僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「いやぁ……ミルコ姉さん強かった」
「いや他にも言う事あるでしょ」
「……ああ、あのキックは参考になりますよね」
「ちげぇよ!!お前マジでオルカの特訓のせいで感覚麻痺してんだろ!!?」
ミルコとの訓練を打ち切った龍牙は戦兎と共に休憩がてらに珈琲を飲みながら山中の景色を見つめながら話をしている。龍牙の怪我は全てフェニックスロボの癒しと再生の炎の力によって完治しており、問題なのは疲労程度で動こうと思えば全然動けてしまう龍牙に戦兎は呆れつつも引きずられるように連れて行かれていくミルコと怒り心頭なオルカを見送っていた。
「いやだって師匠の時はもっと酷かったですから、しかも一回や二回じゃないですから」
「え"っ」
「確か過重重力訓練の時と海中訓練、低酸素環境戦闘訓練と……」
「待て待てもう聞きたくない!!何お前そんなにオルカに殺されかけてんの!?」
「まあそれなりに」
シレっと言い放っているがハッキリ言って龍牙の重傷は並のヒーローだと治療したとしても後遺症が残っても可笑しくはないレベル、ピンピンしていられるのは本人の並外れたスタミナと回復力があるからこそ。そんな龍牙をもってしてもそれ程の数死にかけているという事実とそんな訓練を課すオルカに血の気が引く。
「よくもまあそんな訓練受けてんのに今回、限界突破訓練なんて申し出たな……お前からやって欲しいって言ったんだろ?」
「ええ、それが新年早々は予想外でしたけど」
限界突破訓練は龍牙が過去に受けた訓練の中でも一二を争うレベルにきつい訓練と言える、それはオルカ自身か彼が厳選した超一流のトップヒーローの中から選出したヒーローと一対一のガチバトルを行うというもの。互いをヴィランとして認識し確保ではなく殺すつもりで挑むという文字通りの命掛けの訓練。今回は近接ではトップヒーローの中でも頭一つ飛び抜けているミルコが選出されて戦う事になった。その結果があれである。
「全然敵わなかった、敵として認識はされるけど強敵としては全然思われてなかった」
「そりゃそうだろ、ミルコとお前じゃ潜った修羅場と経験の数が段違いだからな」
戦兎の言葉には明確なミルコへの信頼と思い、そして理解が含まれている。共に歩んだ現場、戦い、苦難、様々なものがその一言に集約されている。戦兎とミルコ、ラビルド、それが二人を示すチーム名だった。二人の共通点である兎、最初はそれが始まりだったらしい。
「―――戦兎兄さんはミルコ姉さんの事嫌いなんですか?」
「……お前、偶にマセた事聞くよな」
「良く言いますよ、俺と葉隠さんの仲を進ませようとして無理矢理映画チケット渡したくせに」
「ちっ流石に気付かれるか」
と口元を隠すように珈琲を啜りながらも戦兎は言葉を探すように瞳を彷徨わせた後に、頬を少しだけ赤くして呟くように答えてくれた。
「―――大好きだよ、本当はな……」
やっぱりと、思わず心の中で言葉が漏れる。二人を見れていればいやでも分かる事だが二人の仲は非常にいいのである。そんな二人が今でも口論をしつつも絶対的な絶縁をしないのは心の中でも繋がり続けているから、未だに悪友的なノリが抜けきらないので喧嘩や悪口が絶えない。
「それならさっさとより戻せばいいんじゃないですかね」
「お、お前なぁ……龍牙には分からないだろうが男と女の関係って奴はそう簡単に進展しねぇもんなんだよ!!」
「俺と葉隠さん進展しましたよ、もう交際してます」
「えっマジで」
此処でも特に溜める事もなくサラッと言ってしまう龍牙に真顔且つ地声で問いかけ直す、そして同時に嵌められた事に気付く。それが真実であろうと嘘だろうと弟に此処まで言われたら男として、大人として逃げるなんて選択肢を持つ訳には行かない。天っ才物理学者が上手く嵌められたと後悔しつつも渋々話を続ける。
「―――俺とミルコは幼馴染だ、餓鬼の頃からあいつと一緒だった。あいつの事なんて何でもわかる位には一緒だった、あいつだって同じで俺の事なんて親の次に俺を理解してやがんだよ」
何処かクールに決めつつも頬が緩んでいる事を龍牙は見逃さなかった。
「一緒にヒーローになるって言って、一緒にヒーロー科入って仮免一緒にとってラビルド結成って馬鹿やったよ……結局俺のヒーロー活動は1年で終わったけどな」
「研究に専念する為でしたっけ」
「ああ、元々そっちが本職みたいな個性だからな。俺が裏方でミルコが活動で釣り合いを取るつもりが何故か俺も間で一緒になってたな」
でもそれは突然無くなった、ベストマッチの解消と同時に戦兎とミルコは共になる事は無くなった。二人の道は別々の方向へとねじ曲がってしまった。そしてその時は一生そのままでいいとさえ思っていたのに今はこうして顔を突き合わせてまた喧嘩するなんて思いもしなかっただろう。
「それなら素直になっちゃいましようよ、素直に」
「だからそれが出来たら苦労しねぇってんだよ……」
「兄さん、後ろ後ろ」
「あんっ……ゲッ!?」
「ゲッはねえだろ、ゲッは……」
そこにはボロボロになっているミルコが立っている、その背後には何処か満足気な笑みを浮かべているオルカが佇んでおりちょいちょいと手招きをしているので龍牙は立ち上がった。
「それじゃあ呼ばれてるので」
「お、おい待て!?お、おい龍牙さんお待ちになってぇ!?」
戦兎の言葉なんて完全に無視!そのまま駆け出してオルカと共に去っていく弟に行方を失った手は近くまで来ているミルコしか行き場がなかった。そんな彼女も赤みが増した頬を掻きながら困ったような表情をする。戦兎も如何するべきかと思いながらも水筒の珈琲を紙コップに入れながら伸ばした手で自分の隣の地面を叩く。
「んなとこでボ~っとしてねぇで座れったら、如何なんだよ馬鹿ミルコ……」
「お、おうそうだな……」
「ほれっ……!!」
「サ、サンキュッ……!!」
と何処か粗野で乱暴なやり取りをしながらも二人は腰を落ち着けた。何とも重苦しい空気が辺りを包み込む、戦兎は今すぐにでも此処から逃げ出したかったが自分のプライドなのかよくわからないがそんな物が邪魔をして腰を浮かす事が出来ずにいる。それは彼女も同じなのか同じように顔を伏せたまま一言も話さずに紙コップを見つめ続ける。どれだけの時間が経ったかもわからない空間を破ったのは戦兎だった。
「―――ミルコ」
「な、なんだよ」
その時の声色は彼女にしてはやけに女らしく細く高かったので少しだけ頬が緩んだ。
「俺達さ、昔はずっと一緒だったな」
「……そう言えばそうだったな、何をするにも何処に行くにも一緒だったな。今思うとお前俺にべったり過ぎだぜ」
「それはお前もだろ、何かある度に俺の家に来て質問攻めにして終わったと思ったら外行こう!!だったじゃねえか」
「何言ってんだよお前だって意味分かんねぇ科学フェアやら展覧会やらに行くぞ!って俺を引っ張ったじゃねえか」
距離を測っていたかのような言葉を皮切りに二人の会話は止まらなくなっていた。昔語りに始まって思い出、楽しかった事や夏休みの自由研究、色んな事をして大人を驚かせ続けていた二人は気付いたらラビルドなんて言われるようになっていた。そう、ラビルドはヒーローチームの名前でも何でもない。自分達を纏めた呼び名でしかなかったのだ。
「なぁっ戦兎―――」
「ああ、いいぜ」
「まだ何も言ってねぇよ」
「言わなくても分かんだよ」
「そっか、んじゃこれは分かるかよ」
直後に戦兎は何も言わなかった、暫しの間何の音も立たなかったが小さく紙コップが落ちた音だけが響いてその後に戦兎がそっとミルコを抱き寄せる音だけが聞こえてきた。
「―――分かってんだよンな事なんて……俺のベストマッチはお前しかありえねぇって……」
「そりゃこっちの台詞だ、もう離さねぇからな。馬鹿戦兎」
「馬鹿って言うな馬鹿ミルコ……なあ俺今何考えるか分かるか」
「分かるぜ、お前だって俺の考えてる事分かるだろ。一緒に言おうぜ」
『愛してる』
直後に小さな雫が落ちる音がした。それは誰にも聞かれる事も無く大自然の中に溶けていった。