僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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見えない気持ちと見える気持ちの黒龍

「世の中見た目ってか……」

 

控室に戻った龍牙は自虐的に言葉を吐きながら、足をテーブルの上に放り出しながら天井を見上げていた。三回戦、自分は加減する事は無く正面から白鳥と戦った。全力こそ出していなかったが加減は一切していなかった、それこそが白鳥に対する礼儀だと思っていたからだが……如何やら観客からすると自分の行動は美少女を痛めつけている不良程度にしか見られていないらしい。

 

「スッキリしない……」

 

自分としては白鳥との戦いはそれなりに高揚感があったし、あのまま彼女が立ち向かい続けるならば自分はリュウガを解禁して全力を出すつもりもあった。だがその前に浴びせ掛けられた言葉が白鳥の気持ちを邪魔してこのような結果となってしまった。自分が何かすれば妹は最後まであそこに立ち続けていたのだろうか、そう思うと申し訳ない事をしてしまったような気分になってしまう。

 

「……望まれないのかな」

 

不意に口から漏れてしまった弱気な言葉、既に覚悟は決めていた筈の彼だが観客からの反応を見て思わず出てしまった。自分だって美少女と不良、どっちを応援するかと言われたら前者を応援するだろう。しかし勝負という場でそれを持ち出して確りとした試合を行わないのは白鳥に失礼に当たる、そう思っていた。確りとぶつかり合えれば皆が納得するだろうと思っていたのだが―――

 

「これ以上、考えるのはやめておこう。考えるべきは次の常闇だ」

 

悪い流れをし始めた思考を一旦リセットして次の常闇戦の事を考え始める。自分にとって最悪の相性ともいえる常闇を倒すために思案を巡らせる、近接格闘での攻撃などの組み立てを行っている時に控室の扉があけられた。目をやるとそこには体操着だけが浮いている、一瞬何事かと思ったが直ぐに理解する。

 

「葉隠さんか、如何したんだ?」

「……そのえっと、大丈夫かなって……」

 

 

「なんで、なんで?龍牙君何も悪くないじゃん、それなのに何であんなこと言うの……!?」

 

生徒観客席で観戦していた葉隠は試合の終盤、フラフラになりながらも必死に立ち上がった白鳥に凄いという感想を抱いていた。同じ女としてもだが、あそこまでの攻撃を受けても意志などが折れずに立ち上がって構えを取れるという彼女の精神面も凄いと思っていた。見習わなければいけないなと思っていた時だった。龍牙へのブーイング一歩手前の物に困惑を浮かべてしまっていた。

 

「龍牙に対する風当たりが強いな……なぜ奴らは正々堂々と戦う奴らを侮辱する」

 

静かに怒りを募らせているのは次に当たる相手を見つめていた常闇だった。常闇は二人が正々堂々とぶつかり合っている二人に気持ちを昂らせていた。黒龍たる龍牙との対決も、純白の白鳥との対決もどちらも心が躍ると思いながら二人の戦い方を観察しながら観戦していた、が、突如として上がった二人への観客の言葉に怒りが溜まってきていた。何も分かっていない、これは試合。手加減などをしない正々堂々たるものの美しさが何故わからないのだと。

 

「私は、今のこの会場の雰囲気が嫌ですわ。龍牙さんは間違いなく白鳥さんに向き合っていました、女だからと手加減などせずに実直に戦っていました。それなのに……!」

 

八百万の言葉に思わずにクラスの皆が納得した、あの峰田ですら頷いていた。逆に問うが此処で女性だからと加減してヴィランをしっかりと相手に出来るのだろうか。ヴィランには女性もいる、それを相手にしたときに加減して戦えと言うのだろうか、何も分かっていないと気持ちが燻っていく。そんな中で白鳥は降参をして足早に去っていく、その後にそれを見送った龍牙が去っていくのを皆が見送った。

 

「龍牙君……大丈夫かな、私ちょっと行って来る!!」

「葉隠さん!?」

 

葉隠は静かに去っていく龍牙の背中を見て我慢が出来なくなった、あの背中は前にも見た事がある。USJでヴィランに仲間扱いされていた時の姿に似ている気がした。今の彼を一人にしておく事なんてできないと葉隠は駆け出した。必死に走り、控室へと到達し扉を開けた時、天井を力なく見つめている姿に思わず胸が締め付けられるような感覚を覚えてしまった。だが勇気を出し、言葉を出す。

 

「……そのえっと、大丈夫かなって……」

 

 

 

「ああっ大丈夫だよ、この位大した事ない」

 

そこに嘘はない、本当に大した事ではないと龍牙は思っている。自分がヒーローを目指す中でこれは避けることが絶対に出来ない問題と思っている。出来るのはその問題に向き合って戦う事だけ、その気持は決まっている。だがそんな姿が葉隠にはやせ我慢しているように映った。

 

「龍牙君、その上手く言えないんだけど……私はあんなの本当に気にしなくていいと思う。だって龍牙君は優しくてカッコいいもん。私は知ってる、龍牙君は凄いって」

「―――」

 

シンプルな言葉、そこに込められた葉隠の想い。カッコいい、優しい、そんな風に自分を形容してくれるのは葉隠が初めてだったかもしれない。根津や師匠とも違う優しさと明るさに満ちている、嬉しくてしょうがない。そんな風に思っているとぎゅっと身体に温かい熱を感じる、よく見ると体操着が自分のすぐそばまで来ていた。これは恐らく、自分は―――

 

「葉隠、さん……!?」

「ごめん龍牙君、でもこうしたら元気その、出るかなって……」

 

葉隠の胸に自分は抱き寄せられるようになっていた。恐らくだがそんな風になっている、彼女が透明なので分かりにくいが恐らくそんな風になっている。一瞬混乱仕掛けるが、今まで味わった事の無いような温かさに心地よさを覚える。これはなんだろうか、懐かしさを覚えるような不思議な温かさに酔いそうになる。

 

「葉隠さん、我儘言っていいかな……?」

「うんいいよ」

「……少し、このままでいてもいいかな

「うんっいいよ。私はそばにいるから……」

 

そうして龍牙は少しの間、葉隠に抱きしめられながらその温かさと彼女の優しさに酔う事にした。瞳を閉じれば眠れそうな程に心地よいそれに包まれている龍牙は、先程の事なんて完全に忘れていた。




透明な姿な葉隠さんを生かすのって想像以上にムズイ……。

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