事が分かった。

 

「多分これ以上も行けると思いますけど、これ以上は多分危ないと思います。反動とか下手したら暴走すると思います……」

「いや大進歩だよ緑谷少年!!そこまであの"黒鞭"を扱えるように君は大きく成長したって事さ!!」

「はい、やりましたオールマイト!!」

「黒鞭?それが緑谷から出た名前ですか」

「「あ"っ」」

 

思わずオールマイトと緑谷が硬直した、つい嬉しさに駆られて口走ってしまった。オールマイトは硬直しながらやってしまった、という思いでいっぱいだった。緑谷の個性からある種の派生したものが黒いもの、即ち黒鞭だと思っていた龍牙だが今の発言では妙な勘繰りを与えてしまうかもしれない。如何するべきかとオールマイトは頭を回転させるのだがその回転を止めさせたのは緑谷だった。

 

「あのオールマイト、龍牙君にも話しませんか本当の事を」

「っ!?緑谷少年何を!?」

「龍牙君には話すべきだと思うんです、龍牙君だって無関係ではありませんし寧ろ話して協力して貰うべきなんじゃないでしょうか……!?」

「むぅぅぅっ……」

 

それを聞いた確かにそうかもしれないと考えこむ、話して良いものかと悩む中でチラリと龍牙へと視線をやるが龍牙は何も言わずに緑茶を啜りながら、目を閉じて黙り込んでいる。此方の反応を待っている、いや完全に委任するような体勢を取っている。何とも賢くも有り難い体勢に感謝しながらその意見にも一理あると思いつつも、信頼出来る味方を増やしていく事も重要だろうと思い至る。

 

「黒鏡少年、これから話す事は内密にしてほしい事だ。加えて君に危険を及ぼす事にも成り得る事でもある、それでも君には聞いて欲しいと思う。いいかい」

 

神妙な顔をしたオールマイトの言葉に湯呑を置きながら龍牙は言う。

 

「口は固い方ですよ、それに危険なんて今更ですね。殺意丸出しの師匠以上の危険な存在が居るなら教えて欲しいです。それに緑谷には俺の秘密を喋ってる、そんな相手からの秘密なら俺だって黙っているに決まってます」

「そうか、では話そう。まずは始まり、私の個性に関して―――」

 

そこからの話は龍牙にとって驚愕だったのだがストンッと納得がいくものばかりだった。オールマイトの個性、それは受け継がれてきた平和を願う者たちへと差し伸べる義勇の心と救いを求める人達への光、それらが紡ぎあげてきた力の結晶というべき個性―――

 

ONE FOR ALL

 

受け継がれてきた超パワー、その八代目がオールマイト。そして次代の担い手となっているのが緑谷。そしてそのルーツ、オール・フォー・ワン。それらについても詳しく龍牙は聞く事が出来た。聞いていく内に想像していた以上に凄まじい話になって来た事に龍牙は驚いていたが、それを面には出さずに受け止めていく。この事を知っているのは他にもいるが、そこには爆豪も存在しているというので驚いた。

 

そして緑谷が先日の授業で歴代継承者が宿していた個性を使用できる段階にまで到達した。その個性の一つが龍牙との戦いで40%へと達し一時的にとはいえその状態で完璧なコントロールをした事で制御が利くようになったと思われる黒鞭。同時に緑谷は他にも歴代の個性を使えるようになっていく可能がある、その為にもこれからも龍牙に協力して欲しいとの事。

 

「これらが私達の全てだよ黒鏡少年、驚いたとは思うが……」

 

全てを語り終えてオールマイトは龍牙にはこれから負担を掛けてしまうようで申し訳ないような表情をするのだがそれに対して龍牙は笑って返した。

 

「―――いえ漸く解せましたよ。オールマイトは妙に緑谷を気にかけている節がありましたからね」

「むぐっあ、あったかね!?」

「ありましたよ。気にかけてる所かオールマイトの弟子だったんですね緑谷、それでよく俺がギャングオルカの弟子だって時に驚いたな。自分なんて次代の平和の象徴じゃないか」

「そんな事言われても凄い事に驚くのは当然じゃないか!?」

「次代を支える二人が今ここに揃ったという事で私は酷く安心しているよ」

 

そう言われて緑谷と龍牙は思わず顔を見合わせた。一方は平和の象徴に次を託された次の平和の象徴、一方は偉大な師匠に次代を担わせると言われた弟子。こうすると確かに次のヒーロー社会を支える二人が揃っているという事になる。長年平和を支えていたオールマイトとしては嬉しいことこの上なかった。

 

「しかしこうなると俺の秘密も言った方が良いのか」

「そう言えばそんな事も言っていたね、緑谷少年には既に自分の秘密は話しているって」

「い、いや龍牙君の秘密はワン・フォー・オールとは違った意味で簡単に話さない方がいい類の物だと思うけど……」

 

緑谷は顔を引き攣らせて話さない方がいいのではと真剣に思う。オールマイトからすれば同じヒーロー且つトップクラスだったヒーローで何度も共に戦った経験があるビーストマンとミラー・レイディのイメージを粉砕しかねないような話、加えて龍牙に辛い過去を思い出させてしまうような内容。それは話さない方がいいのでは……と思うのだがオールマイトは胸を叩いて言う。

 

「大丈夫だよ緑谷少年、黒鏡少年は私達の話を真剣且つ正面から受け止めてくれた。ならば今度は私が誠意をもってその話をドンッと受け止めてあげるべきだ、それが筋だと私は思う。遠慮なんていらないよ黒鏡少年、ズバっと話してくれたまえ、私はどんな話であってもそれを絶対に誰も話さずに胸にしまう心構えだ」

「……分かりました、オールマイトがそこまで仰って下さるのであればお話しします。俺にとってももう済んだ話ですので」

 

こうして龍牙も己の秘密を語りだす。自分がビーストマンとミラー・レイディの息子で個性が発現した際に捨てられた事や根津に救われた事、様々な事を教わりギャングオルカの下で弟子として努力している事。自らの個性がオール・フォー・ワンによって歪められてしまった事なども全てを包み隠さずに話した。そうした結果……

 

「私は…私は、なんという事を……あの時、あの時にオール・フォー・ワンを確実に仕留めておけば黒鏡少年にそのような苦労や悲しみを背負わせてしまう事なんてなかったのに……私が、私がもっと平和の象徴として、いやヒーローとして努力していれば……」

「オ、オールマイト元気出してください!!全然あなたのせいじゃないですから!!?」

「そ、そうです龍牙君の言う通りですって!!?」

 

龍牙がそのような事になってしまった原因、一家を崩壊させてしまった原因は自分がオール・フォー・ワンを確実に仕留められなかったせいだとオールマイトが凄まじく落ち込んでしまい、龍牙と緑谷はそれを励ますのに大層苦労し、戻ってきた戦兎とミルコに困惑されるほどだった。


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