僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
薄暗い光だけが頼り無さげに照らされているバー、カウンターの奥では頭部は黒と紫が入り混じったような霧のようなものから僅かばかりに二つの光が瞳のような物を模っているおかげなのか顔である事が認識できるものがグラスを磨いている。そんなバーカウンターに腰掛け、ショットグラスを傾けているのは全身の各部に手を付けている男、そんな彼はバーの入り口が開くベルの音に瞳を向けるとそこには待っていた二人組がそこにいた。
「よぉっ遅かったじゃねえか」
「こっちもこっちで役割がある事を忘れてないだろ、意地悪だぜその言葉」
「弔君こんにちわ~黒霧さんも」
「ええお元気そうで何よりですトガ ヒミコ、そして龍牙」
目の前にてグラスを傾けながら中で揺れている氷の音を楽しんでいるかのような男、死柄木 弔は龍牙の上位者。いや立場としては対等に近いが意図的に彼の右腕に徹している。本人としても上に立つ気質でもないのもあるが弔を立てた方が良いと判断した。
「準備は万端なのか」
「勿論、脳無の準備もな」
中指だけを反らすようにしてグラスを持つ手で隅を指すとそこには脳みそ剥き出しになっている巨漢が鎮座している。それこそが脳無、改人脳無。これからの襲撃計画の中核をなす存在であり別段捨て駒にしても構わないとさえ認識している程度の中核。
「んじゃ行くか―――ヴィラン連合、行動開始。目標は雄英」
その言葉の直後、全員が歪んだ表情とそこから底知れない悪意と敵意を露わにさせながら一歩を踏み出しながら次のヒーローを育て上げる教育機関の最高峰の雄英への一歩を踏み出してしまった。
行動が開始された。雄英高校への襲撃、大胆不敵過ぎる行動は万全な下準備によって支えられていた。襲撃の標的としたのは雄英高校にある施設の一つである嘘の災害や事故ルーム……通称USJ。セキュリティを妨害する事でそこを外界とは隔絶したクローズドサークルへ、そして雄英への移動にも用いた黒霧の
「……いねぇなオールマイト、遅刻かよ平和の象徴が」
「いねぇならいないで行動するだけだろ、いなくても出来る事なんて幾らでもある」
「それもそうだな―――手始めに、捻じ伏せてやれ脳無」
この授業に参加すると事前調査で判明していたオールマイトの姿が全くない。予定外の事でも起きたのか、それとも単純な遅刻なのか……兎に角理解の範疇を出ないが行動は起こす。数を揃える目的で連れてきた小物を蹴散らすように倒していく雄英教師のプロヒーローのイレイザーヘッド、最後の一人を倒したところに脳無が襲い掛かっていく。イレイザーヘッドは
「そのまま抑え付けとけ脳無、絶対に顔は上げさせんな。そいつの個性は面倒だ」
「さてと……これから如何するか」
「私誰かの血を採取したいです、役に立つかもしれませんし。手始めにイレイザーヘッドの血でも採っておきましょうか」
懐からチューブが繋がっている注射器に似た物を取り出しながらその矛先を伏せられたそれに向けて狂気じみた笑みを浮かべた時だった。彼らの背後に黒い靄のような霧が広がった、それは黒霧がワープしてきた証拠。彼は生徒らを散らす役目の筈だが……弔は不審そうな瞳を向けながら問う。
「問題か」
「申し訳ありません死柄木弔、13号は戦闘不能にしましたが生徒の一人に逃げられてしまいました。直此処にプロヒーローの教員たちが来るでしょう」
「ぁぁっ~……想定してたが流石は雄英ってとこか、想定内だがオールマイト一人とプロヒーロー多数じゃ条件が違い過ぎる。撤退が妥当か……」
首筋を指先で摩るようにしながらも想定通りに物事は進まないことと予想自体は当たるもんだと溜息を洩らす弔は冷静に撤退すべきだと判断する。そもそも最低限の目的は達成されている、オールマイトの殺害や雄英の失墜などは次いでの目的程度に過ぎないのだから。
「えっ~もう帰っちゃうんですか、私全然働いてないです」
「そう言うなトガ、最低限の目的は達成した。それに黒霧、13号はそれなりの手傷は負わせたんだろ」
「はい、彼の個性を逆に利用して」
「んじゃそれなりの手傷って事だな。それらを総合すると……あと一押しが欲しいな」
「ならよ―――そこで覗き見している餓鬼を血祭りにでも上げるか……?」
その言葉の直後、龍牙の全身は黒い炎に包まれながら黒い龍の戦士と化した。爛々と輝く血のように赤い瞳は獲物を決めた肉食獣のように凶悪な眼光をそちらへと向けた。同時に出現する黒い龍も獰猛な唸り声を上げながら水難エリアの岸近くから此方にバレないように隠れ見ているかのようにしている生徒らへと瞳を向ける。最初からバレている、あの程度で気配を殺しているつもりなんて片腹痛いにも程がある。例えそれに気配を殺しているにしても視線に込めている感情まで殺さないと自分達にはばれてしまう。
「バ、バレてッ―――!!?」
「ケ、ケロォッ……!!」
「か、身体が動かねぇ……!!」
バレてしまった、逃げないとまずいと分かった瞬間に叩きつけられた混じりけが無い純粋な殺意と敵意が全身を貫いた。本能を直撃するかのようなそれらは彼らの原始的な部分を刺激した、全身が動けなくなり思考が凍り付いてしまうほどの圧倒的な恐怖が三人の雄英生徒へと襲い掛かった。異形の龍戦士は右手の龍の頭から黒炎を溢れさせながら一歩、また一歩と彼らへと近づいて行った。
「あっリュウ君、私は血が欲しいです。だからある程度の原型は遺して欲しいです」
「了解、精々上半身が吹き飛ぶ程度にしておく」
まるで彼女が彼氏に対してプレゼントにバッグが欲しいと強請ってそれに対してOKを出すかのような軽い空気で口にしている言葉は酷く残虐で残酷な言葉の羅列だった。より一層の恐怖が迫ってくると言うのに身体は愚か口すら動かない、喉が枯れ舌が乾いていく感覚があり震えが止まらなくなってくる。そして逃がさないようにと自分達の背後に黒龍が回り込みながら迫った龍牙は最後の慈悲と言わんばかりにこういった。
「解放してやるよ―――恐怖からな」
引かれる腕は引き絞られる矢の如く、正確に自分達へと狙いを定めた矛先。向けられたそれが迫り手始めに緑髪の少年を焼き尽くそうという所で爆発のような凄まじい音が巻き起こった。その出所はUSJの入り口、そこから一つの希望が現れた。生徒にとっては希望、ヴィランにとっては絶望であり終わりのそれが常に浮かべている筈の笑顔ではなく険しい表情で登場した。
「もう大丈夫―――私が来たッ!!!」
「―――弔」
「ああ、ちょっと狂ったが……始めよう、ゲームの始まりだ」