僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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―――龍牙の話をしよう、そして前に進もう。

『ある少年の話をしよう、彼は運命の操り人形だった』

 

地獄を見た、地獄を聞いた、地獄を歩いた。何時しか地獄の中の果て、虚無の中にいた少年。

 

それを支えた憧れ、憧れは何れ現実へと至り認められるようになっていく。だがそれは客観的に見れば少年を更なる地獄へと叩き落としただけに過ぎなかった。

 

師に認められた、友を得た、理解者を得た、恋人を得ても尚、彼は安らぎを手に入れられただろうか。答えは否だ。

 

『目覚めた時から、少年は夢に繋がれていた。重い夢は満遍なく、身体から魂まで包み込む死に装束。安らぎが無い、と余人は憐れむ。安らぎがない、少年は首を傾げた。度重なる崩壊を招くそれを躊躇なく喰らい続ける―――これを異常と言わずして何と呼ぶ。』

 

異常の一言だろう、彼の人生を包むのはそれに尽きる。歪められた人生を生きながら絶望の先に見つけたそれに見放される事を恐れていた。一種の自己防衛本能、抱いた夢を志す。それも結局は自身を守る為の方便でしかない、だが少年はそれに気付けない、何故ならば―――彼の中に疑念を抱くという思考は奪われているのだから。

 

『痛み、苦しみ、悲しみなどは意味がない。絶望の果てにある虚無を一度口にした少年は、辛いと思うそれが狂っているのだから分かる訳もない。彼に本質は理解出来ない、既にそこにあるのは憧れ(狂気)だけだ。

 

お前を鍛え上げる修練だ、成程やりがいがある。お前はもっと先へと行ける、成程そいつは最高だ。

 

待っているのは狂気の沙汰。それをそれとも思わぬ哀れな奴隷に拒否することはあり得ない。』

 

夢は鎖であり病、誰かがそう言った。己が背負う狂気を他人に背負わせるのか、誰かが言った。背負わせるのではない、共に歩んでいくのだ、誰かがそう言った。幸せの価値観はそれぞれ異なるのは事実だろうが幸せと苦痛は紙一重でしかない。一歩踏み外せば―――そこで終わりだ(DEAD END)

 

『少年の話をしよう、肥大化した夢は自我を食らって行く。誰だろうと夢を見る自由はある。

 

理想の自分、理想の人生、理想の未来、理想の恋人、理想の家族。

 

誰だろうと夢を権利はあるだろう、安い夢程手に入りやすい。だが―――一度夢を深追いするのならば覚悟はするといい、狂気のその先にあるのは地獄だ。』

 

無数に舞うページの紙吹雪、その中を歩いていくのは全身に龍の鱗を作った龍牙。虚ろの瞳のまま、歩みを止めない。光り輝く星へと一歩、一歩足を進めていく。途中、身体が投げ出される、それがどうした。と立ち上がる、途中傷口が開く、だから何だと黒炎と鱗が傷口を塞いでいく。そこに自分の求める物があると信じている、求められている、その本質は―――実の両親に捨てられる前から何も変わっていない。

 

「狂っているか……良い表現だな、ドラグブラッカー」

『的を射ているだろう?』

「実にいい話だ、無意味だけどな」

 

其処に居た龍牙は砕け散り、後には今の龍牙が鎮座する。鱗を纏い身体を補強している姿は痛々しい、その鱗の持ち主たる黒龍と対面しながら何かを吐き捨てた。瀕死の重体故に自分の意識は深層心理へと誘われそこを住処とする黒龍の元へと訪れた。そこでは黒龍が改めて自分の過去を見返しながらそれを語っていた。まるで自分に聞かせるかのように。

 

『悪くは無いだろう、よくもまあ今まで生きてきた物だ』

「俺はもうあの時に死んだと思ってるよ、そこで新しい命を貰ったって解釈している。正しくそれが正しいともな、それで態々あんなものを見せ付けて―――何をさせたいんだ」

『……分かっているんだろう、俺はあの時に死んだ筈だった。だがこうして生きている、その代償が今の状態だ』

「暇な奴だな……それを聞く為だけにいまのやったのか」

『どうせ腐る程に時間はある、構うものか』

 

あの時、最後の一撃の時―――ドラグブラッカーは確実に死んでいた。個性の化身とも言えるドラグブラッカーの死は龍牙の個性の死を意味する。骸の中で息絶えようとした龍牙、今の意識不明と生死を境を彷徨っているのもドラグブラッカーが死んでいたから陥っていた。だがドラグブラッカーは蘇生された、龍牙の力によって。

 

「ンな事俺が知る訳ないだろ、死に掛けた個性の蘇生なんて普通出来ない―――筈だろうけど多分、あれだろうな。俺がオール・フォー・ワンにお前を抜き取られていても個性が使えた事に関係あるのかもな」

『個性因子誘発物質……』

 

個性が使えない時期に個性を刺激する為に投与された薬物、それらがドラグブラッカーの力を保存していたからこそ自分は個性を扱う事が出来ていた。そしてそれは鍛えられていき並の個性以上の物になっていった、それが死に絶えようとした黒龍を繋ぎ止めるように蘇生させたのではないかというのが龍牙の仮説。

 

『龍牙、お前はまだエビルブラッドと戦う気はあるか』

「当然だろ、あいつを放置する訳には行かない。結果論だがあいつは俺が生んだ化け物だ、俺が狩る責任がある」

『……あれだけの傷と力の差を見せ付けられたというのに、よくもそんな気が起きるものだな』

「大体師匠の修行のせいだけどな、あれらに比べたらこの世の出来事なんて大抵の事が霞んで見えるぞ」

『やっぱり狂ってるぞお前』

 

心なしかジト目になっている黒龍に肩を竦める龍牙。それも否定はしない、自分の基準の大半は既に師との中にあるのだから。だがそれでいい、それが今の自分なのだから。そんな自分に呆れながらも黒龍はあるものを吐き出した、それは黄金の嵐とも形容するべきものなのか……神々しく輝く光の塊。

 

「それは……」

『俺達が真の意味で死に近づいた事で漸く出てきた物だ。あれが俺達に埋め込んだ生きようとする力、奴曰くサバイブ、俺達で言う所のビヨンド・ザ・リュウガ、これも個性の力だ』

「……結局俺の最高の力すらあれに与えられた力ってか、正義は常に悪より生まれ出ずるって事か」

『根本的な話をするならば善も悪も人間から生まれるものだろ、結局の所使う人間次第って所だ』

 

その悪に一時期組して自分の拠り所となるハイエンド脳無の製造に力を貸していた存在が良く言うと思いながらも確かにその通りだと思う。

 

『進化を促す個性とも言うべきか、生命の進化の根源でもある生き延びようとする力らしい。龍牙、お前は脳無として見ても超極上の個体らしい。何の改造も無しに複数の個性に適応出来る逸材だと言っていた、なら―――奴らが望んだ物をお前のやりたいように使って悔しがらせてやれ』

「―――好きかって言いやがって……良いだろう、なら使ってやろうじゃねえか」

 

そう言いながら黄金の嵐を掴む、同時に身体中に溢れる力の波動。光であり闇でもある、進化であり真価を持つ個性―――それに指を掛けた龍牙は迷う事なく握り込むとそれを胸へと押し付ける。同時に心臓が幾つにも増えたかのような爆発的な鼓動が全身を駆け巡っていく。だが苦しむ事も無くそれを受け入れている、オルカの異常な鍛錬が此処でも役に立っている。

 

「覚悟は良いか、ブラッカー。此奴は半端じゃねぇぞ」

『今更だな。てめぇに戻った時から覚悟は決まってる』

 

―――変身!!

 

 

瞳を開くとそこには見慣れない天井、そして自分を囲んでいる医療器具の数々と無数のチューブや輸血パック。それだけで自分がどれほど重傷だったのか察する事が出来る。同時に思う、これが葉隠にバレたら絶対怒られると。その時、扉が開く音がした。同時に荷物が落ちる音がしたので視線を向けてみるとそこには―――驚きのあまりお見舞いの品と思われる果物を落とした戦兎にミルコ、そしてギャングオルカの姿があった。

 

「……りゅ、龍牙お前……?」

「ご心配、おかけしました」

 

次の瞬間、揃って自分の身体を抱きしめに来た三人。が、起きたと言ってもまだまだ身体はボロボロなので―――龍牙は絶叫を上げて意識を喪失するのであった。

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