僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
ショッピングモールでのヴィランを無事に警察に引き渡す事が出来た後、デートを再開しようとも思っていたのだが龍牙は思わぬ事でそれらを妨害されてしまった。それは
「サインしてください……!!」
「あくしゅして~!!」
子供達の熱い視線と憧れに満ちた輝きの瞳、流石にそれらを無碍にする事も出来ずに対応したのは良いのだが……それを皮切りに周囲の人達も一気に押し寄せて来てしまいそれらの対応に追われる事になってしまった。幸いな事に九州にてホークスのファンへの対応を見ているのでそれなりに上手く出来たと思っていたのだが―――人の数と迫ってくる圧が凄まじかった。加えて龍牙はサインなど書いた事が無かった、ヒーロー情報学にてそれらについてのレクチャーなどはあったが全く形になっていない一人でもあった。
断る選択肢もあったのだが子供の目を見たらそれも言い出せず、震えながらペンを取ってサインをするしかなかった。なのでその場で形にするしかなかった、ハイスペックな校長仕込みな頭をフル活用して考えた末に辿り着いたのは自分の龍の紋章をベースにしながらドラゴンライダー・リュウガの名前をサインにする事だった。即興で考えたにしては中々に良いデザインではないかと龍牙も満更ではなかった。そしてもう一つ
『龍牙君、こっからサインとか写真撮影求められるだろうからその時にサービス忘れちゃだめだよ』
お見舞いにホークスがやって来た時にTVの影響で一気に知名度が広がった後の事を考えたアドバイスを送ってくれた。ヒーローは唯ヴィランを倒し平和を齎すのが仕事ではなく、人々に笑顔と共に夢と希望、安心を与えるのも仕事の内。それにはちょっとした事にも此方から歩み寄るサービスが大切なのだと教えてくれた。
「ホラッピースピース」
「ピース!!」
写真撮影ではドラグブラッカーに背中に乗せて貰った状態での撮影にも応じた、
『(お前人使い荒いぞ……俺を何だと思ってやがる)』
という物が届いていたのだが龍牙的にはドラグブラッカーも自分自身であるので自分が骨を折っているだけで誰かの為になるならば良いだろうと納得が出来るので何の問題もない。黒龍もこれ以上何を言っても意味がない事を察すると黙って次の希望者を乗せる為に身体を降ろす。それらだけかと思っていたら今度はショッピングモール側からもサインや撮影をお願いされてしまい、それらの対応が漸く終わって龍牙が雄英へと帰ってこれたのは日も落ちた頃であった。
「―――疲れた……」
「お疲れ様龍牙君、紅茶淹れようか」
「悪いけどお願い……」
雄英へと戻ってきた龍牙は慣れない事の連続で精神的に疲弊してしまっていた、師との鍛錬とは全く違う疲労感に戸惑いながらも寮へと戻ってくると出迎えてきたのは学友たちからのからかいと称賛の声だった。如何やら自分がヴィランから子供を庇った辺りから携帯でそれを配信していた人が居り、それによって自分の行いは一気に広まった上にTVにも速攻で拾われて報道されていたらしい。そんな友たちの声を受けながら部屋に戻った龍牙だが、途中で先に戻った葉隠と合流して共に部屋へと入った。
「大変だったみたいだね龍牙君」
「もう、辛い……今度オールマイトに対応の仕方とか聞いて見ようと本気で思ったよ……」
それなりの回数龍牙の部屋に来ている葉隠は紅茶の位置などを既に把握しているので、ケトルに水を入れながらポットに紅茶の茶葉を準備しながら龍牙を労う。自分は龍牙から長くなりそうだから先に帰っておいた方がいいと言われたので先に戻って来たのだが、心配していた通りに龍牙にはまだまだあれらの対処は辛い物があるらしい。
「それに葉隠さんなんかごめん」
「えっ何で謝るの?」
「いや……葉隠さんとの時間だったのにそれを放り出すみたいにしちゃって」
それを言われてそう言う事かと納得する、沸いたお湯をポットに注ぎながらんっ~と声を出しながらちょっとだけ意地悪をする。
「そうだね、あの時は急に飛び出して行っちゃったもんね~。それになんだか私の時よりもちょっと生き生きしてたし」
「返す言葉もございません……」
「なんて冗談だよ冗談」
笑いながら、本当の笑顔を向けながら龍牙の元へとカップを差し出しながら呟く。
「ヒーローとして龍牙君の行動は間違ってないよ、あそこで飛び出したからこそ被害は最小限で抑えられたし何より私達が何もしないって言うのは違う、間違ってるでしょ?だから龍牙君の行動は何も間違ってない」
「―――そう言って貰えると救われるよ」
素直にそう思えた。ヒーローを目指す者としてあそこで何もしない事こそが間違いで在り、何かをしようとする事こそが正解。だからこそ葉隠の言葉は染みるように有難かった。紅茶を差し出してくる彼女の笑みもカップの暖かさも何もかもが有難かった。
「それじゃあさ葉隠さん、今日の埋め合わせに何かしてほしい事ってないかな。俺に出来る事なら何でもするよ」
「随分気にしてるみたいだね龍牙君」
「そりゃまあ……」
不思議と彼女とのあの時間を自分は愛しいと思っていた、もっと時間を共有したいと思っていた。それを自分から放棄したに等しい、だからこそ何か彼女の為にしたかったというのが素直な本音。それが彼女の為というよりは自分なりのケジメであり自分を納得させるための行為。それを聞いて葉隠は少しだけ顎に指をあてて考え込む。
「何でもいいの?」
「俺に出来る範囲でね」
「それじゃ―――」
刹那、龍牙は何をされたのか理解出来なかった。唐突に彼女の顔が視界一杯に広がったと思ったら笑顔の彼女が自分を抱きしめていた。何か自分がしたのではなく何かをされた、だが何をされたのか。紅茶を味わい、一息を吐いた直後で瞳も閉じていた。何かをされた瞬間、それを把握出来なかった。
「あの、葉隠さん今、何をしたの?」
「―――内緒、絶対に内緒だよ―――龍牙君」
彼女は少しだけ力を強めて龍牙を抱きしめる、それは自分の顔を赤くなっている顔を見られないようにする為のようだった。そして彼女は徐に指で唇を撫で―――悦に浸りながらも羞恥に染まった喜びの笑みで顔を満たしていたのだがそれは彼女にしか知らない事。
さて葉隠さんは何をしたのかな……?
まあうん、ピクシーさんが荒ぶることではある。