僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
見つめる視線にある高みに思わず声が出た、そこにあるのは諦めではなく単純な羨望だったが余りにも長い過ぎる道程に溜息しか出ず本当に自分に至れるのかという疑問すら湧き上がってしまう程。何もかもが遥か上にそびえている兄が如何しようも無く羨ましかった。自分ならばあの場にいたらどうなっていた事だろうか。
「悪魔の無慈悲・恐怖の誘腕!!」
「ドラゴン・スマッシャー!!!」
空気を震わせ、揺るがせるようなあの一撃を真っ向から勝負できるだろうか。いや自分と兄は違う、兄が持久力が全体の持ち味を底上げするタフネスファイターだとすれば自分はテクニカルスピードファイターだとブラドキング先生が言っていた。あれと真正面からぶつかり合う事自体が間違っていると分かっていたも……自分ならば対応出来ていたのかと、対抗出来たのかと考えてしまい絶対に無理だと現実に否定される。
「凄いな、お兄ちゃん……」
始まりで言えば自分の方が早かった。個性を十全に扱えていた自分は発現した当初から訓練や扱い方を学び続けていた。それに比べるという言い方をすると失礼だが兄は2年以上も遅れている筈だった、そしてそこから兄が始まった筈だった。環境も、訓練の内容も負けたとは思っていない。挫折もしたし苦心もして今の自分がいるのに……。
―――ゴアアアアアアアアアァッッ!!!!
「遠いなぁ……」
猛き咆哮を上げながら悪魔の力と拮抗しながら義兄のような関係にあるビルドと共に協力し続けている龍牙が―――何時の間にか兄よりも大きい憧れになっていた。そんな自分を察するように祖父が頭を撫でる。
「……お爺ちゃんってどの位お兄ちゃんの事知ってるの」
「我が龍牙を知り得たのは情けないがつい先刻、故にそれほど多くは無い。かの雄英の校長とギャングオルカが義父となり育成を担い、龍牙を育て上げた。修練の内容にはやや物申したいがな」
少しばかりの茶目っ気なのか冗談が混ぜ込んだ言葉に気遣いを感じながらも、それでもきっと両親のあれこれを僅かな時間であれほどまでに調べ上げた神使の事なのだからきっと自分以上に兄の過去にも精通している筈だ。妹といっても自分が兄の事を知っている事は……未だに狭い。
「お爺ちゃん、私を鍛えてくれる事って出来る?」
「汝が望むであれば、だがそれは同時に―――神使の門を潜る事を意味する」
「それでもいい。私は―――お兄ちゃんの隣に立ちたいから」
白鳥、大決心の
「セイヤァァァアアア!!!」
「ドォリリャアアアア!!!」
「ガフッ!!!」
全身を使った回し蹴りと同時にビルドの飛び蹴りが善魔の首元へと炸裂する。ビヨンド・ザ・リュウガとラビットラビットフォームのそれならば確実に死んでいる筈なのに、それを受けながらも吐血こそすれどいまだ健在なりといった姿を崩す事もなく、唯々首の骨を鳴らしている善魔には最早凄いを通り越してホラー級のインパクトを受けてしまう。
「あいつの個性の上限ないのか!?もうどんだけダメージ与えると思ってんだあの野郎!!」
「信じられないですね、師匠直伝の人間の弱点に躊躇抜きのガチで打ち込んでるのにピンピンしてるとか……普通延髄にドラゴン・スマッシャー打ち込んだらよくて瀕死の重体になっても可笑しくないと思うんですが」
「いやオルカに何仕込まれてんお前」
個性に現界なんてないと言わんばかりに防御と強化を繰り返し続けていく善魔に流石の戦兎ももう呆れ果てているかのような声を上げてしまっている。龍牙的にもハッキリ言って如何するべきか悩みどころだった、スタミナ的にはまだまだ余裕があるので持久戦は望む所だが、それをしてしまうと逆に相手を強化するばかりなので悪手悪手が続いてしまう。決定的な何かでそれを突破しなければならない。
「あっそうだ、良い事考えた。龍牙、あいつの動き止められるか」
「……長くは続きませんよ」
「それでいいんだよ」
「分かりました……じゃ!!!」
腰部からバスターベントならぬスラスターベントとでもいうべきものを出現させて推進力を得て加速する、黒炎を使った飛行能力の獲得に咄嗟の思い付きで達成する。そしてそれを使いながら懐に飛び込みながら全力でドラゴン・スマッシャーを打ち込む。
「もう既に、それは利きませんねぇ!!」
「っ……!!!」
と大胸筋を膨らませるが如く、大胸筋でそれを防御するとお返しと言わんばかりに攻撃をしてくるのだがそれを敢えて受ける。過去に受けたオールマイトの一撃にも匹敵するような一撃に苦しい声が漏れるが成長の成果か耐えきりながらも同時にカウンターのドラゴン・スマッシャー、そして同時に鏡からの反射で同時に攻撃をぶち当てる。それは見事に鳩尾に命中したのか、流石の善魔も苦しみながらも膝を突く。
「戦兎兄さん!!」
「待ってたぜ、この瞬間をぉ!!」
背後に素早く回り込んだビルドは何かを向けた、それに対して防御を固める善魔だが……何も来ない事に僅かな疑問を思うが直後に全身に異常な倦怠感と疲労感が付き纏った。同時に全身の強化が著しく低下していくのを感じる。
「何をっ―――!!?」
「っしゃあ成功!!」
善魔の視線の先にはパンパンに膨れ上がったボトルを確保して笑い声を上げているビルドの姿があった。戦兎の考え付いた作戦、それは―――己の個性をフル活用する事だった。
「そうか、そうでした……桐生 戦兎博士の個性は抽出……!!」
「その通りだ。抽出された個性は極端に個性を酷使した状態にされる、お前の力も個性によるもの。だったらその個性を封じてしまえば何も怖くはない!!」
「こんなっ……私が、一瞬で……!?」
己でも驚く程に強化されていた状態、それは過去と比べても確実に最高を更新し続けていた筈の身体が瞬時に弱り切るというあり得ない状況に善魔は動揺した。個性が使えなくなる、そんな事態も考えて個性を鍛えた筈だった。得た力と個性は別々に出来ないかと試行錯誤の末の力が、戦兎の個性によって一瞬で衰弱させられてしまった……。
「こんな手は出来れば使いたくなかったけどな、どこぞのオール・フォー・ワンみたいだし」
「クククッ……成程、それは、博士からすれば取りたくない手段かもしれませんねぇ……ククククッいやはや……」
不敵な笑いを浮かべ続ける善魔、そして既にフレームだけになっている眼鏡を丁寧に折りたたみながら辛うじて無事なスーツの胸ポケットへと収めると大人しく両手を上げて宣言した。
「参りました……これでは勝つどころか逃走も不可能でしょう……」