僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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進む黒龍

迫りくる白い翼、それを強く振るう腕で空気と共に吹き飛ばす。優雅に美しく舞う白鳥は完全に会場の全てを支配するかのように魅了していた。周囲を魅了するのもヒーローの素質の一つというのは聞いた事がある、確かに自分だってオールマイトの戦う現場を見たら確実に釘付けになってみる。それほどのカリスマがオールマイトにはある、それと似たようなものなのだろう。

 

「やぁぁぁっっ!!」

 

宙に浮きながら連続で蹴りを繰り出してくる白鳥、それらを腕を払うようにしながら防御する龍牙。一見すれば攻撃をし続けている白鳥の方が有利のようにも映っている。龍牙に反撃の隙を与えずに連撃を与え続けている事こそその証拠、それは間違っていない。実際龍牙も攻撃の合間の隙を狙う事は完全に諦め防御に徹している。ペースは完全に白鳥が握りしめている―――その筈、その筈なのに。

 

「たぁぁぁっっ!!」

 

鋭い蹴りが龍牙の首元へと炸裂する。部分出現によって防御されていない部位への攻撃が遂に叶った、それによってグラリと身体を揺らしながら俯く龍牙、だがすぐに体を起こして此方へと構えを取る。異常と言っても過言ではないタフネスさに白鳥は嫌気すら感じ取っている。

 

『さあ既に試合開始から15分が経過しているが白鳥がペースを握り続けているぞぉ!!だが黒鏡もよく耐えているぞぉ!!この膠着状態を破った方に試合の決定権があると言っても過言じゃねぇ状況!!』

「(どうして、どうして攻めきれない……!?)」

『いや、不利なのは鏡だな』

 

そう、解説として無理矢理席に座らされている相澤が此処で漸く言葉を発した。それに会場からも疑問の声が漏れるが矢継ぎ早に言葉を挟む。

 

『確かに鏡の連撃は素晴らしい、連携も技の合間の隙も非常に少なく完成された連撃と言っていいだろう』

『おおっ超高評価!!』

『だがそれらを完璧に防御している黒鏡の方がその上を行っている。奴は完璧な連撃を完全に防ぎきっている』

「そんな、事はっ……!!」

 

再度、白鳥は跳躍する。先程よりも数段素早く攻撃の密度を増した連撃を繰り出していく。両腕のラッシュに比べて蹴りなどをタイムラグを踏まえた攻撃は対処が非常に難しいと言わざるを得ない。しかしそれらを龍牙は防御していく、先程のリプレイを見せ付けられているかのような攻撃に白鳥も顔に淀みが生じ、焦りからか大振りの攻撃を仕掛ける。それを身体を回転させながら受け流す。

 

「はぁっ!」

「がはぁっ……!!」

 

無防備となった背中へと裏拳が炸裂する、それを受けて地面へと転げ落ちながら苦しげに息を吐きながら必死に立ち上がり兄を見つめるが、そこには背を向けたまま動こうとしない兄が居た。まるで自分などそこまで真剣にやる程でもないと言われたような気分になってしまった。僅かながらの怒りを感じつつ飛び出しながら再び得意の回し蹴りを放つ、が

 

「動きが一気に雑になってるぞ」

「あっぁっ……」

 

振り向きざまに放った龍牙のハイキックが白鳥の腹部へと突き刺さった。片足で身体を支えながらのハイキックは通常よりも勢いが劣るが、白鳥が此方へと迫ってきている勢いでそれを代用した。言うなれば彼女の移動コースにキックを置き、勝手にキックに刺さるように仕向けたと言った所だろうか。凄まじい痛みが身体を突き抜ける、意識が飛びそうになる中で白鳥は腹部へと刺さる足を掴みながら、残った腕で殴りつける。

 

「……悪いけど利かないな」

 

片足を軸に、身体を回転させながら足振いをしがみ付いている白鳥を振り払う。妹が振りほどかれ地面を転がり苦しそうに呻いているのを見つめる。必死に身体を立て直しながら構えを取ろうとするのは非常に健気に映る。いい根性を持っていると素直に感心する。故に自分も加減はしない、したら妹を侮辱する。右腕に炎を溜め、それを一気に発射する。

 

「くぅぅぅうっっっ……!!」

 

龍牙の黒い炎を翼を盾のように使用して防御する白鳥、翼は炎によって燃えていく。何とか防ぐことには成功しているが、それによって翼は一部が燃えて黒くなっている。あれではもう飛ぶ事も叶わないだろう、それでも白鳥は立ち続ける。腕を出すとそこには翼の一部を模したような刀身の細い剣が生まれそれを構える。レイピアのように見える剣を構える姿は非常に絵になる。

 

「はぁはぁはぁっ……負け、ない……お父さんとお母さんの、ためにも……私は負けない……!!」

 

覚悟を言葉にし、身体と心にそう言い聞かせ力を作る。駆けだしながら剣を強く握りしめる、まだ戦える。今日まで必死に力を付けてきたんだからそれを無駄にはしないという意志、両親の為にもという想い、兄に勝ちたいという願いが身体を突き動かす。そしてそれらを力に変えて渾身の力で剣を振るう、それは確かに龍牙の身体を捉える―――だが

 

「……悪いが俺も負けるつもりはない」

「くっ……!!」

 

左手に握られた剣が、白鳥の剣を受け止める。そして白鳥の(それ)を弾き大きな隙を作りながらそこへ黒炎をぶつける。炎に飲み込まれ吹き飛ばされる白鳥はバウンドするように地面を転がっていく。爆発のような勢いで放たれた黒い炎、それをまともに受けた白鳥のダメージは尋常ではない筈。苦しい感情の込められた荒い息を吐くながらもまだまだだと立ち上がった。

 

美しかった白い身体は砂埃と黒い炎によって汚されて、見る影もない程に汚れている。龍牙の攻撃を何度も浴びているのにもかかわらず必死に立ち上がる不屈さ、可憐な少女がそんな事になりながらも必死に戦っている姿は観客質の心を掴み、龍牙へのヘイトを強めていく。龍牙の攻撃は容赦の無いように映っている、それはある意味正しいが全力を出すのが礼儀だと思っている龍牙からすれば少々困った感情、だがそれらが観客全体が持っている、持ってしまっている。

 

「鏡ちゃん頑張れ~!!」

「まだまだ行けるぞいけいけ~!!!」

「負けるなぁ~!!!」

「黒鏡も少しは加減しやがれ!!相手女の子だろうが!!」

「そうだそうだ~!!」

「それでも男かぁ~!!?」

 

募り始めた思いが言葉になり始めた。龍牙の容赦の無さと白鳥の健気な姿が観客を誘ってしまった。だが白鳥はそれらを聞いて喜ぶどころか困惑していた。

 

「ど、どうして……如何してお兄ちゃんを悪く言うの……?全然、悪くないじゃん……!?」

 

彼女からすれば龍牙の攻撃は全て当たり前、対戦相手なのだから攻撃は当然だと思っている。下手に女性だからと手を抜かれるよりも遥かに気分が良いとさえ思っている。寧ろ兄も自分と真剣に全力を出してくれていると好感すら覚える、まあ多少なりとも怒りは覚えたりもしたがほんの些細な物。だから観客の言葉が全く理解出来なかった。なぜこんな風になっているのかと。

 

「ごめん、なさいお兄ちゃん……私の、せいで……」

「気にしてない、と言ったら嘘になるかもしれないけど大して響いてないから気にするな」

「……それでも、ごめんなさい……」

 

白鳥はこの場の空気に耐えられなくなった。なにも理解していない観客に、知らず知らずのうちにこんなことにしてしまった自分に。観客の声が更に大きくなろうとした時の事、白鳥は手を上げて宣誓した。

 

「ミッドナイト主審……私、ギブアップします。流石にもうきついので……」

『許可します。この試合、鏡さんギブアップにより黒鏡君の勝ち!!』

 

白鳥は自ら負けを認め、龍牙に頭を下げて足早に去っていった。一秒でも早く此処から立ち去りたかったのだろう。そんな辛そうな背中を見て実況席では立ちあがった相澤が苛立ちを抑えきれずにはなった舌打ちがマイクに拾われスピーカーから伝わった。

 

「(なんでもっと早く声を出さなかった……ちっ合理的じゃない)」

 

そんな風に思案する相澤、彼は観客を黙らせようと言葉を出そうとした。それよりも先に白鳥が降参する意思を表明してしまい、言えなかった。この事がどんな事になるだろうか、龍牙へ集中する事も考えられる。生徒を守る事も、彼らの気持ちをフォローする事も出来ない自分に相澤は苛立っていた。そんな彼が見つめる龍牙の背中は何処か達観しているように見えた。

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