僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「やぁっ神使 龍牙君!あの時以来かな、その節は本当にお世話になったよね。改めてお礼を言わせて貰うよ!!」
「お気になさらず」
ホークスの粘り強く詭弁のような説得によって渋々承諾するように雄英への赴任を受け入れた龍牙はその条件として提示したホークスの同行と共に雄英を訪れていた。手始めに校長先生への挨拶をしているのだが、校長である根津は溢れんばかりの感謝の気持ちを示そうとなっているのがホークスからも理解出来た。
「いやいや君はそう言うけどあの一件でオールマイトは致命傷を避けられたと言っても過言じゃないんだ、彼も酷く感謝していた君には何度もお礼を言おうとしていたんだけど神使の家の特殊性を考慮して今まで止めていたのさ。君の家の言い方を借りるならば世界を照らす大いなる光であるオールマイトの感謝を受け取ってあげてくれないかな」
「……」
「ハハハッいいじゃない龍牙、受け取れよ。君の仕事なんてハッキリ言って公に評価される事でもないし誰かにお礼を言われる事なんて滅多ない事柄だ、その一環で感謝されるなんてレアだし感謝するのがあのオールマイトだよ、受け取れないなんて選択肢はなしでしょ」
「うるさいホークス……分かりました、そこまで言うならば受け取りましょう。ですから部屋の前で待機している方を早く呼んでください」
「私がぁぁぁぁっ~……呼ばれたので来たぁぁぁぁっっ!!」
流れるようなテンポで登場したのはホークスの二つ上、全世界が認めるスーパーヒーロー、平和の象徴と言われるオールマイト。改めて凄い体格をしているがそれに拮抗するかのような身体つきをしている龍牙は一体どうなっているのだろうかと内心で思うホークスであった。それにこんな大男が応接室前で待機していた目立つだろうに。
「おおっホークスじゃないか!!君も来ていたんだね、校長先生の話では龍牙少年だけが来ると聞いていたが」
「どーもどーも、この分からず屋が来る条件として俺も偶に雄英に顔出す事になったので宜しくオナシャス」
「HAHAHAこちらこそよろしくお願いしたいね!!私も此処で教師をやっているがまだまだ新米だからね、君からも色々意見が貰えると助かるよ!!」
「まさか№1ヒーローに意見を言う立場になれるとは、案外こいつに付いてきて正解でしたよ」
握手をしながら思わぬ体験をして素直に嬉しそうにしているホークス、そしてオールマイトは龍牙を前にしてその手を取って握ると万感の思いを込めるかのようにしながら感謝の気持ちを吐露した。
「龍牙少年、私は君に助けられた。あの時の君とホークスの魂の一撃で反らされた奴の攻撃、あれをまともに受けていたら今の私はきっともっとひどい状態だったに違いない、君のお陰で私は―――いや、兎に角本当にありがとう!!」
言いたい言葉はいっぱいあった、もしも彼に会えたのならば聞いて欲しい言葉を幾つも考えていた、今日この時の事を聞いたから前夜に至るまで考え続けていた。だがそんな言葉はきっと不相応、彼からしたら任務の一環として祖父である神使 翁と共に悪の帝王の討伐へと出向いた際に奪われていた自分の個性を取り戻し、その時に放てる最強の一撃を親友と共に放っただけに過ぎない、ならば飾り気の無い言葉が一番相応しい。それを受けたバラウールは目を白黒させつつも、それを咀嚼するように瞳を閉じる。
―――兎に角ありがとう!!
感触を味わい、香りを楽しみ、味を感じ、咀嚼し味わい尽くしたと言わんばかりに飲み込んだ言葉は酷く甘美で価値のある言葉だった。この言葉の意味を知れただけでこの雄英に来た価値があったと思えるほどの物だった、この感謝も使徒として活動し続ける意味でもある。
「受け取りましょう」
「うむ是非受け取ってくれたまえ!!」
「嬉しそうにしちゃってまぁ……こりゃやっぱりヒーロー向きな性格だったな龍牙ってば」
からかうような言葉を掛ける親友に対してその名で呼ぶなと再三問いかける彼の表情はオールマイトと根津から見ても全く変化しない鉄仮面、それでもホークスだからこそ読み取れる感情の変化は確りと感謝のそれを喜んでいるらしい。
「それで神使君、いやバラウール君と呼んだ方が良いみたいだね」
「是非そうしてください、俺にとっては既に其方が真名です」
「おっとそれでは私も気を付けないとな……」
「そうですね~オールマイトは特におっちょこちょいな所ありますからね~」
「HAHAHAホークスに言われると痛いなぁ~」
話は直ぐにバラウールが務める事になる強化指導員としての内容へと移り行く、単純に一部授業内容を変更をするだけではなく専用の教科を一部持つ事で使徒として果たしてきた役目を彼らにも伝えていくつもりで根津は考えている。今回のヴィランの殴り込むで改めてヒーローは命懸けの仕事である事を認識した、更にその先に行かせようとしている。
「君さえよければ新しく君の編入を許可しても良いんだよ、君の年齢を考えれば高校に通うなんて可笑しくもなんともないからね!!」
「……えっちょっとお待ちください校長、龍牙少年は高校生である筈の年齢なのですか!?だって私とほぼ変わりないですよ!?あの時だって既に少年の身長はホークスと同じぐらいありましたが!?」
「今彼は16歳なのサ!!」
「OH MY GOD!!?」
今日一番の驚きの声を上げてしまうオールマイト、余りの衝撃に軽く腰を抜かしている平和の象徴にバラウールは思わずホークスに尋ねる。自分はそんなに老けてみるのかと。
「いや老けて見えるっつうかさ、異形型でもないのにその見た目で高校生には見えない。筋骨隆々の大男が流石に16の子供とはみられない」
「いやマジでビビった……っここ数年で一番ビビったかも!!マジで16なの!?」
「はい、10年前に神使に入りました」
「WOW……」
思わずアメリカンが全開になってしまうオールマイトを横に置きながら根津はそれを聞いて、平和の中で自分達も光になろうとしている子供たちを育てているこの瞬間を作り上げている一端を担う存在となった若人に複雑な面持ちを浮かべてしまった。僅か6歳で神使の家で使徒として育てられた、しかもそれを彼は望んで上で今の立場にある。影から平和を守る平和の使徒、その果てが平和を守りながらも平和の味を理解しない哀れな少年。だからこそホークスは無理を言ってこの雄英に連れてきたのだろう。
「ああっそうだ忘れるところだったよ、バラウール君には妹さんがいるだったね」
「えっいるの!?」
「ええ、鏡という姓です」
「ああっ鏡少女か、あの子が君の妹さんなの!?」
「らしいっすよ、俺も直接会った事は無いですけどマジで兄妹らしいです。諸事情でずっと会ってないらしいですけど」
「大丈夫さ―――実はもう呼んでるのサ!!」
「「えっ?」」
思わずオールマイトとホークスの間抜けな声が響いた、直後に校長室の扉をノックする音が響いた。
『鏡 白鳥です、先生に言われて来ました』
「えっ校長先生まさかここまで読んで!?」
「この位お茶を淹れるより簡単だよ」
「いやマジで凄いですよそれ」
「まあまあ、入っていいよ」
「失礼します」
そう言って部屋の中に入って来たのは幼い頃を最後にもう会う事も無くなり、今の姿すら見た事も見せた事も無い関係性に落ちてしまった兄と妹。幼い頃よりもずっと美しく可憐に成長した妹はきっと誰もが羨望の眼差しを向ける事だろう、客観的に見ても魅力的な女性だと彼自身もそう思った。そんな少女は―――自分を視界に捉えると目を見開きながら……確かめるようにつぶやいた。
「お兄、ちゃん……?」
「っ……白鳥、お前……」
「お兄ちゃんッッ!!!」
なんでわかるんだと聞くよりも先に白鳥は駆け出していた、そして大きくなった龍牙の腹部に顔を埋めるようになりながらも必死に外套の奥になる身体を抱きしめるように縋った。大粒の涙を流しながらも兄の名を何度も何度も呼びながらそこに確かに存在している兄に、喜びを込めた言葉を送り続ける。10年という月日は無慈悲な程に自分達を引き裂き、互いが分からぬほどに歪めたというのに……白鳥は龍牙の事を分かった。それに応えるように―――
「背、伸びたな……元気か白鳥」
「うん、うんうんっ……!!」
精一杯兄らしい言葉をかけてやる、それが本当に精一杯だった。そして彼女が泣き止むまでそのままだった、だったのだが……。
「……」
「あ、あのぉ……鏡少女?」
「(ヒシッ)何ですかオールマイト先生?」
「いや何じゃなくて君は何時までお兄さんに抱き付いているのかなと……」
ホークスが依然チラッと言っていたように白鳥は龍牙に対する思いを相当に拗らせていた、両親に問ってもまともな兄に関する答えは返ってこず、唯々悶々とした日々を過ごした結果……元々兄が大好きだった白鳥は―――超絶なブラコン少女と化した。
「妹が兄に抱き付くのは変じゃないと思います」
「いやまあそうかもしれないけど……」
「僕は微笑ましくていいとは思うけど……」
「ならいいですよね、ねっお兄ちゃん♪私幸せ♪」
「……そうか」
「―――っ……!!」
「おいトリ、てめぇ言いたい事があるならハッキリ言え」
「アハハハハハハハアハハハハッッッ!!!こ、これをは笑わずにはいられないよ、あの龍牙が超困惑してんだもん笑うなって方が無理ぃィィぃ!!!!ダァハハハハハハハ!!!!」
「黙れトリィッ!!!」
「お兄ちゃんホークスに構わないで私に構ってください!!」
「ほらほらお兄ちゃん妹さんからお願いが来てますよぉ~?」
「……殺す!!」
恐らく、次回辺りで終了かなぁ……。