僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「……何これ」
「雄英体育祭の推薦招待チケットだ、先生から貰ったがお前ら二人で行って来いよ」
「いやそう言う事を聞いてんじゃねえよ何でこれを渡してきたかを聞いたんだよハンドマン」
雄英を襲撃した集団、通称ヴィラン連合が根城の一つとしているとあるビル下にあるバー。そこに足を運んでいた龍牙はカウンターの向こう側で腕を振るって自分が右腕として、力の一つとして仕えている人間である死柄木弔とその補佐役である黒霧に料理を振舞っていると唐突に弔が美味い飯の礼だと言わんばかりに懐から二枚のチケットを取り出して此方へと放り投げた。それは近々行われる雄英体育祭への特別招待推薦チケットであった。
「雄英はこれからの活動で確実に絡んでくる、今回襲撃したA組は近年でも特に粒ぞろいのヒーロー志望が揃ってる。それがどんな風に力を使うのか興味はあるし情報としてもいいだろ」
「いやまあそうだろうけどよ……だからって殴り込み掛けた俺とトガちゃんに行けってっか?」
「問題ないだろ、その時にお前らは顔を隠してた」
「確かに隠してたけどよ……」
龍牙とトガには表舞台での資金集めや情報収集という役目がある為にUSJを襲撃した時にはマスクやサングラスで顔を隠していた。ひょんな事からバレたりしたらまた新しく活動基盤の制作から始めなければいけなくなる、そんな面倒な事は出来ればしたくないのである。
「だから行け、デートでもして来い。この前お前を怪我させた詫びだと思って行ってこい」
「……まあお前が行けって言うなら行くけどさ……ヴィランがヒーロー校の体育祭にねぇ……」
普通ならば頭が可笑しい行為だろう、だが彼には拒否する権利なんて持ち合わせていない。断るつもりもない。これに乗じて雄英の内部を合法的に見る事が出来るし1年だけではなく他学年の実力の調査なども並行して行えるので悪い事ばかりではない。但し絶対にバレないように気を付けないとならない。
「っという訳だけどトガちゃん行く?」
「リュウ君が行くなら行きます、デートしてもいいなんて弔君も優しいですね♪」
「……まあなんだかんだで気遣ってくれたのかもな」
そんなこんなで雄英体育祭へと潜入する事になった龍牙とトガ。二人は同年代と比べて大人っぽく落ち着いた服装と言葉をさえ整えれば大人と疑われる事もない、加えて推薦チケットのお陰でチェックなどもなくあっさりと雄英へと入る事が出来た。
「緩いですね、本当に私達に襲撃されたって自覚あるんですかね?」
「あるにはあるだろうがそれを消すように普段通りの日常で覆ってるんだよ」
広がっている光景は正しく祭り、辺りには露店が並び様々な物が売り買いされている祭りさながらの光景が続いているのだがトガとしてはよくもまあいけしゃあしゃあと此処までの事が出来るものだと白けを感じさせる。かといってそれはある種の恐怖を持ったから、USJ襲撃は十二分に効果を発揮したことを意味する。辺りをよく見れば警備中と思われるプロヒーローの数が非常に多い。例年の4~5倍の警備が施されていると見て間違いないだろう。
「如何するトガちゃん、なんか食うか?」
「いいです、こんな所で食べたくなんてありませんよ」
表情にへばり付いた娯楽への興味と本質を何も見据えようとしない愚かな大衆、それらの流れを正す訳でもなく唯々助長するしかない雄英の方針にトガは既にこの場への興味は失せているに等しかった。龍牙と一緒でなければきっと今すぐにでも立ち去りたいだろう。
「デートにしてもこんな所でなんてリュウ君だってヤですよね」
「仕事じゃなきゃきたくはねぇはな。まあ弔も軽い気分で行って帰りたくなったら帰っていいって……」
そんな言葉を続けようとした龍牙は言葉を止めてしまった、視界にとある二人が映り込んだことが要因だった。突然硬直した彼に首を傾げつつも同じように視線を巡らせるとその意図を察し、隠れている瞳が鋭くなった。その先にあったのは―――龍牙にとって因縁深く、虚無へと自らを堕とし込んだ原因がそこにあった。
―――居た、居たぞ、居たな、其処に居たか……。ぁぁっ会いたかったよ、会いたかった、会いたかったぜ、夢にまで出てくるほどに会いたいと……思っていた。
気付けば龍牙の口角は歪んでいた、三日月のように吊り上がったそれは狂気を孕みながらも正確な敵意を燃やしながら黒き炎を巻き上げていく。それを内に留めながらも一旦視線を外しながら耳に着けていた通信機のスイッチを入れて弔に連絡を入れる。
『如何した、緊急事態以外は入れないと言ったのはお前だぞ』
「〈ぁぁっ……悪い弔、雄英の体育祭は楽しめそうにない……他で俺は楽しませて貰うぞ〉
『他に良い獲物でも見つけたのか』
「〈ああ、極上のな……俺は漸く―――鏡という姓を捨てられる!!〉」
それを聞いた弔は理解を示したように声を上げながら抑えきれないと言わんばかりに震えている
『俺が許可する。存分にやれ、好きにやれ。思うがままに動け、今日をもってお前はお前を縛り続けてきた鎖を焼き切るんだ』
「〈―――感謝するぜ大将……〉」
それを最後に龍牙は通信を切断した。そして隣を見るとそこには笑みを浮かべて抱き付いてくるトガの姿があり瞳にある意思を読み取ると行動を開始した。
その日―――雄英には不思議な噂が流れた。低く唸るような声と共に現れる黒い龍が目撃されたという、誰もまともに取り合わなかった。何故ならばもっと大きなニュースがそれをかき消したのだから。
トップヒーローの一角、ビーストマンそしてミラー・レイディ、意識不明の重傷による緊急入院……その後ビーストマン、本名鏡 獣助。ミラー・レイディ、本名鏡 乱はこの世を去ったという。