僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
音を立てながら稼働し続ける医療器材、それらは龍牙の命を繋ぎ止める重要な役割を担っている。身体中へと繋がれているチューブ、それらの一つでもかけた時間違いなく龍牙は確実な死を迎える。規則正しいが弱弱しい鼓動は本当に続いていくのかと不安を煽る。一定の水準まで安定したためか、病室に入る事を許された面々はその痛々しい姿に目を覆いたくなる。
「やぁっ龍牙、本当に君は何時も傷だらけだね。それは君の師匠が厳しいからだけど、君はそれを乗り越えるから本当に凄いと思うよ。ねぇっ龍牙……」
頭をそっと撫でてやる、浅く薄い呼吸音がするマスクに胸が痛む。必死に平静さを取り繕いながらも普段と変わらぬ声色で問いかけてやる。きっと龍牙もそれを望むだろう、彼にとってそれが何よりも尊いと根津は知っている。
「もうすぐバレンタインだね、きっと葉隠さんは君宛に凄い物を用意してる筈だよ。君もそれを確りと受け取ってお返しの準備もしないとね……良く、頑張ったね……君は僕の誇りだよ、だから今は―――ゆっくり身体を休めて……」
本当は頑張って欲しい、生き抜いて欲しいと思う。だがもう休んで欲しいという思いもあった、激動の人生を送り続けた龍牙はもう此処で休みを貰ったとしても許されるはずだ、例え此処で彼が生きる事を諦めてしまっても誰もそれに文句を言う資格は無い。それだけの人生と苦しみを味わい続けた龍牙には休養が必要だ、全てを忘れさせる程に深い休養。だが親としては元気になって欲しい、彼が大人になった時の為にとっておきのワインも用意している。
「だから―――元気に、なってよ龍牙……」
「あ、相澤君!!」
「……オールマイト、授業中です静かに」
「す、済まない……」
雄英高校、相澤が受け持つ授業中にオールマイトが飛び込んできた。息を切らしながら現れたオールマイトにA組の生徒達は驚いたが相澤にオールマイトは何かをこっそりと伝えると表情を一変させながら共にやって来たミッドナイトにその場を任せながらオールマイトと共に教室を飛び出していった。
「その話本当なんですか」
「校長先生からの直接の連絡だ、確実だ」
「ですがあいつが……」
教員室の一角は異質な雰囲気に包まれていた、届けられた凶報。黒鏡 龍牙が瀕死の重体を負い緊急入院をした旨が伝えられた。担任である相澤にそれを伝える為にオールマイトが走った、突然すぎる事に流石の相澤も言葉を失った。彼の強さを良く知っている身としては信じられなかった、あの龍牙が死ぬかもしれないという話を聞かされて冷静さを保てない。ヒーローである限り、命を懸けるのは当然でありこうなる可能性はあり得た。分かっていた筈なのに……と相澤もそれだけ教え子の事思っていたという事だろう。
「私はこれから先生の所に行く、相澤君も同行するかい」
「……いえ、俺は、遠慮しておきます……」
非合理的、と思いながらも湧き上がる感情の制御に必死になっている。合理さだけで生きて生ける程に人間は単純ではないという事だろう。オールマイトは兎に角車を調達すると直ぐに行動に移した。頭の中では先程の根津からの電話が何度も何度もリピートされ続けている。
『オールマイト落ち着いて聞いて欲しいんだ―――オール・フォー・ワンの複製が動き出している』
『な、なんですって!!?』
『……しかもそいつは龍牙と直接戦闘をして、龍牙を……瀕死の重体に追い込んだ』
『黒鏡、少年がっ……!?』
「オール・フォー・ワン……何処まで貴様の思惑の上だ……!!」
「戦兎如何だ」
「……駄目だ、捜索範囲を広げる」
病院近くに止められている大型のトレーラー、その内部は戦兎の移動式のラボとなっており彼が厳選した設備などが搭載されている。その機材には彼お手製のガシェットによって行われている捜索状況とドライバーの反応を映し出されている、エビルブラッドが自分のドライバーとトリガーを使っているのであればその残滓が必ず残っている筈だと捜索に乗り出している。
「俺が……俺がもっと、確りしてりゃ……俺が、もっと、あいつの力になってれば……」
「戦兎……自分を責めんな」
悔やんでも悔やみきれない。エビルブラッドとなったオール・フォー・ワン、その複製体が使ったのは戦兎のアイテムなのだから。彼自身がそれを使わなければ龍牙は今のような状態にならなかったかもしれない、後悔は尽きないが、後悔で終わらせない。
「……龍牙は絶対に生きる、だから俺はその時の為に……こいつを完成させてやる」
そこにあるのは完全に破壊された龍牙のガシェットのドラゴン、それの修復を行いながらもエレメントドラゴンナックルのアップデートを同時に行っていた。出力の上限を開放しつつも新たな機能、いや此方が本命のそれを組み込んでいく。ドラゴンとの併用、あれだけ進化しても尚成長し続けている龍牙のそれを受け止めてやれる器を生み出す。それが技術者として、兄としてのしてやれる精一杯の事。
「ミルコ」
「何だよ」
「―――俺、ヒーロー復帰するわ」
「ラビルド再結成マジでするか」
「ああ、しよう」
戦兎とミルコの関係は完全に修復されている、以前よりも踏み込んだ関係となってより親密となっているが戦兎は何処か迷っていた。技術者としてあり続けたいと思いながらもヒーローとしてまた平和の為に戦いたいと思う双方の自分がいる。だが今回の事で吹っ切れた、龍牙に恥じない為に自分も本気で前に進む事にする。
「お前専用のアイテムもあと少しで形になる、真正面からオールマイトとタメ張れるような最高の奴をな」
「そりゃいいな……やってやろうぜ」
「ああ」
こうして並び立つ事もあり得なかった二人はもう一度手を取り合った。それを齎した一人の少年、その少年の事を本当の家族だと思いながら前に進んでいく。そして今は……弟の為に戦う事を覚悟する。だが、彼らは何も分かっていない、エビルブラッド。それがいる意味を。