僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「―――此処か、蛇腔総合病院」
個性に根差した地域量を掲げ、設立後慈善事業に精を出す。全国各地に児童養護施設や介護施設の開設、個人病院との提携などを行うそれらの結果、人々から敬意を集めながら受け入れられるのが殻木 球大。蛇腔総合病院の設立者にして現理事長―――それが今回のターゲットでもあるそれを目指して龍牙は天高い雲に隠れるようにしながらドラグランザーに乗りながらその病院を見つめていた。
「此処に目的の何かがある筈だ、ヴェノム探るぞ」
『はいよ、だが制限時間を忘れんな』
「分かってる、お前と一体化してもミラーワールドに無条件に居られるのは15分が限界。そっからは俺の体力次第……唯やるだけだ」
ミラーワールド、龍牙の個性の中でも最も異質とされるそれは龍牙にとって最大の武器になると同時に自らの首を絞めかねない凶器でもある。有効に扱えればこれ程までに有効な物も無いだろうが……誤れば一気に自分を堕とし込む。
「此処が仮に奴らの拠点だとしたら……ミラーワールドに入るまで油断する訳には行かない、此処は高度3500m。そうそう見つかるとも思わねぇが……油断しないに越した事は無い」
気温約7度、強風が吹き荒れる中でも龍牙はそれらが全く応えてない。これも当然オルカの仕込み、極限環境下での戦闘訓練も行っているので寒さに対する耐性もバッチリ稼いである上に龍牙自身は黒炎の鎧を身に纏う故に寒さとはほぼ無縁に近い。そうでなくても7度程度ならば全然許容範囲内。
「―――行くか」
ミラーワールド、鏡合わせの世界。全てが反転し不気味な程に静寂で命の気配がない世界。そこにいるのは龍牙とヴェノム、そしてドラグランザーのみ。それ以外は現実世界のそれと全く物がある、欠点として全てが反転しているので文字を読むのがやや面倒だったり通路なども反転しているので迷いやすい事ぐらいだろう。
「どう見ても普通の病院だよな……」
『そう見えるな、薬品の匂いしかしねぇな。当たり前だが』
誰もいない鏡の世界の蛇腔病院は特に目立つ事も無い普通の病院、一応ミラーワールド内から案内板などを撮影しておいて証拠としておく。
『そもそもあの脳みそ野郎はどうやって作んだ?』
「安っぽく考えれば漫画の悪の組織みたいに人体改造とか手術とかしてじゃないか?」
脳無の製造方法、この病院であり得るかもしれない可能性として最も高いのがそれ。福岡などに出現した脳無のハイエンド、それは自身の個性さえも複製したのかそれとも変異させたのか、それらを用いた脳無の記憶は新しい。それらの数を揃えられるとハッキリ言って厄介なんてレベルの次元の話ではない、と思っていたが確かに如何やってくるのかも疑問になる。
『ずっと考えてたが、あれは生きてねぇとダメなのか』
「どういう意味だよ」
『―――死んでる奴から作る事は出来ねぇのかって事だ』
「っ―――!?」
死体の利用、確かに生命を終えた後の身体にも個性因子は宿っている。それから個性を引き出す事も逆に様々な手段を講じる事で自由に改造する事も可能、態々生きている人間を捕獲する手間も無いので良い事尽くめ。そして動かなくそれを個性で動くようにすれば脳無が出来上がるのではないだろうか。余りにも命を侮辱した外法の技、狂気としか言いようが無いだろう。
「考えたくねぇなぁ……死体で脳無作りとか」
『いやそうじゃねえだろ、仕組みとかは知らねぇが最近リューキュウが嵌ってるドラマでやってたぞ。ビョーインには霊安室っつう死体を保管する部屋があるってな』
「っ……まさか、いや」
辻褄が合ってしまうのだ、ヴェノムの素朴な疑問から生まれたそれは一気に膨れ上がっていきどのように行動すべきだったのかと穴にピッタリと当てはまるピースとなった。いやな予感を感じながらも霊安室へと向かって行く。そしてそれは当たっているかのように一歩一歩進んでいく毎に自分の中で確信めいた嵐が起きつつある。そして霊安室へと足を踏み入れると―――その奥から凄まじいプレッシャーを感じた。ミラーワールドであるのにも拘らず、現実世界のそれが伝わってきている。
「この先だな……」
『上手く隠してあるらしいが……無駄だ』
力仕事は任せろと言わんばかりに表へと出たヴェノム、首を鳴らしながらも自慢の剛腕を振り抜くと霊安室の壁が同じ階層の壁を衝撃波でぶち抜きながら粉々にする。ミラーワールドと現実の世界は同じものを共有している訳ではない、例えミラーワールドで山を一つ消し飛ばしたとしても現実には何の影響もない。唯々向こう側で生まれた存在を映し出すだけの鏡の世界。
『ちょろいもんだ』
「上出来だ、だがこの先に何がある……急ごう」
既に残り時間は10分を切っている、その先は自分の体力を削って探索するしかない。緊急の撤退や戦闘の事を考えて使えるのはそれほど多くは残っていない。身体の主導権をヴェノムに渡しながら一気に駆け出して行く、体格も上であるのでこちらの方が早いと思い付ながらも無数のパイプにケーブルが入り乱れている人口のジャングルがそこにはある。それらが生み出す仮初にして虚空の果実―――脳無。
『―――如何やら正解だったらしいな、俺の勘も中々なもんだ』
「……喜んでいいのか微妙だな、此処が脳無の製造場所……」
無数に繋がるケーブルやパイプの際にある無数の透明なカプセルたち、それらを取り囲むようにズラリと並べられた小さなケースの中に収められたチップのような何か。それらの解明は難しいだろうが脳無との関連性を考えて行けばそれらを推測する事は十二分に可能だった。考えたくも無い事だが思考を止める訳には行かない。
「おいおいなんだこの数……これが全部脳無だってのか」
『中も入ってんな、やっぱりこいつは死んでるって事か……』
ミラーワールドの大原則。現実世界の物を映すだけであり、そこに他の命は無い。龍牙とドラグブラッカーしか入る事が出来ない世界に他の命は無い、そしてそれは脳無が本当の意味で空虚な亡骸を冒涜な手段をもって躯人形として操っている事実にも成り得る。考えたくも無かったがヴェノムの予想が当たってしまった。カプセルの中の溶液の中に浮かんでいるそれらに対して意味などないかもしれない手を合わせておく。
「……」
『おい龍牙、あのカプセル何も入ってねぇぞ』
「何?」
ヴェノムの言う通り、それを見て見た。一際馬鹿でかくより大掛かりな設備によって支えられ稼働していると思われるカプセルが鎮座している。だがその肝心の中身は空、本当に空であるならばいいが……もしもあの中に生きている何かが入っていたとしたら……確認しなければならない。カプセルの鏡面からそっと、現実世界を覗き込む―――そしてそれを見た、感じた。
『おいおい冗談じゃねぇぞ……』
ヴェノムが冷や汗を流しながら顔を強張らせている、その光景に目を疑いながらも其処に居る存在を否定したかった、否定して欲しそうな声を上げる。
「……マジかよ」
単純に空であったならばどれだけ良かった事か、それとも新しい脳無を作っているのならばどれだけ良かった。たとえそれが自分の新しいハイエンド脳無・モデル龍騎だとしても構わなかった。その程度ならば何の問題も無かった事だろう―――だがあそこにいるそれはそれ以上の物だった。あそこにいるそこは脳無なんて生易しい存在だった……あれは……
「オール・フォー・ワン……」
それを真っ先に連想させた。それが再び胎動を始めようとしている、そう認識した。
―――正解だよ、鏡 龍牙君。
「っ!?」
そんな声が、聞こえるはずもない声が……聞こえてきた。全てがこうなると知っていたかのような―――帝王の声が響いていた。