僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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過去を語る黒龍

―――ヒィッ!!?なんだこれは……悪魔、いや怪物!?

 

―――ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが龍牙をっ……!!

 

―――ヴィランだ早く通報しろ!!

 

 

『それが個性を発動させて初めて聞いた両親の、いや家族たちの声だった。喜びとかそんな感情は微塵もない恐れと不安に満たされた声。同時に向けられてくる敵意が怖かった、いや両親のあの目が……怖かったんだ』

 

個性は既に当たり前のもの、最初こそ異端である恐ろしい力である物が何時の間にか当然のように広がっていた。そして逆にそれを持たないものが異端として扱われる。龍牙は個性こそ持っていたが使う事が全く出来ないという状況が続いていた。病院の検査で個性はあるという診断が下されているのにもかかわらず全く使えないという事実が続いた。

 

その事で虐められもした。無個性と馬鹿にされ、仲間はずれにもされてきた。そんな彼にとって安らぎを得られる場所は家族の中でしかなかった。龍牙の両親、鏡 獣助と鏡 乱は変わらない愛情を注ぎ続けていた。龍牙の為に病院を巡り、個性を研究する権威にも龍牙を見て貰った。時には医療として使用される個性因子誘発物質を投与し、個性が色濃くさせる事もしたが何をしても龍牙が個性を使える時は来なかった。

 

両親はそれでも龍牙を愛していた、自分達の子供なのだからと。きっと何時か個性を使えるようになると励ましながら。そして龍牙6歳、彼の個性が遂に発現した時が訪れた。

 

『な、なんだ!?』

『龍牙が、龍牙が!!?』

 

数年に一度、親戚が集まる席で楽しく過ごしていた時の事だった。突如として龍牙の身体が炎に包まれた、阿鼻叫喚になりつつもプロヒーローとして息子を救おうとする獣助と乱は水を浴びせて炎の消化を試みる。だが炎は消えない、息子の安否が気になる中で炎が弱まっていきその奥に影が見え始めた。不安がよぎる中、遂に炎が晴れて姿が見えようとした時に、そこに居たのは可愛い息子ではなく恐ろしい姿をした龍の姿をした人の姿。

 

『ぅぅっ……これって、もしかして個性、なの?僕の個性……?』

 

炎が晴れた先に居る者は確かめるように、一つ一つを数えるように自らの姿を見る。見慣れた洋服ではなく鱗を積み重ねられた鎧、右手には禍々しい龍の頭。何もかもが理解を超えていたが幼い龍牙の頭にはある答えがよぎる。自分に遂に個性が使えるようになったのではないか!?使えないことがコンプレックスだった龍牙は思わず、喉を震わせながら笑った。

 

やった、自分にも個性が出たと。これでもう仲間外れにされない、両親も喜んでくれると思うと笑いが出た。嬉しさで笑わずにはいられなかったのだ―――その姿のまま。

 

『ヒィッ!!?なんだこれは……悪魔、いや怪物!?』

『ヴィ、ヴィランだ、ヴィランが龍牙をっ……!!』

『ヴィランだ早く通報しろ!!』

 

家族や親戚には突如として目の前に現れた謎のヴィランが不気味に高笑いしているようにしか見えなかった。そして事態は彼にとって最悪な方向へと進み続けていった。プロヒーローである両親からの攻撃、確保のための行動などなど……それらは家族こそ唯一の安らぎとして思っていた龍牙の心を著しく傷つけていった。

 

「笑っちゃうよな、夢にまで見てた個性が発動したら俺は一番大切だったものを簡単に失ったんだよ。あの時ほど俺は悲しかった時はなかったなぁ……」

 

フッと虚空を見つめる龍牙の瞳は何も映していない、何も見ようとしていない。過去も、今も、未来も何も映らない。それこそあの時の自分の瞳。過去の経験から、今失ったものを、未来をどうするのか、何も考えられずにただただ虚空を見つめていた。

 

「そ、そんな……」

 

緑谷は慰めの言葉を向けたかった、今彼が纏っている悲壮感はかつて自分が味わった物を遥かに超えている。だからこそ何かの言葉を掛けてあげたかったのに、何も出てこなかった。何を言っても何の利益も、為にもならないと分かってしまっている。

 

「あんまり、じゃないか……!!だって龍牙君は嬉しかっただけ、なんでしょ!?ただそれだけなのに何でそんな風に言われなきゃいけないんだよ!!?可笑しいじゃないか、誰だって嬉しいに決まってるじゃないか!!?」

「緑谷……」

「ずっと個性があるって分かってるのに使えなくて、苦しんできて、だからその時漸く分かったんだからそんなの当り前じゃないか!!?」

 

彼も特殊な経験をしている、今まで無個性と言われ様々な苦しさを味わってきた。今でこそ個性を使えるが、それと龍牙は大きく異なっていた。それでも龍牙の喜びは強く理解出来るし共感できる。

 

「それなのに、それなのに……!!」

「……そう言って貰えるのは嬉しいけどさ、その時の両親達からすれば俺は謎のヴィランでしかなかったんだよ。いきなり子供が炎に包まれたと思ったらそこにいたのは化け物みたいな見た目をした奴が居たんだ。しかも俺は個性が使えなかった、それを俺とどうやったら認識出来るんだ?」

「それは……!!」

 

客観的に考えればその状況で龍牙が個性を使えるようになったと考えるのは難しく、ヴィランが出現したと考える方が自然。

 

「……続けるぞ。その後、俺は一時的に警察に拘束された後に預けられる事になった。その中、個性の制御が出来ない奴らが集められるそんな施設にな」

 

個性が蔓延している世の中、しかし中には制御出来ない者達もいる。龍牙も個性を制御しきれなかったという事でその施設に預けられる事になった。

 

「ま、待ってよ龍牙君!?お父さんとお母さんは!?何でそんな施設に行くの!!?行く必要なんてないんじゃないの!?」

 

葉隠が大声でそう問いかける。その時だけのすれ違い、それで済む筈。その筈なのに施設に行くのか分からない葉隠、それに龍牙は溜息を吐きながら俯いた。

 

「拒否したんだよ。俺を引き取る事を」

「えっ……」

「……これは推測だけど俺の個性の見た目は醜悪で邪悪な化け物。それを理由に自分達の立場が揺らぐのが恐れたの、かもしれない。マスコミが騒ぎそうなネタだし」

 

両親というのには多少なりともエリート的な思考があった、自分を愛していたのも将来への期待や自分達が利用する事も考えていたのかもしれない。どれも結局は推測の域は出ない、だが先程との両親との会話で可能性としては高いと龍牙は考えている。そんな期待を込めた息子がヴィラン顔負けな化け物のような姿になる個性を持った、となればマスコミは大喜びで騒ぎ立てる事だろう。そしてそれは自分達の立場を揺るがす物にもなる得ると思ったのかもしれない。

 

「ああでも、施設に行ったのは俺にとっては幸運だったのかもしれない」

「如何して……?」

「―――俺を救ってくれたヒーローと出会えたから」


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