僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
覚悟はしていた、もしかしたらこんな日が来るかもしれないと心の何処かで抱きながらもそれが実際に来るなんて事は無いだろうと否定を重ね続けていた。何故ならば迫りくるそれを跳ね除けてしまう程に父と母は強く聡明で勇敢で優しかったから。そんな二人ならばそれに相対したとしても揺らぐこともなく立ち向かって突破するだろうと思い続けていた、だからこそ自分にも訪れるかもしれないそれにも恐れこそ抱いたとしても立ち向かう事を誓った、筈だった―――。
「―――。」
少女、鏡 白鳥は一人自宅の自室にて抜け殻同然に床に腰を下ろしながら四肢を投げ出すかのようにしながら虚空を見つめ続けた。彼女は雄英体育祭の最終トーナメントにて優秀な成績を収め父と母の期待に応えられたと自分でも思うほどの力を出し切ったと確信していた。そんな自分を見て欲しいと会場で二人を探し続けたが何処にもいなかった。緊急の出動要請でも入ったのかと思っていたが御付のヒーローがそれを否定した、仄かに胸が騒めく中入って来た凶報―――両親が緊急入院の後、息を引き取ったという。
現場は雄英から遠く離れたビル街の裏路地だったという、雄英に出向いていた筈の二人が何故そんな所で倒れこんでいたのかは不明。だが全身に重傷を負わされている彼らは通報を受けて直ぐに病院へと緊急搬送されたが手の施しようがない状態で延命処置すら意味を成さず、白鳥が病院へと足を踏み入れた時には既にこの世を去っていた。
覚悟はしていた、ヒーローである以上人の命と真剣に向き合い救い戦うのは
涙を流す事もなく、脱力し抜け殻のように瞳から光が消えてしまった。彼女の事を知る事務所に所属するヒーローはこのまま二人の傍においておくのは彼女の心象に悪いと判断して彼女を家まで送り届け、彼女の代わりに様々な対応に動く事にした。それが最善だと思ったからだ―――それは最善であり最悪の同居であったが。
奇しくも嘗て兄が味わった虚無、それとほぼ同じ虚無へと心身ともに叩き落とされてしまった白鳥は文字通りの思考停止状態になって唯其処に居るだけの存在に成り果ててしまった。余りにも強い感情によって彼女の理性のキャパシティが超えてしまい廃人に近い状態へとなってしまった、何も考えず何もしない。唯の人形同然のそれが見つめている鏡、唯前にあるだけの鏡には彼女の姿が映し出されている―――だがそれが変化する。
「―――。」
反応も示す事すらないが映り込んでいた彼女の姿が歪み黒い龍と共に歩む一人の男とそれに従うようにする一人の女がそこにいた。それは鏡の鏡面に手を触れながら白鳥を見つめながら口角を上げるようにすると力を込めるように手を押し込むと鏡面が水面のように波打たせながらそこから現実の世界へと侵食して現界した。男は人形の姿の彼女を見て言う。
「まるで昔の俺だな……そこまで同じなんてやっぱり俺とお前は兄妹なんだな……」
「でもやっぱり似てるね、目元とか」
「そうか、少しでも共通点があって良かった」
膝を折りながら彼女と目を合わせながら少しだけ顔の向きを矯正しながら優しく頭を撫でてやる。その手付は何処か以前にもやった事があるような慣れた物だった、艶やかな髪を僅かに掻き分けるように指を入れながら撫でる癖が龍牙にはあった。それは昔から―――それに反応したのか僅かに白鳥の瞳に光が戻り目の前にいる姿を凝視しした。
「久しぶりだな白鳥、俺が分かるか」
投げかける言葉には呆れが混ざっている、幼い頃以来に顔を合わせる。あの時と比べて互いに成長している。面影もない程に変わっている自分に気付くわけもないのに何を言っているのかと。
「―――お兄ちゃん……?」
そんな思いを打ち砕き否定するかのように目の前の成長した妹は兄である事を看破し、答えた。姿こそ変わっているが彼女の中には確かに兄との思い出が存在していた。個性が凄いと褒めて貰えた時に撫でて貰った事も多くあった、それらが会えなくなった兄との大切な思い出として刻み込まれていた。それは姿が変わろうが分からなくなる事などあり得なかった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……なの、りゅうがお兄ちゃん……?私の、私のお兄ちゃん……?」
「ああそうだよ白鳥、10年振りか……大きくなって綺麗になっちゃってまあ……」
「―――っ」
言葉に応え頭を撫でる力を少しだけ強くしてくれた、それが夢ではなく現実だと教えてくれた。瞬間、白鳥の瞳に光が戻ると両親の死で流れなかった涙が豪雨のように降り注ぎながら飛びつくように抱き付いた。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!!龍牙お兄ちゃん……会いたかった、ずっとずっとずっと会いたかったよぉォぉっ……寂しかったよぉ怖かったよぉ……!!」
力いっぱい、しがみ付くように、もう離さぬようにとめいっぱいの力で兄の身体に抱き付きながらその体温に歓喜し其処に居る喜びに感謝し必死に縋った。白鳥は兄の事が大好きだった、幼い頃から大好きだった。仲良しで一緒に居るだけで楽しかった、そんな兄がある日突然個性の関係で遠くの地に行かなければいけなくなったしまった時には泣いて泣いて涙が枯れて泣けなくなるほどに泣いた。
寂しさで兄を求めた事があった、悲しさで傍に兄に居て欲しかった、そんな兄が今目の前にいる現実が心を理性を融かすように自分を満たしていった。そんな縋るように迫る妹を出来るだけ甘く、優しく抱きしめてやる。そして彼女が泣き止むなど龍牙は静かに彼女の頭を撫で続けてやった。
「大丈夫か、白鳥」
「うん……お兄ちゃんずっと、会いたかったよぉ……」
「悪いな俺も会いに行けなかったんだ」
「もういいの、だって今こうして居てくれるんだもの……」
白鳥は唯無邪気に喜んでいた、両親を失った事によって彼女の精神は極めて衰弱し正常な状態とは言えなくなっていた。理性も弱まり精神も脆く崩れやすくなっている、それを龍牙と言う兄の存在だけが既に支えになってしまった、もう彼女は龍牙なしで生きられなくなった。
「あのお兄ちゃん、それでこっちの人は……?」
「ああ俺の彼女のトガちゃんだ」
「お兄ちゃんの、彼女……っ?」
「どうも初めまして白鳥ちゃん、トガです♪リュウ君とは結婚もする予定ですのでお義姉ちゃんって呼んでくれたら嬉しいです♪」
笑いかけながら頭を撫でてくる彼女、本来なら久しぶりに会えた兄に彼女がいてそれは兄と結婚が決まっている。それを肯定するように頷く兄、普通ならば納得がいかなかったり拒絶する所だろうが……衰弱した彼女はそんな事は出来なかった。逆に兄が結婚すると決めた相手ならば信頼出来るのでは、信じて良い人なのだろうとすんなりと受け入れてしまった。
「それじゃ、トガお姉ちゃんって呼んだ方が、良いですかね……?」
「うんうんそう呼んでくれると私も嬉しいです♪わ~い可愛い妹ちゃんが出来ました~!!」
抱き付きながら頬ずりしながらよしよしと撫でる彼女から伝わる無邪気な嬉しさの感情がより一層、警戒心を薄れさせ完全に味方だと認識させていく、そんな中で龍牙は白鳥を抱きしめながら言う。
「なぁ白鳥、お前さえよければ俺と一緒に来ないか。俺はもうお前を一人にはさせない、一緒に居よう。トガちゃんと一緒に仲良くな」
「行きましょう白鳥ちゃん、私達と一緒に仲良く暮らしましょ♪」
悪魔の甘言、闇からの誘い、悪へと堕ちる選択。だが白鳥にとってはそうとは思えなかった、大好きな兄とその兄が好きな人が自分を受け入れてくれるという喜びが脳を蕩けさせ支配する。迷う事無くその手を取って、龍牙とトガと共に彼女は―――我が家を去ってしまった。
トップヒーロー・ビーストマン、ミラー・レイディの娘である白鳥の失踪はすぐさま報道させ、彼女の捜索が開始される。自殺したのではという懸念もある全力で捜索が行われるのだが……見つかる事はあり得ない。何故ならば―――
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん♪トガお姉ちゃんだけじゃなくて私も~撫でて撫でて♪」
「はいはい、甘えん坊だなお前は」
「えへへっ~……幸せ、です♪」
「私たちの妹ちゃん凄い可愛いです♡」
悪に染まった黒龍の庇護下に置かれた彼女は徐々に闇へと、悪へと染まっていく。黒龍の漆黒がまるで墨汁を垂らした染みのようにじわじわと純白の翼を犯していく。高みに鎮座した英雄の父と母に育てられた純白の女英雄は何れ―――兄と同じ悪へと堕ちる、闇に堕ち悪に染まる。だがそれが幸せなのである。
それはまるで―――悪には悪の救世主が必要だと世界に問いかけるかのように。
これにて書きたかった心残りであった鏡夫婦と白鳥に関してはOKかな。
これにてヴィランパートは終わりですかね、書くにしても不定期になると思います。
っという訳で番外編、もしも龍牙がヴィランだったら?でした。
活動報告にて番外編の募集をしてますのでお時間があれば覗いてみてください。
↓こちらから飛べますのでご利用ください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=239485&uid=11127