僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「聞こえ、無い筈なのに……身体が、震えやがる……」
「な、んだよあれ……あれってなんだよ……」
ビルの中に配置されている定点カメラから映される映像をモニターで見つめる他の生徒達、だが龍牙の雄叫びが上がった瞬間に皆が震えていた。音は拾わない筈なのに相手を威圧する龍の咆哮が響いてくるような感覚を味わっている。雄叫びの凄まじさはオールマイトですら驚きを隠せない程のものだった、これ程までの威圧感をまだ大人になり切っていない少年が出せるのかと思うほどに。そして同時に彼のオリジンを思い出し、それにも納得がいってしまい、少し顔を暗くする。
「(個性:リュウガ……そのオリジンは彼の感情が引き金となっている、彼に温かさを与えてくれた出会いすらそれを変える事が出来なかった。彼は……永遠にあの自分と向き合っていくしかないのだろうか……)」
ゆっくりと足を進めながらヒーローチームへと近づいて行くヴィランである彼、皮肉にもあの場で一番ヴィランらしい姿をしているのは彼だ。ヒーローになりたいと願っている彼こそが最もヴィランに近い場所にいる、なんという皮肉なのだろうか。だからこそ彼は自らの個性を―――リュウガと名付けたのだろう。
「とんでもねぇ威圧感……!!身体が震えてるぜ……いやこれは武者震いだ!!」
咆哮を受け身体が震えている自分を鼓舞しながらも闘志を燃やす切島、確かに震えこそあるがそれは恐怖からではない。凄まじい程の力を秘めている龍牙と戦う事で自分は更に向こうへと歩いてゆけると実感し、その一歩を大きくする為に闘志を燃やす。男らしくも彼らしい闘志の燃やし方だ、一方爆豪は大きく歯ぎしりさせながらも迫ってくる龍牙を睨みつけていた。闘志を燃やしているからではない―――気に入らない、そして苛立っている。
「(ヴィラン野郎が俺をビビらせた……ンな訳ねぇだろ……クソがぁ!!!)死ねぇぇぇええ!!!!」
苛立ちと共に爆破を推進力に使い一気に加速する、走る事なくかなりのスピードを出しながら龍牙へと迫る。そしてさらに爆破で回転を加えながら大ぶりな右腕のラリアットを龍牙へと放つ。爆破の勢いも加わった一撃は速度だけではなく威力も桁違いに上昇している、その危険性を察知したのか咄嗟に腰を落として回避を行う。だがそれに合わせるかのように真正面から迫る影がある。
「行くぞ龍牙ぁぁあああ!!!」
切島である。腕を硬化させながら全力の一撃を龍牙の腹部へと叩き込む、重々しい音が響く中、爆豪は追撃を加えんと低くなった龍牙の頭部へと踵落としを加える。さらに重い音と共に炸裂した踵落とし、通常であればそれだけでノックアウトされそうな程の威力。しかし、龍牙の身体が崩れ落ちる事はなかった。何故ならば―――
「すげぇ……!」
「クソがぁ!」
「……まともに入れば、危なかったかもな」
切島の拳を左手で握った剣で、爆豪の蹴りを右腕で受け止めているからだ。本人としても咄嗟の行動だった、それでも上手くいった。それでも両腕に伝わる二人の力は本物、甘く見ていれば間違いなく倒されるのは自分だろう。
「んんんんらぁぁっ!!!」
両腕を思いっきり開くようにしながら二人を力任せに、強引に振り払う。自分から離れる二人を見つめながら龍牙は、呻くように言う。
「……さあどうする、ヴィランは目の前にいるぞ。掛かってこい、ヒーロー共」
まるで自分に言うように、自罰的に、吐き捨てるかのような言葉を口にしながらさらに攻撃を煽るように問いかける。それを受ける爆豪は更に油を注いだ火のように怒る、彼からすれば自分程度も倒せないのかと挑発されているように受け取ってしまったのかもしれない。だが、怒りながら彼は笑っていた。
「俺の爆破はなぁ、手の汗腺からニトロみてぇな
「ほう」
そう言いながら爆豪は腰を落としながら装着している手榴弾のような籠手にあるピンのような物に指を掛ける、それを聞いて切島はもしかしてと思ったのか後ろに下がる。
「要望通りの設計ならこの籠手はそいつを内部に貯められる……!!」
「つまり爆破する物を一気に……っ!!」
「もう遅ぇ食らいやがれぇぇっ!!!」
それに気づいたオールマイトが止める間もなかった、爆豪は迷う事もなくピンを引き抜いた。刹那、籠手からは爆破の濁流のような物が一気に放出されていく。爆炎と爆風、その両方を含んだ強い川の流れのような物が一気に龍牙へと向かって流れだしていく。気付いた時にはもう遅かった、龍牙は逃げる事も出来ずにその爆発の激流へと飲み込まれていく。それは龍牙だけではなく、ビルの一部を丸ごと飲み込みながらすさまじい大爆発を起こし一帯を大きく揺らす。
「ぐぅぅぅうっっうわぁぁっ!!?」
その爆風は爆豪の背後に逃れた切島も軽く吹き飛ばされる程の物、これをまともに受けたらとんでもない事になる。ではこれを避ける間もなく撃たれた龍牙は……と切島は顔を青くしながら爆豪に詰め寄った。
「お、おい爆豪お前……!!あいつを殺す気かよ!!?」
「あほかよ、殺したら俺はヴィランじゃねぇか。直撃しねぇように、掠るように撃った」
それを聞いてあれほど怒っていたのに冷静だった彼に驚いた。妙な所で冷静というかみみっちいというか、兎に角彼としても龍牙を殺す気などが一切ない事を聞いて少し安心するが、これでは大怪我必至だ。流石にオールマイトも呼び掛けを行った。
『爆豪少年これは訓練だぞ!!?黒鏡少年に大怪我をさせるつもりか!?それに今のはヴィランとしてもヒーローとしても大幅な減点材料になる、その技はもう使ってはいけない!!』
「けっ使う気もねぇよ、どうせあいつはもう動けねぇんだからな」
ほくそ笑む爆豪、見た目こそ龍牙の方がヴィランに見えるが性格などを含めて考えたら爆豪の方がヴィランだろう。爆豪としてももう同じ技は使う気はないらしく、大人しくトリガーにピンを戻す。そして爆煙の先へと視線を巡らせ倒れている筈の龍牙を探す。何も見えないからか、切島は少し不安になる。
「おい龍牙お前大丈夫か!?生きてるか!?」
返事が無い、本当に大丈夫なのかという思いが募る中で遂に爆煙が晴れていく。そしてその中に影が見え始める、ほくそ笑む爆豪の顔が更に顕著になっていく。そこには防御の姿勢を取ってはいるが全身から煙を出している龍牙の姿があった。狙い通りに直撃こそはしていない、やはり自分の狙いに狂いはなかったと笑いが止まらなくなりそうになる中で音がした、それは龍牙から聞こえるような気がする。
「ンだとぉ……!!?」
「……ぅぅぅ……うぉぉおおお、ウウッアアアアアァァァッ……!!」
咆える、龍牙咆える。両腕を激しく動かし、首を鳴らしながら瞳を光らせながら復活を告げる龍牙。それを爆豪は信じられないようなものを見るような瞳で見つめ、切島は素直に龍牙が無事であったことに喜びつつも警戒をし続けた。
「……(一歩間違えば俺死んでたかもな。)よくもやってくれたなヒーロー。だが俺はまだ此処にいる、ならばお前らはどうする。俺は―――お前達に復讐する、するだけだ」
黒龍は爆発の激流を受け怒りを覚えている、怒りは晴らさねばならない、それが復讐だ。突如として、龍牙の目の前に歪んだ龍の頭部のような形をした鏡によく似たものが出現する。それを見た爆豪と切島は咄嗟にあれはやばいと思い、身を引いた。
「―――返すぞ、お前の攻撃……!!」
強烈な閃光と共に、三度爆発が一帯を揺るがした。