僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
―――僕の期待通りに君は辿り着いた、うんうん子供の成長というのは何時の時代も素晴らしいね。
『おい龍牙この声は……』
「何、であいつの声が、聞こえてくる……!?幻覚、いやなんでヴェノムにも聞こえてるんだ!?」
―――漸く出てくる事が出来たよ、ンフフフフッ……君も実に素晴らしいヒーローになれたようだね。
誰もいない鏡の世界に響き渡っている謎の声、それは忘れる事も出来ない悪の帝王の肉声だった。紛れもなく間違える事さえも許されない声、相手の心へと入り込み相手の望みを叶えつつも自らに屈服させる事で自在に操り、様々な道を歩ませ、破滅へと誘う狂気の星。オール・フォー・ワン……紛れも無く、それだった。
「何処だ、何処にいる!!」
―――僕は何処にでもいるし何処にもいない、残念ながら今の僕は極めて曖昧な状態でね。
『どこに居やがる、この不快な声の野郎は!!』
―――おやおや随分と素晴らしい友人が出来たじゃないか、君らしい。それとも外見繋がりかな?
「出て来い、オール・フォー・ワン!!!」
―――良いだろう、だが場所を変えようじゃないか。
瞬間、鏡の世界に空虚な穴があけられた。何もない所へと開けられた穴は自分達を吸い込むと一瞬にて景色が変化して何処かの山へと変貌した。しかもそれだけではない、目の前には無数の鳥が羽ばたいている、鏡の世界ではなく現実の世界に引きずり出されたことを意味している。
「此処は、現実の世界!?まさかミラーワールドから引きずり出された!?」
『此処は……あそこから50キロ以上離れた山の中みてぇだな』
咄嗟にヴェノムが自分と同化させている端末から情報を引き出して現在地を確認しながら相手に自分達がバレていない事を確かめた。ある意味超常戦線らに自分達の存在がバレていない事は朗報だが……それ以上の凶報があった。樹齢何年になるだろうかという巨大な樹木の影、その樹木に身体を預けるかのようにしながら―――立っている般若のような髑髏のような面を付けている男がいた。それは仮面越しに口にした煙草の煙を吐き出すと
「やぁっ待っていたよ龍牙君」
旧友の息子に挨拶するかのような親しみを込めながら声を掛けた。
『っ!!!!』
対面した改めて感じるそのやばさ、正しく神野で遭遇したオール・フォー・ワンその者の存在感。それに飲まれぬと言わんばかりにヴェノムは両腕から黒糸の塊を飛ばす、極限にまで圧縮して硬質化させたそれは砲弾のように向かって行くがオール・フォー・ワンはそれを頭を傾けるだけで軽く避けて見せた。
「随分と元気がいい子だね、だが生憎僕は戦いに来た訳じゃなくてね。話をしようじゃないか―――鏡 龍牙君」
「その名で呼ぶな……俺は黒鏡 龍牙だ」
「おっとそうだったね、神使の家から認められた事を忘れていた。謝罪をしよう、これで君は本当の意味で両親の呪縛から解放されたんだからね、改めて祝福させて貰うよ」
その言葉に改めて戦慄を覚えた、何故それを知っているのか。祖父からの贈り物であり新たな自分の道として選ぶことを決めた当主になる事を何故知っているのか。何もかもが可笑しい中でオール・フォー・ワンは不気味に笑い続けている。
「まず君の疑問をハッキリさせようじゃないか、オール・フォー・ワンは神野でオールマイトに敗れ刑務所へと入れられている筈だと。そしてそれなのに自分が黒鏡の姓を正式に名乗れる事を知っているのか……僕は本当のオール・フォー・ワンではないからねぇ」
「―――何を言ってる……!?」
「単純な話さ、僕は―――君が作り出した次世代のオール・フォー・ワンだからさ」
呼吸が荒くなる、喉が渇く、身体が震えている。何を言っているのか、認めたくなかった。自分を救ったヒーローに憧れた自分が悪の帝王を作り上げた……その意味が理解出来なかった。
『おい、おい龍牙!!テメェどういう意味だ、訳は分からねぇぞ!!』
「なら一つ一つ教えてあげようじゃないかヴェノム君。神野事件、そこで彼はオリジナルの僕と出会った。それが運命の分かれ道、そこで彼は個性を完全な状態へと戻された。嘗て彼が制御しきれなかった個性を僕によって抜かれた部分を戻された―――だが君は考えなかったのかい、10年余りにも僕の手中にあった個性に何もしてなかったとでも」
嘗て、福岡でハイエンド脳無との戦闘で重症の果てに意識を失った龍牙は己の深層心理にてドラグブラッカーと対面した。その時に黒龍がその気になれば龍牙を乗っ取る事が可能だと言われた、オール・フォー・ワンによってそうするように誘導をされていたと、だがそれを拒み自分とある道を歩んだ―――筈、だが実際は……。
「オリジナルは自身が敗北する事を考えなかったと思うかい、戦いになった時点で既に幾つかの保険や仕込みを行っていて当然だ。だからこそオールマイトと戦うという事を選択したんだからねぇ」
『その保険がテメェって事か……!?』
「そうと言っても良い、龍牙君が生き抜く力を発現させた直後に彼には催眠状態だった。何故そうしたと思う、それは僕という存在を仕込んだからさ」
万が一の保険、いやそれは保険というにはあまりにも大きすぎる力。悪の帝王は自らの分身とも言える存在を生み出した、剰えそれを黒龍と共に龍牙へと埋め込んだ。それは猛烈な拒絶反応と共に黒龍の個性の生き抜く力を覚醒させながら龍牙を焼き尽くした。その果てに龍牙の身体は急速に適応進化し受け入れられない筈の黒龍とそれを受け入れてしまった。
「だが時間が無かったからねぇ、ギャングオルカのせいで僕の成長を促す個性を埋め込む事が出来なかった。だから今にもなって出てきたという訳だ。君の成長を糧に僕はこの通り、成長を遂げたという訳さ」
『……なんてこった』
ヴェノムは言葉を失っている龍牙の代わりと言わんばかりに呟いてしまった、リューキュウの現在はリューキュウのサイドキックとして活動をしているがその過程で勉強もさせられた、その時にオールマイトによって倒された巨悪、オール・フォー・ワンについても学んだ。その恐ろしさも理解している。その存在を自分が成長させてしまっただけではなく自分の最強の力さえもそれによって齎されたと分かった龍牙の今の心境は如何だろうか、誰にも推し量る事なんて出来ないだろう。
「嘘っ……を、言うんじゃ……」
「事実さ、君とて理解している筈だろう」
既に言葉に力が無い、何もない。自分の中にあった何かが壊れるような音がした、ヒーローが悪を生み出した、それは悪ゆえに正義を成す力が生まれたのとは意味が違う。善を成し正義を全うする人間がする事ではない。
「ンフフフフッ……矢張りヒーローが絶望する顔は良いね、君のそれは正しく絶望のそれだ」
『テメェ……!!』
「だが抗う意志は残ってるようだね」
ビルドドライバーにドラゴンを接続しながらもドラグブラッカーと共に立ち上がると鋭い瞳を向けながら荒い息を吐き出し、拳を握った。
「お前が俺から生まれたなら―――俺はそれを刈り取るだけだ、育て上げたのならばその責任を取るだけだ……世界を混沌に落とす狭間を生む闇、オール・フォー・ワン……オールマイトに変わってお前はおれが討伐する!!!マぁスクゥッ!!!」
『了解、それでいい戦え龍牙!!』
「変身!!!」
ヴェノムと一体化しながらのビヨンド・ザ・リュウガ、オールマイト並の体格を得ながらのその姿に複製とはいえオール・フォー・ワンは不気味に笑いながら言うのであった。
「いいだろう、君が納得しないのであれば存分に付き合おうじゃないか。僕としても今の君の実力が気になるからねぇ……」
そう言いながらその手に何かを収束させていく、それは―――自分が使う物と同じビルドドライバーを装着しながら取り出したのは戦兎のハザードトリガー。
「幸運だったよ、近くで見られるとはね。オリジナルもあれは知りたがってたよ、だから実に幸運だ―――だから僕が使えるんだけどね」
「こうするんだったかな―――変身」
―――そこにあったのはもう一つの龍牙いや、悪意が黒龍の力を更なる悪意によって血で染め上げた赤黒い龍。それを纏った巨悪はその力に満足気な笑いを上げると言った。
「君に倣うならばそうだね……ドラゴンライダー・エビルブラッド、とでも名乗ろうかな。さあ君はこれを如何するか―――見物だね」