僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
俺はヴィランじゃない、ヒーローを志している。絶対にヴィランなんかじゃない。
―――あれはどう見ても俺達の仲間だろ。
―――あれでヒーローやろうとか正気を疑うぞ俺。
……だけど、目の前のヴィラン達は俺は自分達の側にいる者だと言う。一般人だけではなく、ヴィランにも―――俺が、間違っているのか……?
「違う、俺の道は俺が決めるんだ。俺は―――ヒーローになりたいんだ……」
そう思う龍牙、だが彼の心は深く傷ついていた。
「こいつ好い加減にしやがれ!!」
「自分だけ取り分を多くとろうってのか!!」
常時発動異形系と思われる巨漢のヴィランがその巨体に釣り合っていないような巨大な腕を差し向けてくる。人間一人を簡単に握り潰せるかのような大きさが迫る中で龍牙はそれに向けて右腕の龍頭で殴りつける。インパクトの瞬間に龍の口から漏れる黒炎が腕に燃え広がる。通常の炎よりもずっと高温なのか、周りが火の海なのにも関わらずに悲鳴を上げながらのたうち回り始める。
「あぁぁぁあぁあつぃ、あつぃぃいい!!!?」
「み、水水ぅぅぅうう!!!」
―――ヒィッ!!?なんだこれは……悪魔、いや怪物!?
―――ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが龍牙をっ……!!
―――ヴィランだ早く通報しろ!!
「違う、違う違う違う……俺は……ヴィランなんかじゃないんだぁぁあああ!!!」
悲鳴のような声を上げながら龍牙は全力で地面を殴りつけた。個性を発動させているからか、地割れと共に黒炎が地割れから間欠泉のように溢れ出していき周囲を飲み込んでいく。周囲を囲んでいたヴィラン達は何の抵抗も出来ぬままにそれに飲み込まれていく。
「俺は、俺は唯……あぁぁああああああああああああ!!!!!!」
「は、葉隠さん俺に摑まって!!」
「う、うんっ!!」
黒炎の危険性を見抜いた尾白は葉隠の手を掴んだまま尻尾で地面を叩きつけて跳躍し、建物の一部を尻尾で掴んで黒い炎から逃れる。そして地面はあっという間に黒い炎が支配していく、紅い炎を飲み込んで更に力を増していくかのような黒い炎は龍牙の叫び声に呼応するかのように勢いを増していく。龍牙が自身の姿を気にしているのは既にA組の中では当たり前と化し、余り弄らない事も決まっている。
「龍牙君、マジでキレてるみたいだ……」
本物のヴィランから自分達と同じだ、ヒーローの側にいる事などあり得ないなどと言ったことを言われた事で龍牙の中にあった黒い感情を刺激してしまったのだろう。我慢してきた怒りを爆発させているというのが正しいような光景に尾白は息を呑んだ。黒炎の中で咆哮を上げながら黒い龍戦士、自分の目にもヴィランのように映ってしまっている。
「違う……泣いてるよ龍牙君」
「えっ?そ、そりゃ確かに咆える事を鳴くともいうけど……」
「違う!!龍牙君、泣いてるよ……苦しいって」
透明であるが故に抱えられている事が分かりにくいが、尾白は感覚で分かる。葉隠は龍牙が泣いていると呟く。あれは咆哮ではなく慟哭。怒りではなく悲しみで吼えている、透明であるが故に気付けているのか、見えない筈の龍牙の心を見た葉隠。そこにあるのは悲しみと寂しさによる迷子の子供のような叫び声。
「俺は、俺はぁぁぁあああ!!!」
「―――龍牙君!!龍牙君、私たちは感謝してるよ!!龍牙君のおかげで助かってるよ!!有難う!!」
「は、葉隠さん今それ言うのかい!?」
「いいから尾白君も言って!!」
「えっええっ!?わ、分かった!龍牙君本当に有難うお陰で僕も葉隠さんも大丈夫だよ!」
尾白は何が何なのか理解も出来ないままに龍牙への礼を口にする。今の龍牙が恐ろしいのは確かだが感謝しているのは本心から、それを素直に言葉にして伝える。叫び続けている彼にも聞こえるように大声で。
「―――っ……!」
その声が届いたのか、それとも正気に戻ったのか龍牙は叫ぶのをやめた。それに連動するかのように黒い炎も同時に鎮火され消えていった。黒い炎に焼かれたヴィラン達の炎も収まり激痛にのた打ち回ってこそいるが意識と命は確りあるようだ。龍牙は周囲を確かめるかのように見まわしている、一体何をしていたのか自分で理解する為に情報を集まるかのように。
「俺、は……」
「いてぇ……いてぇよぉ……」
「だ、誰か助けて……」
周囲から呻きを上げているヴィラン達の姿を見る、どれも火傷による痛みで動けなくなっている者達ばかり。誰もが苦しみにもがく声を出しながら自分を見つめると決まってある声を出す。
「く、来るな……こっちに来るなぁ……!!」
「や、やめてくれ、もうやめてくれっ……!!」
絶対的な恐怖におびえ、身体を震わせている。そこにいるのはもうヴィランではなかった、絶対的な力を身体に刻み込まれ怯え切った哀れな者達しかいない。そしてそれを成したのが自分だという事も察してしまう。先程まであれほどまでに威勢があり、自信と悪意に満ち溢れていたヴィラン達がである。自分の動作の一つ一つに脅えているのか、視線を彷徨わせるだけで悲鳴のような声を上げる。
「(ヴィランって、誰なんだ……この場におけるヴィランって俺じゃないのか……?)」
次第に呼吸が速くなっていく、心臓が早鐘を打つ。心臓の音だけが増幅されてそれと呼吸音だけが強く聞こえてい来る、思考が巡る、巡って巡り続けていく。認めたくもない事実が自分に迫ってくるような気がする、いや襲い掛かってきたヴィランに攻撃を返した……いやそれでは済まないかもしれない、いよいよ思考が麻痺してくるような苦しさを感じ始めた時―――
「―――君、龍牙君!!」
「龍牙君大丈夫かい!?」
葉隠と尾白の言葉でハッと我に返る事が出来た、顔を上げた先には心配そうに顔を覗き込んでくる尾白とギュッと握りしめられている葉隠の手袋があった。葉隠も手を握りこんで心配してくれていたのかもしれない。
「ごめん心配を掛けた」
「う、ううん大丈夫ならいいけど」
「龍牙君大丈夫なの本当に?」
「大丈夫だよ、もう大丈夫……それよりも早くここから出よう、暑いし」
そう言いながら先導するかのように先を歩きながら出口を目指す龍牙だが、葉隠は聞いていた。小さく、自分に言い聞かせるように大丈夫と何度も繰り返しているのを……。