僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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自分なりの恋愛を行く妖精

間もなく年越しを迎えようとする12月、冬の空は今日も灰色が掛かっておりそこからは白い雪は降り注ぐ。空気に舞うパウダースノー、そんな雪は紅葉にて燃えるような山々を白く塗装する。軽く視線をズラせば美しい白化粧に包まれた山々がそこらに広がっている。四季による芸術と人は称するが、それら芸術が人を殺す事だってある。雪山における人を死に至らしめる要因―――雪崩、吹雪、美しい雪による冷徹な死が齎される。そんな現場から人々を救うヒーロー、それが山岳救助をメインに据えたヒーローチーム"ワイルド・ワイルド・プッシ―キャッツ"である。

 

「―――……」

 

そんなヒーローチームの事務所にて黙々と仕事を片付けていく一人の女性、ヒーローネーム・ピクシーボブ。政府へと上げる報告書を仕上げながら事務所運営の仕事を同時進行で片づけていく。本来は複数人で片づける筈の作業だが慣れた手つきとそれらをこなしていく。事務作業を行うメンバーもいる事に入るが自分達で片づけなければいけないものも存在する。それが漸く終了し纏めてファイルに纏めると手を組んで身体を上へと伸ばす、少々纏めるのが大変な報告書だったので時間が掛かってしまった。

 

「終わったのかピクシー?」

「やっとね」

 

それを見かねていたのかチームメイトの虎が暖かなコーヒーの差し入れを持ってくる、それを受け取りながらその温かさにほっとしながら背もたれに身体を預けながら不意に窓の外へと目をやる。シンシンと振り続けている雪を見つめながらコーヒーを喉奥へと流し込む。そんな様子のピクシーにマンダレイとラグドールも何やら心配そうな視線を送る。

 

「なんか最近ピクシーってばあの調子だね」

「仕事の最中は普段通りだけど、休止に入るとあんな感じね……」

 

ここ最近、ピクシーボブは何やら思う事があるのか口数も減ってきている。仕事の最中は普段通りの彼女だがそれでも休憩中などには決まって無言で外を眺めている事が殆ど、長年チームを組んでいる身としては物珍し気に映るのだがその理由はある意味ハッキリしていると虎が言うとそれに二人も同調する。十中八九、いや十中十、龍牙関連であること間違いなし。

 

「でもまあ最近私出動しっぱなしだったからしょうがないと言えばしょうがないんじゃない?」

「このシーズンはね……如何しても忙しくなるからね」

 

山間部での救助を主とするプッシーキャッツはどうしてもこの時期は忙しくなる。冬レジャーや様々な理由で冬の山へと足を踏み入れる人達は多い。そんな山での事故や遭難には自分達のような自然の恐ろしさを十分に知り尽くし、経験も豊富なヒーローが重宝される。中でもピクシーボブは土を操る事が出来る個性、大自然の中こそその力をフル活用する事が出来る。

 

故にピクシーボブの出動要請件数はチーム内でもずば抜けて多く酷く忙しい身、何時自分に対する出動要請が届くか分からない現状であるが故に事務所を長時間開けられない。他のシーズンならば他のメンバーでバックアップできるが冬に限ってはそれは難しい。それほどまでに雪の恐ろしさはすさまじいのである。

 

「あ~……ピクシー、辛かったら休んでも良いんだよ?」

「良いのよ気を遣わなくても、私だって分かってる。それに私はヒーローよ、助けを求める声があるならば必ず向かって力を尽くすのがヒーローなんだから」

 

気丈に振舞っているが流石にピクシーボブも疲れが溜まって来ており、肉体面だけではなく精神的に辛くなってきている筈。忙しい故に冬の出動案件は決まって心身共に酷使する物ばかり、前回の出動も吹雪の中で遭難した要救助者の捜索と救助。ラグドールの情報を基に救助に向かったが急激に強くなった吹雪の酷さに動けなくなり、彼女の個性で急遽洞穴を作ってその中で身を潜めていた。その疲れもきっと抜けきっていない。

 

「いやでもさアンタだって分かってるでしょ、ヒーローには身体を確り休めるのだってれっきとして仕事」

「解ってるわよマンダレイ、アンタこそ洸汰君のことだってあるんだから上がったらどうなの?」

「そっちは大丈夫よ上手くスケジュール組んでるし洸汰も理解してくれてるし、親戚の家で良くしてもらってるわ。電話のやり取りもしてるし」

「洸汰については緑谷に感謝しなければならんだろうな、あれから我々に対する態度も良くなったしな」

 

気丈に振舞おうとする自分にラグドールが見つめてくる。

 

「そんな事言いながら本当は龍牙とイチャコラしたいんじゃないの?」

「ぶっちゃけ抱きしめてそのまま体温感じて龍牙君の胸板をすりすりしながら眠りたい」

『おいコラ』

「でも今の私はヒーロー、ピクシーボブとして動かないといけないの」

 

そんな話題にピクシーボブも少しながら参加しながらも休みは事務所で取るだけで十分と振舞う、そうあるべきだと。確かに自分は龍牙に恋い焦がれているし出来る事ならば直接顔を合わせて色んな事を話しながら過ごしたいと心から想う、だがそれは出来ない。それはつまり自分のヒーローとしての責務を放り出す事と同義になる、それだけは出来ない。そんな自分で胸を張って龍牙と会える程面の皮は厚くない、そんな情けなくヒーローとして不合格な自分を龍牙は好きになってくれる訳がない。

 

「龍牙の事は好きよ、心から。こんなに燃え上がる恋なんて初めて、だからこそ真剣に望みたい。胸を張ってこれが私だって言える自分で龍牙君を好きになりたいし好きになってほしい。その果てにあるのが失恋でも私は満足して泣ける、やれる事をやってダメだって分かって恋が終わって泣ける。でも龍牙君が心から成りたいと思ってるヒーロー(立場)に私はいる。ならそれだけの責任を果たすのが筋よ」

 

そう言ってコーヒーを一気に喉奥へと流し込むと書類に再び取り掛かったピクシーボブの姿を見て、どれだけ真剣に今の恋に向き直っているのかを知る。龍牙の事になると暴走したりそれだけに集中してしまう事も多いが、それほどまでに好きなのだ。だからこそ公私は分ける、ヒーローとしてピクシーボブと一人の女としての土川 流子。どちらも好きになってほしいというのは身勝手な話かもしれない、だがそれが自分の恋愛の仕方なのだ。

 

 

「さてと―――今日も頑張りますか」

 

今日は珍しく自分は事務所に待機のまま、他のメンバーが出動していった。救助人数と救助チームの特性を考えるとそれがベストという事なのでピクシーボブは待機という事になった。事務所にいるのは自分と事務員の所員だけ、個人的には退屈な気もしなくはない。しかしヒーローとしては自分に要請が無い事は喜ぶべきだと気を改め直しておく。そんな時に事務所に来客が入ったらしい、だが他の事務所は電話対応なので忙しいようなので自分が対処する事にした。

 

「遅くなってすいません、プッシーキャッツ事務所……ってえっ!!?」

 

来客を出迎えに来たピクシーボブだが、その人物を見て思わず目を見開いた上で大口を開けて驚いてしまった。如何して此処にいるのかと声に出そうとしても上手く出なかった、疑問もあるがそれ以上に嬉しさもあって舌が回らなかった。やっとの思いで出た言葉はその人物の名前で精一杯だった。

 

「りゅっ―――龍牙君!!?」

「お久しぶりですピクシーさん」




葉隠さんカワイイヤッター!だと思った?

残念ピクシーさんでした!!
まあこちらもヒロイン……うんヒロインだからね、うまくバランスとらないと。

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