僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「……」
何も口にはせずに唯々時間の流れに身を晒し続ける龍牙。その日、受けた衝撃は彼にとって尋常ではない物だった。自分という単一を構築する基礎を揺るがすかのような物に等しい問いかけに迷いを感じてしまい足を止めてしまった。今まで動かし続けていたそれを止めて、立ち止まって空を仰いだ。
―――自分が少し我慢すればいい、傷を負いながらも貴方はそれをし続けていく。
それの何が悪いのだ、自分が出来る事でやるべき事をする事は決して悪い事ではないのだ。自分はそう思い続けてきた。師にもそう教えられてきた、そうしなければ救えない命があるならば自分にやれる事を全力でやるのが答えだと。だがそれではいけない、それではいけないと諭された。理解は出来るがその先を如何したら良いのか理解が及ばなくなってきている。幾ら答えを探そうとしても正解は何処にも見えなくなっている、完全に迷子になっている。そんな思いが募りながら、龍牙はベットから身体を起こした。
「……風呂、行くか」
インターン先からの一時的な帰宅、雄英寮の自室にてリューキュウからの問いかけに対する答えを模索し続けていた龍牙。だが答えが出ないまま時間だけが浪費されていった、いつの間にか深夜にまでなっていた。一度気分をリセットする意味を踏まえて風呂に行くことを決めた、深夜になっても共同スペースの一角に一人で入りたい人用の浴槽があるのそちらを利用する事も出来る。
―――誰かと一緒に居る時は一緒に戦って欲しい、貴方を支えて一緒に歩んでくれる人が必ずいるのよ。
「だからその人には傷ついてほしくないじゃないか……」
その呟きは龍牙自身にも聞こえていなかった、無意識に生まれた彼の中にある歪みであった。
「う~ん……えっとこっちはこれを応用してっと……こっちがあれだからぁ……やばいなぁ龍牙君の手解きノートなかったら完全に詰んでたぁ……」
自室にて灯りの下で補修のプリントに向かっている葉隠。彼女も彼女でインターン先が決まってそこで努力をし続けている、そんなインターンで発生する学業の遅れを取り戻す為の補修課題に取り組んでいた。内容としては当然のように習っていないやり方があり顔を青くするのだが、そこは以前龍牙に勉強を見て貰った時に貰った手解きノートを参照しながら解き進めていた。龍牙の手解きで成績も上向きになっており両親としても嬉しく思われている、それが余計に龍牙に対するちょっかいが増したとも言えるのだが。
「よしっあと一踏ん張り~……とその前にココアココア」
もう今日やろうと決めていた範囲は終わってその先まで進んでいたのだが、折角龍牙の力を借りているのだからもっと先まで行ってみようと決めてココアを淹れようとケトルに水を入れようとした時不意に、窓から見えた景色が気になって目を凝らしてそちらを見つめた。
「あれもしかして今のって……」
寮から出て何処かへと歩いていく人影があった、既に夜も更けている。明日は日曜日で休みだがそれでもこんな夜に外に出るのは誰なのだろうと不思議と興味を惹かれて目を凝らしていると外灯に照らされるようにそこに映し出された人物を見て葉隠は身支度を整えると直ぐにその後を追いかけた。
入浴を済ませた龍牙はそのまま自室には戻らず、真冬の冷たい空気に身体を当てながら気分と思考をリセットを図る。ヒンヤリとした空気が肌を突き刺すように冷却していく、身体のほてりは僅かな時間で取れてしまい今度はそれらが体温を奪おうと画策するが龍牙の身体は本能的にそれを回避を図る。僅かに身体の上を黒炎が走っている、それらが体温を一定を保ち無用な体温低下を防いでいる。故に龍牙は低気温下でも活動する事が出来る、そもそも変身形態自体が黒炎を物質化して纏っているような物なので寒さには滅法強い方……なのだがそれを簡単に凍て付かせる戦兎のあれは一体何なのだろうか。
何の目的もなく外に出てしまった龍牙、そこに打算も目論見も無い。彼にとってはある意味久しく感じられる不思議な虚無感は嘗て味わったそれに似ている気がしている、本質的には異なるが似通っている。そんな事を感じつつも徐に空を見上げると冬の澄み切った夜空を星が煌びやかに飾っている。そんな夜空を見つめ続けていると少しだけ胸の痞えがとれたような気がする……。その様に思っている背後から迫ってくる気配に気づく、と言っても警戒などはしない。此処が雄英の敷地内という事もあるが……それ以上に見知っている気配だからする必要もない。
「如何したんだい葉隠さん、こんな夜中に」
「それはこっちの台詞だよ龍牙君」
そこには暖かそうなマフラーや黒セーターなどで確りと防寒を行っている葉隠の何処か怪訝そうな瞳が此方を見つめていた。そんな瞳に対しても肩を竦める程度の事しか出来ない。
「そんな薄着じゃ風邪引いちゃうよ?」
「大丈夫だよ、寒さには強いから」
身体を薄く覆うような黒炎は見えているがそれでも見た目的には寒さを感じてしまう、そんな彼へと上着を差し出す。それを断ろうともするのだが、それも悪いと思いながら意識して黒炎を消して上着を借りる事にする。ほんのりと彼女の匂いがする事に恥ずかしさを覚えつつも、それを隠すように空を見え上げた。
「良い星空だ……」
「星を見ようと思ってたの?」
「まあそういう事にしておくよ……星が綺麗なのは事実だから」
何処かボンヤリとハッキリしない龍牙、彼に対して葉隠は何処か不安そうな表情をしながらも共に星空を見上げた。そして一度深呼吸をした後に小さくよしっ、と漏らすと決心をしたように個性を解除しながら龍牙の方を向いた。覚悟を決め、精神を整えながら彼女は龍牙へと向かって―――
「りゅっ龍牙君あのその……実は龍牙きゅんにわたしゅ伝えたゃい事がありゅにぉう!!」
盛大に噛んだ。