僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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番外編、まさかの耳郎 響香ちゃんルート。

今回も、初期に葉隠さんが怖がりに話しかけなかった場合というIFになっております。なのでかなり異なっている所があるのでご了承ください。


響く音色は龍を癒す香りを告げる

「今日も、一人……」

 

視線の先にいるのは自分と同じくクラスに所属している男子の黒鏡 龍牙。彼は基本的にクラスから常に自ら一人でいる事が多く周囲からも完全に孤立しており、クラスから完全に浮いてしまっている存在。そんな彼は教室でも常に一人、机に向かいながら復習か予習をするか何か難しそうな別の言語書を読み込んでいる事が殆ど。教室から姿を消している時は誰もいないような木陰に身を潜めるようにしながら弁当を口にしており、誰かと共に居るという事が殆ど無い。

 

例外的に常闇とは仲良くしているような節があるが、それも常闇の他の友好関係を尊重しているのか、それとも自分の存在が邪魔になると思っているのか一定の距離を取り続けている。そんな常闇に思い切って龍牙について尋ねた事があった。自分から話しかけたり食事に誘う事は迷惑になってしまうかと、それに彼は少々驚きつつも快く応えてくれた。

 

「否、彼の龍はきっと心からの喜びで応えるだろう。だがそれすらを胸の奥に隠して自らを孤独の闇に押し込めてしまう。それも全て奴が誰よりも優しい故。奴は誰よりも安らぎに飢えている、だが周囲へ無用な遠慮を行う。だからこそただの一度も理解されない、彼の龍は常に独り、孤独の闇にて自らに酔っている」

 

独特な言い回しの影響でハッキリ言って全てを理解する事が出来なかった。だがそれでも常闇がクラスの中で最も龍牙の事を理解しているのは明白だった。だからこそ彼の言葉を信じて自分なりの償いと仲良くしたいという思いを込めて彼を誘う事にする。

 

『―――奴は必ず遠慮する、強引にでも誘え。さすれば道は開く』

 

「―――あ、あのさ黒鏡!!そ、その……一緒にお昼とかどう!?」

「……えっ」

 

その日、耳郎 響香は初日以降常に心に浮かんでいた恐怖を抑えつけ、出来る限りの笑みを作りながら久しぶりに作った弁当を見せながら一緒にご飯を食べようと彼を誘った。外に出て既に影を歩いていた彼に光から声を掛けた自分、それを見た龍牙は暗い表情の中に困惑を浮かべながらも矢張り一歩後ろに引きながら断ろうとする。

 

「いや、俺は構わないけど俺なんかより他の奴と喰った方が楽しいよ。八百万とか飯田とか、ああいう奴の方がさ……」

「(えっと、遠慮するから強引に!!)ウチは今、アンタの食べたいって言ったの!!それともウチと食べるのは嫌な理由でもあるの?」

「そ、そういう訳じゃ……えっと」

「ほらほら文句が無いなら行くよ!時間は有限なんだからさ、アンタ何時も何処で食べてるのさ」

 

何とか断ろうと手探りになっている彼の手を無理矢理引いて歩きだしていく、そんな彼女に目を白黒させながらも漸く観念したのか肩を竦めて溜息を吐きながら、自分が何時も弁当を開いている大きな木の下へと案内をする。木陰でありながらも葉と枝の間から僅かに差し込んでくる光のバランスが程よくて此処で昼寝をするのも悪くないと思えるような場所だった。

 

「あむっ……うぅ~ん、ちょっと焦げちゃった卵焼きだけどこんな場所で食べると不思議と美味しくなるなぁ♪」

「それは多分卵をちょっと厚く入れてその分火を通そうとしたからじゃないかな、フライパンを覆うか覆わないかの境目くらいの量がいいんだ」

「へぇっ~……黒鏡ってやっぱり料理得意なんだ、その弁当も自分で作ってるの?」

「まあね……」

 

覗き込んだ龍牙の弁当箱の中身は綺麗に取り揃えられつつもカラフルで色とりどりな中身になっている。それに比べて自分のは野菜こそ入っているが、茶色系が多くなってしまっている印象がある。これも腕前の差という奴だろうか。今度は言われたとおりにやってみようと、思っていた時に箸を置いた龍牙が尋ねた。

 

「……あのさ、如何して俺なんかと一緒に食べようと思ったのか聞いていいかな。態々慣れない弁当まで作ってきてきたのは理由か俺に話があるんじゃないの」

 

そんな風に問いかけられて思わずビクついてしまった。完全にバレている、自分が弁当を余り作った事が無い事も、そして無理して作ってきたのは話題作りの為であったことも。響香は深呼吸をしながら箸を置いて静かに頷いてから姿勢を正して頭を下げた。

 

「ごめん!!ウチずっと謝りたかったの!!個性把握テストの時、その……怖がっちゃってごめんなさい!!ずっと避けててごめんなさい!!」

 

ずっと謝りたかった、龍牙が個性を発動させた時の見た目に自分は本当に恐怖を感じた。ホラー映画に出てくるラスボス級の相手が近くにいる時の恐怖を体験した様な気分になりそれ以降ずっと龍牙を避けていた。だがそれを改めたいと思った切っ掛けは自分の個性だった。

 

彼女の個性はイヤホンジャック、耳たぶが長いコード状になっておりそれらを使って授業中は集音スピーカーなど接続して先生の声などを聴いたりしているが……その時に龍牙の小さな嗚咽を耳にした事があった。最初は聞き間違いかと思ったが、更に耳を澄ますと自分達のせいで本当に傷ついている事が良く分かった。そして悪いと思いつつもこっそりと彼を付けて彼の小さな声も聞いた。

 

『―――ぁぁっ……』

 

たったそれだけだった、だがそこに含まれていた寂しさに塗れた震えた声は未だに脳裏に焼き付いている。きっとあの時見えなかった顔は悲しさに染まっていた事だろう。

 

「だから、ごめん!!」

「いや、そんな……」

「個性をコンプレックスに思ってる人がどんだけいるとか分かってる筈なのに、それを全然考えなかった……本当にごめん、その、アンタさえよければだけどさ……今からウチと友達になってくれない!?」

 

龍牙は震えながらも頭を上げて欲しそうにするが、それを強引に振り切るようにしながら謝罪と自らの誠意を見せ続ける。そして頭を下げていると地面に水滴が垂れる音が聞こえてきた、それに釣られるように顔を上げてみるとそこには大粒の涙を流し続けている龍牙の姿があった。響香の黒鏡……?という言葉で顔を滴っている涙に気付く事が出来た、無意識に泣いていた。

 

「如何して、如何して泣いてるんだ俺……悲しくないのに、寧ろ嬉しいのに……友達に、なってくれるって言って貰えて本当に、嬉しいのになんでだよ……こんなに、こんなに嬉しい事なんて常闇が友達になってくれるって言ってくれた以来なのに何で……」

 

それを聞いて同時に響香は罪悪感を覚えた。常闇が友達になってくれて以来の喜び、つまり雄英に入学してから彼にとっての喜びはそれしかなかったという事になるのだ。自分が怖がっていたせいで楽しい筈の学校生活を苦しめてしまっていた、そんな思いを抱きつつも龍牙の手をそっと握りしめる。

 

「もう、大丈夫だから……ウチが友達になったからにはアンタを色んな所に連れまわしたり、ご飯食べるとかするからさ!!ウチが―――アンタに楽しい高校生活を送らせてやるからさ!!」

 

そんな力強くも優しい問いかけは、龍牙にとって何にも代えがたい唯一無二の喜びと衝撃を与えてくれる救いを差し伸べる手だった。

 

「龍牙、悪いけど昼食代貸してくれない!?財布忘れてきちゃってさ!!」

「それじゃあ奢るよ、今日は学食だね」

「ホントごめん!今度はウチが奢るから!!」

 

その日から、龍牙の雄英での鬱屈した生活は一転した。自らを振りまわすように手を引いてくれる響香のお陰もあってその日から笑顔を浮かべる事が増え、楽しいと思える事が加速度的に増えて行った。時には食事を奢りあったり、筆記用具を貸しあったりしながら

 

「龍牙此処マジでどうすんの……?」

「そこはこうだよ、此処を応用して」

「いやいやいやちょっと待って早いからもうちょっとゆっくり!!」

 

分からない所を教えて貰ったりと普通の学生らしいことを龍牙は漸く堪能でき始めていた。何より―――響香が仲介してくれることによってクラスの輪に入れる事が出来るようになり、少しずつではあるがクラスの皆が見る目が変化し始めている事が龍牙にとって何よりの喜びだった。

 

「有難う響香。本当に感謝してる」

「何いきなりお礼言ってんのさ水臭いな、ウチとアンタの仲にそんなのはいらないの」

「それでも」

「そう、それじゃあそんなに言うなら―――」

 

彼女は龍牙に抱き付きながら彼の首に手を回しながら満面の笑みで言った。

 

「ずっとウチと一緒に居ろ!そして―――ウチとずっと幸せになれ!!」

「―――喜んで」




―――という訳で響香さんルート、いかがでしたでしょうか。2人の英雄編で絡んだので折角なので書きました。リューキュウやねじれちゃんと違って友達から入ってそこからって感じのルートでした。他と違ってクラスと打ち解けられるのが早いのが特徴ですかね。

因みに最後のは紛れもない告白です、響香ちゃんったら大胆~、そんなのも好きだ。いやぁなんだか等身大の友人を思い出してちょっと泣きそうになりました私。

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