僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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ライバルを得る黒影と黒龍

「……やっぱり理解出来ない」

 

一人、廊下の影にいた少女、白鳥は漸く落ち着いたのかゆっくりと立ち上がった。幽霊のようにふらふらとした足取りで観客席へと向かっているが心中は穏やかではなかった。

 

『気にする事は無い白鳥、あの時お前は周囲を味方につけていた。それはヒーローには必要な素質で力だ!お前にはそれがあると証明された瞬間なんだからな』

『そう、流石は私とお父さんの子よ。これで将来はきっと安泰ね』

 

「……子供なら、なんでお兄ちゃんの事を何も言わないのよ……そんなの親じゃない……」

 

募っていくのは両親への不信感。自分を慰めてくれたのは感謝すべきかもしれないが、二人は龍牙に対しては何も口にしなかった。家族だって言っていたのにこれでは全然違う、都合のいい時にしかそのようにしか繕っていない……兄が両親にいい顔をしないのも理解出来た。

 

「如何すればいいの……?」

 

観衆が兄へと向けた感情や視線、両親の言葉と自分が今まで受けていた愛とは違った面を見てしまった影響か彼女の内面は穏やかなものではなかった。そして真剣に立ち会ってくれた兄との勝負を自分から投げ出してしまった自分への嫌悪感が圧し掛かる。兎に角兄には確りと謝る事を心に決めながら観客席へとたどり着いた時、白鳥は見た。黒い炎に包まれている龍牙の姿を。

 

「あれ、は―――」

 

炎の先にあったのは爛々と輝く不気味な朱い瞳、恐怖を増長させるかのような凶悪な風貌を持った黒い龍が立っていた。白鳥は龍牙が完全に個性を発動させている場面を見た事が無かった、始めた見た凶悪なヴィランその物と言ってもいい見た目をした龍牙。見た事もない兄の全く別の側面、それを見た白鳥が抱いた物は―――

 

「凄いっ……」

 

感嘆だった。

 

 

 

リュウガ……!!

 

「オオオオオオッッッッ!!!!」

 

天へと向けて捧げられる龍の咆哮、力強くも待ち望んでいたかのような歓喜もあった。咆哮と共に炎が弾け飛び、そこには個性を完全発動させた龍牙の姿があった。完全に開放された黒龍は喜びを表すような咆哮を捧げ終わると真正面へと意識を向ける、が周囲はそれでは済まなかった。

 

「お、おいなんだあの個性!!?あれが個性なのか!!?」

「蜥蜴、いや龍か!?黒い龍だ!」

「な、なんて面だ……まるでヴィランだぜ」

 

龍牙が個性を発動させた状態、それが公衆の面前に晒される。観客たちは思わずそのヴィラン顔負けの凶悪さを見せ付けている龍牙に様々な感想を勝手に述べていく。プロヒーロー達はどちらかと言えば冷静に見ているが、それでも自分達が相対してきたヴィランとも遜色もないレベルの恐ろしさを持つ龍牙に素直に恐怖に似た物を抱える。

 

『……黒鏡、迷いはないって事か』

『あれが噂に聞く龍牙の個性か、いやぁ俺的にはすげぇクールな個性ってマジで思うんだけどなぁ……』

『……あいつ、黒鏡はその個性の見た目上にそれをコンプレックスに思ってきた筈。だがそれをここで使ったという事は覚悟が出来たって事だな。個性:リュウガ、己の全く別の側面を発現させた個性……とでも言うのか』

 

相澤の言葉を聞いた観客たちは言葉を失いながらもどんな言葉を口にしたらいいのか迷っていた。恐ろしく凶悪な姿をしている龍牙、真っ先に恐怖とヴィランじゃないのかという言葉が出そうになった時にそれらを遮った大きな歓声が生徒観客席から上がった。

 

「龍牙ァァァ!!!いいぞそのままいけぇぇぇっっ!!!!今のお前めっちゃくちゃカッコいいぞぉぉお!!!」

「龍牙君行けぇぇええ!!!」

「龍牙君頑張れぇぇええええ!!!」

 

会場全体に響くようなA組の応援の言葉だった、それらは静まっていた会場を劈くように響き渡った。同じクラスで過ごしてきた彼らはこの場であの姿になる龍牙の事を気にかけていた、如何すれば龍牙の為になるだろうかと。簡単な事だった、全力で声援を送ってあげればいいんだ。周りの声なんて聞こえなくなるほど大きな声で。

 

「ウチ全然龍牙君の事怖くないよぉ!!!寧ろ超イケてるよぉぉ!!!」

「頑張ってください龍牙さん!!常闇さんも負けないでぇ!!!」

「いっけえええ龍牙ぁああ!!勝ったらオイラ秘蔵のコレクション見せてやるからぁぁ!!!」

「常闇もその姿超イケてるぞぉおお!!このイケメン影野郎ぉぉお!!!」

「龍牙君も常闇君も全力を尽くすんだぁぁああ!!雄英の生徒として胸を張れる戦いをするんだぁぁああああ!!!」

 

八百万が創造したと思われる大弾幕、何処からか持ってきたのか切島は大漁旗を振り回している。メガホンなども使って周囲の声を打ち消すような大声でエールを送っている皆。そして龍牙には一番届いている声があった。

 

「龍牙君頑張ってぇぇぇええええ!!!!今の龍牙君凄いカッコいいよぉぉぉおお!!!」

「―――ぁぁっ心に、染みるなぁ……」

 

葉隠さんの言葉だった。A組皆の言葉が温かさをもって自分を包む中で彼女の言葉は胸の中に入り身体の中から温めるような感覚、本当に優しいクラスメイト達で涙が出そうだ。この状態では涙は流せないが、心でそれを流しておこう。

 

「我らがクラスは矢張り温かい。影の俺でもあの日向の心地よさには酔いを覚える」

「奇遇だな。俺もそう思ってる」

「やはり気が合うな」

 

そう答える中、常闇の準備も済んだようだ。自らの身体に黒影を纏った形態、深淵闇躯。あれが今の自分と同じ最強の状態なのだろう。

 

「深淵闇躯……今まで試してきたが初めて成功した。お前のお陰だ」

「いや純粋にお前の才能だろ」

「違う、お前が与えてくれた心が躍る胸の高ぶりが俺を成功に導いた。改めて礼を言うぞ」

「そうか……んじゃ覚悟は良いんだよな―――第二ラウンドの始まりだ」

「ああっ―――行くぞっ!!!」

 

一瞬、互いの視線が合った、それが開始の鐘となる。駆けだす二人、ぶつかり合う互いの攻撃。互いの身体に直撃し倒れこみながらもすぐさま立ち上がり組み合う。

 

「オラァァア!!!」

「オオオッッ!!!」

 

鋭いストレート、ジャブを交えたラッシュを常闇が。龍頭による重い一撃と鋭い剣戟を龍牙が。互いの身体へとぶつけていく。

 

「らぁぁっっ!!!」

「おおっっ!!」

 

首元を薙ぐような一撃を身体を反らせて回避する常闇は素早く身体に纏わせていた黒影を操作し、龍牙の顎へと影の一撃を加える。上体が大きくブレた所に腰を入れた鋭いラリアットが決まっていく、鎧のようになっている硬い龍牙の身体を吹き飛ばすかのような一撃。後方に飛ばされる龍牙、だが素早く体勢を立て直すと今度は常闇へと重い蹴りを浴びせ掛ける。

 

「ぐぅっ!!負けるかぁぁ!!」

「こっちの台詞だぁぁ!!!」

 

殆どノーガードに近い攻防、完全に防御を捨てた超攻撃特化の攻め方をする互い。相手の身体に突き刺さる一撃を放てば相手もそれに負けじと身体に攻撃が刺さったまま、相手にも攻撃を突き刺していく。

 

「取ったぞ龍牙ぁぁぁあああ!!!」

「ぐはぁっ……!!」

 

龍牙の一撃、通常のパンチよりも遥かに重々しい両腕の攻撃を受けた常闇は意識が飛びそうになりながらも不敵に笑っていた。深淵闇躯の神髄はその身に黒影を纏っている事、即ち黒影の力をそのまま行使出来る。身体に突き刺さっている龍牙の腕には黒影の腕がガッチリと抱え込んで固定してしまっている。そして常闇はそのまま龍牙の頭部へと拳を振るう、振るう、振るう、振るう。何度も何度も腕を振るっていく。硬い鎧の感触で拳の感覚がなくなりかけていくがそんな事は知った事かと腕を振るい続けていく。

 

「これでぇっ!!」

「どっせぇぇえええいっっっ!!!」

「何っがぁぁっ!!?」

 

両腕が固定されている、ならば取る手段は一つと言わんばかりに龍牙は上体を反らし、そのままの勢いで頭を常闇に叩きつけた。即ち頭突き、それを受けた常闇は怯んでしまったが独立しているに近い黒影は龍牙の腕を離さない。ならばと龍牙はそのまま跳躍して自分諸共、常闇を地面へと思いっきり身体を叩きつけた。

 

「これでぇっ……如何だぁっ!!!」

「がはっごはっ……無茶をする、奴だ……!!」

 

大きく亀裂の入ったステージ中央、そこから這い出るかのように立ち上がる二人。拘束から解かれた龍牙と脱出した龍牙を見て笑う常闇。本当に楽しいと二人の胸には歓喜が渦巻いていた、此処までの激闘、全身全霊を込めた戦いに二人は心が躍り、本気で喜んでいた。

 

「なぁっ踏陰……俺此処まで楽しいって思った事ねぇよ……」

「ああっ俺もだ龍牙……ライバルとの対決は此処まで素晴らしいとはな……」

「ライバルか、そりゃいいなぁ……最高の、響きだぁ……」

 

何処か陶酔しているかのような言い方をする龍牙、倒れそうな身体を必死に立て直して構えを取る常闇。既に互いの身体はボロボロで立っている事もやっとな状態になっていた。互いに攻撃を全く防御せずに来たのだから、ガタが身体の奥底まで来てしまっているようだ。気を抜けば気を失いそうなほどにダメージが蓄積しているのに二人は笑っていた。

 

「踏陰……流石に俺ももう余裕がない……次で、決めさせて貰うぜ……!!」

「良いだろう、俺も次で全てを絞り出すとしよう……!!」

 

既に限界を超えている、それを理解しているからこそ次がラストショットであることを宣言する。だが恐らく二人の頭の中にはそれを避けて対処する事なんて存在していない。回避するだけの余力はない、ならば全てを出して相手にぶつかった方がよほどいいと分かっているからかもしれない。そんな答えが自然に同時に出た事に笑いがこみあげるが、次には笑いは消えていた。

 

「さあ行くぜ、今なら―――行ける気がする……!!」

 

天高く掲げた腕、交差させながら胸の前で開き右腕の龍頭へと意識を集中させていく。この姿の象徴ともいえる龍の頭部の腕、自分の最高の一撃と言えばやはりこれしかない。聞くが如何かも分からない、だがこの相手には今できる最大限をぶつけたいと思った。

 

「はぁぁぁぁぁっっっっ……!!!アアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

叫ぶ、叫ぶ。咆哮と共に龍牙の身体から夥しい量の黒い炎が沸き上がっていく。それらは流血のように地面へと落ちると途端に爆発的に燃え上がっていく。次第に炎の量は増していき、遂には龍牙を飲み込むほどの大火となっていく。そしてそれは次第に何か、蜷局を巻く何かの形を作り出していく。

 

「はあああああぁぁぁぁぁ……行くぞぉぉおおお!!!ズァァッ!!!」

 

猛々しい宣言と共に、龍牙は炎と共に跳躍する。天高く、空へと舞い上がった龍牙を取り巻く炎は次第に一体の黒い龍となりながら勇ましい咆哮を上げながら共に天へと昇っていく。それを見つめる常闇も自信が繰り出せる最高の一撃を放つ構えを取る。深淵闇躯の切り札として考えるだけ考えていた取って置き、使った事がある所か試した事さえない。だが博打上等、彼の頭に失敗の文字は存在しない。

 

「闇の帳を一つに束ねる……冥府の闇と成りて、全てを薙ぐっ!!」

 

常闇の全身から黒影が飛び出し、それが腕へと収束していく。影は全てを飲み込む闇へと化し、漆黒の影を調節した冥府の輝きへと昇華される。顕現せしは死神の鎌、生者の魂と命の灯を刈り取る禍々しい一振りの鎌。

 

深淵闇躯……冥府凱閃!!」

 

「流石に拙い、セメントス!!」

「ああっ!!止めますよミッドナイト!!」

 

このまま激突させては流石に拙いと判断した審判の二人が動いた。だが遅すぎた。

 

 

「だあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

甲高い龍の咆哮と共に吐き出される極大の黒炎、それを推進力にして一気に加速した龍牙は天から落ちる流星のような勢いで落下しながら常闇へと向かいながら全力の蹴りを放つ。それを見ても常闇は不敵な笑いを浮かべたまま腕を構え、全力を持って振るう。

 

「ウオオオオオオオッッッッ!!!!」

 

冥府の鎌が振るわれる、黒龍の流星を受け止めるのではなく薙ぐように振るわれる。最強の一撃がぶつかり合う、全身全霊が込められた一撃同士の激突は途轍もない衝撃を周囲に発散させながらもなおもぶつかり続ける。

 

「ダアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!!!!!」

 

絶叫の中、衝撃と共に互いの一撃が砕け散り天へと延びるような黒炎の火柱を上げる。天穿つような火柱、青空へと放たれたそれが消えると空に浮かぶ太陽が陰り、雨が降り出していく。雨が降り出し舞い上がった炎を消していく。視界を奪っていたそれが消えた時、皆が目にしたのは……倒れこんでいる龍牙と常闇の姿だった。

 

黒鏡 龍牙 VS 常闇 踏陰

 

ダブルノックアウト、よって引き分け。

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