僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
過去の遺物、それはどのように捉えられるだろうか。
過去の遺恨? 過去からの贈り物? 過去の落とし物?
それは物による。本人からすれば邪魔な者、厄介事でしかない事もある。
―――そう、自分の妹ですらそれに該当する事もあるのだ。
目の前にて感動の余韻に浸るかのような涙を流す少女、鏡 白鳥。確かに自分の妹の名前だ、名前を出されるまで思い出す事もなく脳裏に過る事もなかった名前。リカバリーガールに生徒として在籍している事は聞いていた、何れ会う事になるだろう程度には思っていたがまさかこれほどまでに早く出くわすとは思いもしなかった。さて……如何するべきか。
「ずっと、会いたかったです……お兄ちゃん……!」
「(お兄ちゃん、ねぇ……)」
自分の事を兄と呼ぶ目の前の美少女に何も思わない自分は可笑しいのだろうか。美少女とは思うのだから可愛いと思っておくのが正常なのかとも考えつつも早く昼食を取りたいという欲求が増してきた、純粋に腹が減ってきた。
「それで俺に何の用だ鏡」
「えっ……な、何の用って……」
何時までもこうしている訳にもいかないので思い切って聞いてみると妹は酷く困惑したようにこちらを見つめている、何を言っているんだと言わんばかりの表情。
「わ、私はずっとお兄ちゃんに会いたくて……」
「あ~……10年ぶり……になるのか。んじゃ久しぶり」
「えっえっ……?」
素直に自分の心に従って言葉を出したのだが、余計に混乱している様子。では何を言えばいいのだと溜息を吐きながら面倒くさそうにしていると白鳥は震えながら言葉を作る。
「だ、だって10年ぶりの兄妹の再開、ですよ……?お兄ちゃんが個性の制御の為に施設に行ってから私がどれだけ寂しくて会いたかったのか……分からないの……?」
「個性の制御……何の話だよ」
如何にも豪く話がかみ合わない気がする、白鳥からすれば自分は制御が難しい個性を制御する為に施設に行っているという事になっているらしい。此処からして随分可笑しい、一体何を言っているのか全く理解出来ない―――行ったのではなく捨てたの間違いだろう。
「お前、まさか俺が個性を使えた時の事何も聞いてないのか」
「と、当然聞いてます!!親戚の集まりの中で遂に個性の発動を迎える事が出来た。ですが制御が酷く難しくて特殊な個性訓練施設のある研究所に行っていると聞かされています!」
「……成程な、そういうストーリーになってる訳か」
それを聞いて再び深々と溜息を吐いた、これで自分と妹の間の話の齟齬の原因が理解出来た。確かにあの場に妹はいなかったし説明するのは両親と親戚たち、それならば自由に話を組み立てる事も出来る。そういう事になっているのか……一筋の光の尾がフッと消えるのを自分の中で感じ取った。もしかしてと思っていた感情の糸が切れた音がする、やっぱり自分の家族は―――
『うんうん、大分個性の使い方が上達してきたね!今日はお祝いしないといけないのさ!!』
『その調子で鍛錬に励めよ、見た目の印象など自分の力と使い方で吹き飛ばしてしまえ』
あの人達だけだったんだと確信出来た。分かっていた筈なのに一筋の希望に手を伸ばし指を掛けていた。本当の事が分かった時の落差の事を分かっていた筈なのに……そして同時に感じるのは憤りと苛立ち、不思議な事に悲しさや恐ろしさなどは欠片もなかった。純粋な怒りだけがそこにあった。
「鏡、お前は何も知らないらしい。だから何も言わない、だが俺にとってはお前はどっちかと言うと他人だ」
「他人……なぜ、如何してなのお兄ちゃん!?」
「気になるなら両親に聞いてみな―――俺を捨てた感想は如何かってな」
「捨てっ―――!?」
白鳥は必至に理解に努めようとしている。龍牙自身も彼女には何の責任もないし何も背負う必要もない事は理解している、だが龍牙には彼女が何処か羨ましく見えてしまっている。心の底から望んだものを彼女は何の苦労も悲しみも恐怖も感じる事もなく手に入れている、それを妬んでいる自分が、憎んでいる自分が居る。出来るだけ平静を装うが言葉が荒くなっていく。
「まあ落ち着け妹よ。俺はお前と接する事は嫌じゃない、適当な所からスタートして行くとしよう。んじゃ俺はこれで、好い加減腹減ったからな」
ひらひらと手を振りながら振り返って龍牙はさっさと歩きだしていく。食事をしたいのは本心であるがそれ以上に離れたいという気持ちが強かった。あれ以上一緒にいたら確実に苛立っていた、いきなりの妹との再会で龍牙も困っている。話をするならば出来れば日を開けて気持ちが落ち着いてからしたいという気持ちに従ってさっさとその場から撤退する。
「(……あの二人からの影響、あるかもしれないな……相談とかしとくかな)」
この後、龍牙は食堂に向かうのだが話をしている間に何やら緊急事態が起きたらしく食堂利用が出来ない事を知ってショックを受けるが御握り弁当セットを確保する事に成功し、教室でそれを食べるのであった。
次回はUSJ!!