僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「龍牙、お前血縁上の両親と会ったら如何する気だ」
「なんですか師匠いきなり」
体育祭に向けて毎日特訓を行っている龍牙、ひたすらまでに実践訓練を繰り返して個性のレベルと戦闘技術を、精神面などを徹底的に鍛え上げる特訓に弱音を吐くこともなく食らい付いて糧にしていく龍牙。そんな龍牙へと師匠が一つの事を訪ねた。それは龍牙の両親、肉親の事だった。数日前、妹である白鳥が両親が自分に会いたいと伝えて欲しいという事を言っていたことを聞いた。それに対しては急いでいたので詳しいリアクションはしなかった。
「ヒーローになる、いや体育祭に出るのであるならば確実にお前は多くの人間の目に映る。その結果で肉親がお前の事を知るのも必然、接触も間違いなくしてくる。その時お前はどうする?」
「あ~……どうでしょう、会ってみないと分からないですねぶっちゃけ」
分からない、それが素直な龍牙の本音。
「俺を捨てた事に対しての怒りならありますよ、妹に嘘吹き込んだのもムカつきます。いろいろと聞きたい事もあります、でも会いたいか会いたくないかって言われたら会いたくはないかも」
「ほう」
「だって今まで俺に会いに来てくれなかったんですよ、それなのにいきなり会いたいっていわれたら何か考えてるんじゃないかって疑ってる自分がいるんです。曲がりなりにも俺の肉親にそんなので会っていいのかな~って」
彼も彼なりに自分の感情を処理しながら考えを纏めようとしている。施設に預けられ、一度も会いに来て貰えなかった彼としては言いたい事はあるだろう。しかしそれよりも先に何故このタイミングで会いたいなどと言ってくるのかという点に目が行ってしまって如何にも微妙な物がこみあげてくるらしい。
「それに俺にとっての親って言えば根津校長と師匠ですから。何時も親の顔は見てますよ」
「……ふんっ小僧が」
そう言いながらも師の頬は少しだけ緩んでいるように映っていた。
「休憩は終わりだ、続きをするぞ」
「了解です」
「もっと厳しくしてやる、体育祭には俺も行く。無様な姿を見せたら……分かってるな」
「分かってますよ。休みなしで組手30セットですよね」
「50だ」
「絶対に活躍します!!」
「んで鏡、なんで俺に会いたいんだよ」
「あ、あのお兄ちゃんお願いですから白鳥と……」
「ああ悪い。まだ感覚が抜けてなくてな……」
体育祭まであと少しと迫ってきた日の昼休み、龍牙は件の話を持ってきた白鳥と話をする為に二人だけで言葉を交えていた。交流自体はしており少しずつではあるが絆のような物が出来始めている、が、矢張り10年振りに会う妹という事で龍牙は改善しようとしているがまだ他人という感覚が抜けないのか兄と妹の会話にはまだまだ遠い物であった。
「以前、私がお兄ちゃんと会った時に聞いた事をお父さんとお母さんに問い詰めたんです。話が全然違うじゃないかって」
「俺が施設で個性制御特訓的な事してるって奴か」
「はい。でも漸く制御が上手くいって今は雄英に居るって……これも嘘、なんですか」
「まあ嘘だな」
淡い期待を乗せたかのような言葉も龍牙があっさりと砕いた。彼女にとっての両親の像が壊れていく、その事に遅くながらも気付き謝罪するが、白鳥は気にしないでと少しつらそうに答える。彼女にとっての両親と自分の中の両親は違う、その事を忘れていた。
「それでお兄ちゃんと話して謝りたいって」
「謝るって何を謝るつもりなんだよ。個性発現時の事か、それとも一度も会いに来てくれなかった事か」
どれも龍牙にとっては今更過ぎる。過去の事になりすぎている、今謝られても昔が変わる訳でもない。もう気に病むのをやめることを決めた自分としては謝られても困る。前なら気にかけたかもしれないが、師との特訓や根津やリカバリーガールの言葉を受けてもう気にすることをやめている自分には意味のない事だ。
「どうせ断ったとしても体育祭には来るんだろ、あの人らだってプロだしな」
「はい、その時に話せたらいいなとも言ってました」
「何を話すつもりなんだ、今更帰って来いとでもいうつもりか?」
言葉に感情が乗らない、何をしに来るのか分からなそうにする兄に妹は苦しそうな表情をする。彼女からしても兄と再会しこうして話せることは非常に嬉しい事だ、だからこそ両親ともそうして欲しいと思っているが自分が思っている以上に兄と両親の間には溝がある事を感じ取る。
「お兄ちゃんは、帰って来たくはないんですか……?」
「う~ん……複雑だな。んじゃ鏡、じゃなくて白鳥、伝言を頼めるか」
「伝言、ですか?」
「ああっ。俺は会ってもいい、紹介したい人もいるって言っといてくれ」
それを聞いて白鳥は喜ぶ半面顔を赤くした。
「しょ、紹介したい人って……お兄ちゃん彼女いるの!?」
「へっ?いないけど……今の俺の保護者の事なんだけど……」
「あっえっそ、そうだよね!!いや分かってたよ!?うん今のボケだから!!」
「いや今の完全に素……」
「わぁ~わぁ~!!!」
図らずも、兄と妹のようなやり取りが出来た瞬間であった。