僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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入学の黒龍

とある所に少年が居た、少年は愛されていた。紛れもなくそれは事実だ、間違いない。

 

父も母も彼を愛していた。運命は数奇な悪戯をする、それに翻弄される者達を嘲笑う為に。

 

彼が6歳を迎えた時にそれは浮き彫りとなってしまった、両親からの個性を受け継いだ彼の個性が解き放たれた。

 

それまで彼は個性があるのに個性が出せないという事態が続いていた。個性がある筈なのに無個性と変わらない状態が長く続いていた。それがある時、突如として個性が発動したのであった。それは親戚の集まりの真っ只中、突然彼の身体が炎に包まれた。突然の発火に親戚たちは水を掛けて消火を試みた、そしてその蒸気の中からそれが顔を出したのだった。

 

リュウガ……!!

 

母の個性と父の個性、それらが混ざり合った個性は酷く歪んだ物となって顕現した。そこにいたのは黒い龍の化け物、突如として現れたそれに全員がパニックを起こし、逃げ出す者もいれば攻撃できる個性で攻撃したものもいたという。だがそれらを受けても黒龍は消えなかった、それらを悉く跳ね返した上で立ち続ける龍は何故自分がそのような扱いをされているのかさえも理解していないように立ち尽くしていた。そして―――その日から、少年は一つを得て多くを失った。

 

 

「ここが、雄英か……」

 

春のあくる日、正しく出会い始まる春に相応しい晴天が広がる日の中に少年は雄英高校の校門へと立っていた。雄英高校の試験を通過する事が出来た彼、黒鏡 龍牙、入試では向かってくる敵を全て薙ぎ払い、救うべきを救っていた。簡潔に述べるならば自分のやりたい事をやっていたら好成績になって入学する事が出来たというべきなのだろうか、兎も角合格出来た事には安心している。自分を住まわせてくれている人にもこれで面目が立つ。今日から此処でヒーローへの道が開いていく事を自覚すると少しの不安がよぎるがそれ以上の興奮と憧れのヒーローが教師で自分を教えてくれるという喜びが勝る。そんな思いに背中を押されるように足を踏み出して、校舎へと入っていく。

 

流石はヒーロー科最難関校にして多くの有名ヒーローを輩出してきた超エリート高校、内部の設備も整えられており自分が通っていた学校とは格が違う事がうかがえる。龍牙はそのような事にはあまり興味を示さない、ハッキリ言って建物の内部がそこまで気にならない。極端に汚くなければそれでいいという認識で足を進めていき自分のクラスである1-Aを発見する。本来ならばここで緊張の一つでもするべきなのだろうか、龍牙にはそれが無いのだろうか、何の躊躇いも作らずに扉を開ける。

 

「ぼ……俺は私立聡明中学出身、飯田 天哉だ」

「聡明ぃ~?糞エリートじゃねえか、ぶっ殺し甲斐がありそうだなオイィ!!」

「ぶっ殺し甲斐?!君の物言いはなんて酷いんだ。本当にヒーロー志望なのか?」

「(なんだあれ)」

 

教室内では酷くキッチリした格好の眼鏡をかけた少年があからさまにまでに不良で御座いますという風な少年に注意を促していた。だが不良風の彼は一切それを返さずに我が道を行くを貫いている。あんなのでも確りと合格出来ている辺り成績面は優秀なのだろう、それに見た目については自分はとやかく言う資格なんてありはしないだろう。こちらを見つめるような視線を感じながらも席に着きつつも本を取り出して読み始まる。自分の好きなライトノベルである【壊れだした世界の君】というシリーズの3巻である。そんな中の視界の端で眼鏡の彼が此方へと歩み寄り、丁寧に少しいいだろうかと声をかけながら話しかけてくる。

 

「先程から騒がせてしまって済まない、ぼっ―――俺は私立聡明中学出身、飯田 天哉という者だ。これから宜しく頼む」

 

丁寧な挨拶に態度、中々に真面目な印象を受ける。眼鏡は伊達ではないという事だろうか、しおりを挟みながら挨拶を返す。

 

「黒鏡 龍牙です、よろしくお願いします」

「こちらこそ、正直君のような礼儀正しい生徒がいて少しホッとしたよ。先程の彼がヒーロー志望にしては余りにも荒々しかったものでね」

「それでも荒々しいのも悪い事でもないさ、裏を返せばそれだけ勇猛果敢にヴィランに向かっていける。つまりそれだけ迷うことなく人を助けられるという事にも繋がる」

「成程そうか!!俺はただただ表面だけに囚われて、それが齎す結果に目を向ける事が出来なかったというのに……流石雄英だ、そこも考慮しているのか!!」

 

と少々適当な持論を語ったのだが、飯田はそれを真に受けた上に盛大に飲み込んでしまったのかそれで納得してしまった。悪い人ではなさそうだがどうにも癖が強いクラスメイトだなと龍牙は少し笑うのであった。その後も次々と生徒らが入ってくるのを見つめていく中、緑色でモジャモジャな髪をした男子生徒が入ってきた所で飯田は挨拶をしてくると去っていく。そんな彼と知り合いだと思われる元気いっぱいな女子生徒が入口前で何やら話をしている時の事だった。

 

「お友達ごっこがやりたいなら他所に行け」

 

そんな彼らの会話をぶった切ったのは廊下から寝袋から顔だけを出した男が立っていた。その風貌は余りにも整っているとは言えない、切らずに放置されている無精髭に伸び放題なぼさぼさの髪の毛、疲れ切った瞳とその周囲に刻まれた深い隈。あれはホームレスだと言われたら素直にそうと思うこと間違いないだろう、高校にいる人間としても相応しい恰好とは思えない。

 

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠けるね」

 

その男は自分が担任である相澤 消太であると伝えると即座に新しい言葉を飛ばす。それは酷く簡単な指示だった、体操服に着替えてグラウンドに出ろというものだった。そしてグラウンドで告げられた次の指示は……個性把握テストを行う、という趣旨のものだった。

 

「テ、テストっていきなりですか!?あの、入学式とかガイダンスは!?」

「ヒーローを目指すならそんな悠長な行事、出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。それは先生達もまた然り」

 

何処かぽややんとしている一人の少女の意見をあっさりと一蹴した担任、相澤は更に続けていく。先に述べた通り雄英は自由な校風が売り、常軌を逸した授業も教師によっては平然と行われる。そしてそれがいきなり自分たちに適応されるという事に皆戸惑っているが、そんな事なんざ知らんと無視するかの如く、相澤が龍牙を見た。

 

「個性禁止の体力テストをお前ら中学にやってんだろ。平均を成す人間の定義が崩れてなおそれを作り続けるのは非合理的、まあこれは文部科学省の怠慢だから今は良い。今年の実技入試首席は黒鏡、お前だったな」

「多分」

「んだとぉ……!!?」

 

その言葉、首席という言葉に反応したのか飯田と激しい言い合いをしていた男子生徒、爆豪は何やら敵意と怨みのようなものを込めた視線を送り付ける。自分よりも上という事が気に食わないのだろうか、しかし龍牙からすれば困る視線と言わざるを得ない。だがそんな視線も間もなく凍り付く。

 

「お前の中学時代のソフトボール投げの最高記録は」

「66.6です」

「んじゃ個性を使ってやってみろ、円から出なきゃ良いから全力でな」

 

それを言われて龍牙は一瞬言葉を失ってしまった、直後はこれは避けられない事だと分かっていた筈だと自罰的に言い聞かせる。相澤から計測用と思われるソフトボールを受け取る、それをもって円の中へと入る。そして意識を集中するかのように深く深呼吸をする、全身から力を抜き、完全な脱力状態へとなる。同時に心の中身も捨てる、正しく無心へとなる。そして急かすような相澤の言葉を聞いて龍牙は瞳を開いて個性を発動させる。

 

リュウガ……!!

 

途端、龍牙を闇のような炎が覆う。悲鳴のような声が上がる中で炎の中で紅い瞳が煌めいた。そして炎を裂くかのように内部から禍々しく恐ろしげな黒龍がその姿を露わにする。

 

「な、なんだあれ!!?あれが、個性!!?」

「こ、こえええっ……ゲームに出てくるラスボスみてえぇな見た目じゃねぇか……!?」

「怖い……」

 

それを見て誰もが驚き、恐怖や嫌悪感を露わにする。当然だ、これを見てヒーローと答えるものなどいないだろう。誰がどう見てもヴィラン側の存在だからだ。それを一番に自覚しているのは龍牙本人、そんな彼が右腕の龍頭でボールを銜えこむ。そして腰を落としながら腕を構えた。同時に龍の雄叫びにも似た音が周囲に低く響き始めていく。それは次第に甲高くなっていき、龍の頭からは炎が漏れ始めていた。

 

「だああああぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」

 

雄叫びと共に右腕から放れた闇色の爆炎はボールを一気に押し出しながら噴射された。宛らロケット噴射のような勢いの爆炎、発射と共に周囲に爆風と衝撃波を発生させるほどの威力。それを受けて吹き飛んでいくボール、それはどんどん距離を増していく、そして見えなくなった所で漸く相澤の端末に結果が反映された。それを見せ付けながら相澤は言う。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの筋を形成する合理的手段だ」

 

そこに記されている記録は2192mというとんでもない記録があった。だがそれを見ても周囲は威圧されたような重い沈黙を纏っていた。クラスメイトが叩き出した凄い記録よりも目の前にいる恐ろしい龍戦士の方がインパクトがある言葉が出ない。恐ろしすぎる存在が周囲を飲み込んでいた。龍牙もそれを理解している、顔を背け離れに移動しようとした時に一人の少女が声をかけた。

 

「ねぇねぇ貴方って凄いね!!」

「……?」

 

声に釣られて視線を向けるがそこには宙に浮いている体操服しかない。一瞬どういう事かと思ったが透明な個性という事かと納得する。

 

「個性もカッコいいし、凄いよ!!」

「……そうか、カッコいいって初めて、言われたよ」

「ええっ嘘!?それじゃあ今までの人たちはセンス悪かったんだよ!!」

 

姿こそ見えないが、袖がブンブンと振られている事から両腕を力強く振るっているのだろう。そして可愛らしい声で自分を褒めてくれている。褒められる、カッコいい。自分が受けた中で酷く刺激的で甘美な響きだった。心が一瞬熱くなったのを感じた。

 

「有難う、嬉しいよそう言ってもらえて」

「だってカッコいいんだもん!」

 

この日を龍牙は生涯忘れなかった。この日が葉隠 透との出会いだった。


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