僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
ヒーロー基礎学:屋内対人戦闘訓練、第一戦。黒鏡 龍牙 VS 爆豪&切島ペア。互いに一歩も譲らない戦いを行う中、爆豪が仕掛けた大爆発を凌ぎ切った龍牙は反撃に転じた。それは彼の特殊な力によるものだった。再度巻き起こった大爆発、それによってビルの一角は崩れ落ちていた。そんな中に立ち続けている龍牙は倒れこんでいた二人へと確保のテープを巻き付けて勝利を決定づけていた。その様な事があった訓練後のモニタールームではその講評を行う為に三人が戻っていた。
「それでは講評を行うとしよう、さて今回のMVPだが……切島少年だね」
「お、俺っすか!?龍牙じゃなくてですか!?」
オールマイトが今回のMVPは切島だと言うと本人は全くそれを理解できていなさそうに困惑する。大したことも爆豪のような大きな攻撃なども全くしていない、自分達を圧倒した龍牙でもなく自分がMVPというのが素直に理解出来ない。そんな中で何故切島がMVPなのか分かるかと皆に問うと八百万が手を上げる。
「はいオールマイト先生。それは切島さんがあの場で最も良い行動をしていたからだと思います、比較的と付け加えるべきかもしれませんが」
「うむその通りだ!爆豪少年の時に言ったが、大規模な破壊攻撃はヴィランとしてもヒーローとしても大幅な減点材料、守るべき牙城の崩落にも繋がる。そしてそれを黒鏡少年も行った。故に切島少年がMVPなのだ!それに君は真っ先に龍牙少年の攻撃にも気づいていただろう、そこも評価しているぞ!」
「おおっそう言う事かぁ!!」
言われて気付く切島、なんだかんだで優秀な事を連発していたのである。その後の爆豪と龍牙の怪物的なインパクトの影響で影が薄くなってしまっているが……。そんな中でまだ視線を集めているのは未だ個性を解除しようとしない龍牙、腕を組んで壁に寄り掛かるようにしながら黙り込んでいる。機嫌でも悪いのかと思う中で葉隠が近づいて行く。
「ねぇ龍牙君、ちょっと個性解除して貰ってもいい?」
「……なんでだ?」
「いいから、怪我してるでしょ」
「……何でバレてるのかな」
肩を竦めるようにしながら龍牙は個性を解除する、闇が薄れるかのように元のスーツ姿へとなった龍牙。よく見てみると左腕辺りから出血しているのか色が赤黒く染まっている。めくってみるとそれなりに酷い火傷を負っているのが分かる、流石の龍牙もノーダメージという訳にはいかなかったらしい。
「おいおい結構酷い火傷じゃねぇか!?痛くねぇのか龍牙!?」
「気になるレベルの痛みじゃない、放課後に医務室に行こうと思ってはいた」
「今すぐ行った方が良いよ!怪我を後回しにしても良い事なんて一つもないよ!?ねぇそうですよねオールマイト先生!?」
「うむっ葉隠少女の言う通りだ。黒鏡少年、許可上げるから医務室に行ってきなさい」
そう言うとオールマイトは医務室使用許可書に一筆認めて龍牙へと渡す、龍牙は大丈夫だと言うが葉隠に押されるように医務室へと向かう事になった。本当に痛くはないのだが……渋々医務室へと歩き出した。溜息をつきながら到着した医務室、扉に手を掛けて中へと入ると中からは見知った人からの声が聞こえてくる。
「おやっお前さんかい龍牙」
「世話になりますリカバリーガール」
医務室にいたのは小柄だが優しげな笑みを浮かべている老婆、長年雄英に勤めながら多くの生徒達の成長を見守りながら治療を行ってきた雄英の屋台骨、希少な治癒の個性を持つリカバリーヒーロー、リカバリーガール。そんな彼女は龍牙からの言葉を受けて一層笑みを強くしながら言う。
「昔みたいでいいよ、今は二人しかいないからね」
「分かりました、じゃなくて分かったよ―――ばっちゃん」
「うんうん。ほら怪我した所を見せてごらんよ」
ばっちゃん、親しみを込めたそんな呼び方を聞いて嬉しそうに微笑みながら座るように促しながら患部を見る。火傷と裂傷による少し深い傷、先ず的確な処置をしてからリカバリーガールは自分の個性を発動させる。彼女の個性である癒しは対象者の治癒力を活性化させ、重傷もたちどころに治癒させることが出来る。個性発動の姿はやや個性的だが……。
「チユーーーー……これで良しっと。大丈夫かい、アンタの体力なら問題はないと思うけど」
「少し身体だるいけど問題ない、それに本当は来る気なかった。全然痛くなかったから」
「アンタの悪い癖だね。一度受けた大きな物と比較しちゃうのは、怪我は怪我だから遠慮せずに来な」
治癒を終わらせながらリカバリーガールは何処か心配そうに龍牙を見る、彼女にとって龍牙は孫のような存在なだけではない。彼のオリジンの奥深くまで知っている数少ない人物の一人でもある。彼女からすればこれからの龍牙の歩む道が心配でならない。
「何度も言うようだけど龍牙、アンタの歩む道は大変だよ。ヒーローは見た目を重要視する所もある、助けた人間に安心感を与えるのも大切な仕事。その点アンタは相当不利、それを承知でヒーローになろうとしているのは分かってる。覚悟は決まってるよね」
「何回聞くんだよばっちゃん。俺はなるよヒーローに」
何度繰り返したかもわからないようなやり取り、それに龍牙は変わらない答えを提示し続ける。それを聞き此方も肩を竦めながら分かったよと返す。そして医務室から出ようとする孫に一つ言っておくべき事があった。
「龍牙、B組にだけどねある生徒がいるんだよ。その子―――鏡 白鳥って言うんだよ」
「―――っ……そう、じゃあまた来るよばっちゃん。今度は治療とかじゃない用事で」
一瞬、身体を強張らせた龍牙。しかし直ぐに何事もなかったかのように医務室を後にしていった。そんな背中を見送るとリカバリーガールは溜息をついた。
「厄介事にならないと良いんだけどねぇ……」