僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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師匠と弟子たる黒龍

『現在龍牙と常闇との戦いでステージがぶっ壊しちまったから修復中!ちょっとの間待ってくれよな!!』

 

雨が降りしきる中、セメントスがステージの修復を行っている中でマイクが先程の龍牙と常闇の戦いについてのコメントやらを行っている。唯々時間が立つのも勿体ないし何かすべきだろうと、自分のラジオ番組を持っている彼なりの配慮だろう。

 

『にしてもあの二人の対決は最高にCOOLだったぜ!!まさに互いが全力を出し尽くした末のダブルノックアウト!!最高に燃えたぜ!!』

『普通なら真正面からやりあうのは愚策だが、あの場合は互いに避けるだけの余力が完全になかった。故の正面衝突、あれはあれで合理的な判断だ』

『おおっ意外に絡んでくるなイレイザーヘッド!』

『……』

 

マイクが一方的にしゃべるだけになると思いきや、相澤もちょいちょい話に参加してコメントを残している。相澤も相澤で龍牙と白鳥の対戦で介入出来なかった事を悔いている、その代わりという訳ではないが少しでも龍牙のフォローアップをしようとしているのかもしれない。

 

『にしてもイレイザーヘッド、お前の教え子たちの熱い声援も二人のNICE FIGHTに影響していると俺は思うぜ!!周囲の声を押し退けるぐらいだったからな!!』

『それはあるだろうな。黒鏡が戦いに集中出来たのはあいつらの応援があったからこそだろうな、他の物なんて聞こえなかっただろう』

 

暗に龍牙に対するブーイングや侮辱を牽制する相澤、それを受けて一部の観客たちはバツの悪そうな顔をしている。プロヒーローは逆に圧倒的な力に目を向け、それに対する議論に夢中になったりもしている。

 

「これは早速サイドキック争奪戦が白熱するだろうな」

「だな。龍牙君の姿は確かに怖いけど、あれはあれで俺カッコいいと思うけど」

「万人受けは難しそうだけど、ダークヒーロー感はあるな」

 

そんな風に龍牙を認める、評価する意見が飛び出す中で一人のプロヒーローが立ち上がった。彼も異形系なのか非常に体格が大きく他のヒーローの数倍は巨大な身体をしている。

 

「あれっ何処へ?」

「少しな―――馬鹿弟子の所に行くだけだ」

 

 

「いてててっ……ちょっとやりすぎたな……」

「同じくだ……流石に無茶を重ねすぎたな」

「全くもってその通りだよ大馬鹿坊主共」

 

医務室に担ぎ込まれた龍牙と常闇、リカバリーガールによって治癒や治療を施されてた二人は念の為にとベットに横になっている。龍牙は全身を変化させる異形系な個性なので身体に対した傷はなく、疲労や身体の内部ダメージになどが溜まっているだけが、常闇はそうはいかずに治癒が掛けられているのに関わらず各部に包帯などが巻かれている。

 

「龍牙、アンタの方はもう治癒終わってるよ。アンタの馬鹿体力なら大丈夫だろうね」

「なんか投げやり過ぎない……?」

「一週間連続実戦形式訓練とどっちが楽だい?」

「こっちです」

「ほらね」

 

即答する龍牙、彼の中で半分トラウマと化している地獄の訓練、それが一週間連続実戦形式訓練である。廃屋となった廃ビルを舞台にして行われた訓練で、常に緊張状態と臨戦状態を維持した状態を強要される地獄のような訓練だった。終わった時には心身からの疲れが溢れ出してしまい、龍牙は2日間は眠り続けてしまったほど。

 

「龍牙、リカバリーガールとは親しいのか。随分お前との会話に親しみを感じるが……」

「ああっまあ……リカバリーガールは俺の保護者経由で昔から世話になっててさ、俺のばあちゃんみたいな人なんだよ」

「そうだったのか……いや納得した。確かに今の会話は祖母と孫の会話のそれだ」

 

納得する常闇は改めてベットに深く身体を預ける。身体の節々の痛みと疲労感はいっその事心地良い、瞳を閉じれば直ぐにも思い出せる自分の全てを出し切って望んだ死戦と言っても過言ではなかったあの試合。心の奥底から楽しく素晴らしい物だった……。

 

「龍牙、一つ頼みごとを聞いて貰っていいか」

「んっなんだ」

「お前、身体は大丈夫なのか。動けるか」

「まあ動けるな、疲労感はあるけど痛みとかは完全にない。流石にあの時のふらつきはノーガード戦法で無茶したからだからな」

「ははっ確かにあれはやりすぎたな」

 

軽く笑いながら改めて自分のライバルの凄さには驚かされる。自分なんて身体の痛みと疲労で動かせる気がしない、歩く程度は出来るだろうが走るなんて以ての外で戦える気なんてしない。これも個性の差という奴だろうか、自分の深淵闇躯も鍛えれば龍牙のように慣れるのだろうか……?

 

「……俺の代わりにトーナメントを進んでくれ」

「お前、意味分かってんのか?俺とお前のあれは引き分け扱い、この後なんかの方法で決着をつけて勝者を決める筈だろ」

「ああっだが俺はもう限界だ。まともに黒影に闇を供給してやる事も出来ん、だからお前が先に進んでくれ」

 

常闇は黒影を身体に纏っていたとはいえ、深淵闇躯は不完全な技だった為にムラが出来ており身体を十分にガードしきれていなかった。故にダメージや疲労は常闇の方が非常に大きかった。

 

「俺と黒影、その思いを共に連れて行ってくれ。お前が行くその先にな」

「おう。お前が望むなら背中に乗っけてやる、乗り心地は悪いかもしれない黒龍の背中にな」

「何、お前という背に乗せて貰えるのだ、安心して身を預けられるという物だ」

 

互いに突き出した拳をぶつけ合う、男として互いの心意気をぶつけそれを胸に秘める。自然と笑みを浮かべて笑う二人の光景にリカバリーガールは青春だねぇ……と思わず呟いて笑みを作って渋い緑茶を口にする。濃くして苦みが強い筈の茶だが、何処か何時もよりも美味しく感じられた。そんな時だった、医務室の扉を叩く音が木霊する。誰だろうか、A組のクラスメイト達は試合が終わるとなだれ込んできたが、治癒の邪魔だからと追い返したはず……とリカバリーガールは首を傾げつつ、入っていいと許可を出すと一人のヒーローが入室した。

 

「失礼するリカバリーガール」

「おやアンタだったのかい」

「龍牙は……そこか」

 

入ってきた人物にリカバリーガールは笑みを零しながら目で龍牙と常闇が青春をやっている所を示す。その声を聞いて龍牙と常闇は顔を上げてそちらを見ると思わず硬直してしまった。スーツこそ纏っているが隠しきれない巨体、黒いと白の身体。鋭く凶悪そうな指先の鋭利な爪、伸びている背鰭は誇らしく強さと猛々しさの象徴。鋭い瞳の中にある視線は睨みつけた相手を硬直させる程の恐怖を植え付ける。

 

「―――し、師匠……!?」

「及第点だったな、龍牙」

 

その人物こそ龍牙の師匠にしてヒーローランキング10位にランクインする程の強者にして海の覇者、ギャングオルカその人である。

 

「ギャ、ギャングオルカ……!?ヒーローランキングトップテンに入るトップヒーロー……それが、師匠!!?」

「ああうん……ごめん踏陰、そういう事一切話してなかったけど俺の師匠なんだよギャングオルカ」

「―――いや納得した。それならばお前の強さも理解出来る、しかし……これは驚きを隠せないな」

 

冷静を装っているが常闇は興奮と驚きに支配されていた。流石にオールマイトに比べてしまったら劣るが、それでも凄まじい強さと人気を誇るヒーローであるギャングオルカ。強面故に『(ヴィラン)っぽいヒーローランキング』なる物で三位になってしまっているが、常闇としては好きなヒーローであった。そんなギャングオルカは常闇を一瞥すると静かに言う。

 

「―――寝ておけ、今のお前の仕事は身体を休め次の鍛錬に励む事だ」

「分かりまし……」

 

そんな言葉を掛けらけると自然と疲れからか、瞳を閉じてしまい眠りに入ってしまった。流石に限界が来ていたのだろう、それがギャングオルカの言葉で出てしまいそれに従って意識を手放した。寝息を立てる常闇から離れた龍牙は師匠に相対した、及第点だという師匠の言葉を聞きたかった。

 

「お前は炎を使うことを明らかに避けていた、彼の個性はお前の炎を吸収出来るからだろうが何故最後には炎を使った。それで相手を強くし自分を不利にする。加えてあの技は成功率が5割を切る程度でしかない危険性が高い技、下手をすれば自爆した上に彼に大きな恥を欠かせる事にも繋がる事が理解出来ないようだな」

「そ、それは……ですけど常闇の技も同じだったんです。それなら俺だって負けるわけには……!!」

「それで競う意味はない。あれを使わずに真正面から乗り越えていく事、それも敬意に当たるだろう」

「うううっっ……」

「次にだな」

 

そこから溢れてくるのは如何に龍牙の攻め方、対処の仕方、実力の見極めの甘さなどなどが出てきた。龍牙は戦っているうちにライバルともいえる相手が初めてできた嬉しさで確かに疎かになっていると分かった。故に何も言わずにそのまま真摯に師匠からの叱責を受ける事にした。

 

「聞いているのかこの馬鹿弟子がぁ!!!」

「ちゃ、ちゃんと聞いてますぅ!!」

「いいや聞いていないな!!大体お前は何時も何時も下らんことでウダウダ悩みおって、それなら俺なんてな……」

 

途中から龍牙に対する叱責から龍牙が抱える個性による見た目の悩みへ、そしてギャングオルカも共通して抱えている見た目のお陰で苦労している事の愚痴へと変化していた。実は子供好きな上に努力する若者に賞賛と激励を、悩む若者にはアドバイスを贈りたいと真摯に思っている、だがキャラと立場がそれを許さない。

 

「全く……なんで敵っぽいヒーローランキングなんて存在するんだ……」

「本当ですよね、絶対俺も乗りますよね……」

「「はぁっ……」」

「(やっぱり師弟だねこの二人は……)」

 

だから二人は強い絆で結ばれているのかもしれない。互いに抱える物に対して深い理解を持つ事が出来るからこそ良好な関係を築き、互いに尊敬しあえているのだろう。生暖かい視線を向けているとそれに気付いたギャングオルカが大きく咳払いをする。

 

「ま、まあ兎に角だ!!お前はまだまだ未熟なひよっこだという事を忘れるな。驕り昂るなど言語道断だ!!これからも俺はお前のプライドを圧し折り続けるから覚悟しておけ」

「そもそも俺はそんなプライドないですよ……何回築き上げた自信を貴方にぶっ飛ばされたと思ってるんですか……」

「……それは、正直すまんと思ってる……」

 

師として弟子を正しく導く為に龍牙が慢心しないように指導してきたギャングオルカだが、その過程で龍牙が持つべき自信を何度も完全に壊してしまっている。故に一時期は龍牙が完全に自信を喪失してしまった事件があり、その事を根津から怒られもした。怒られてからは加減はするようになってはいるが、それでも龍牙の自信は定期的に打ち砕かれている。

 

「だがな、俺は嬉しく思っている……お前は自分の個性を自信を持って使った。それはお前にとって大きな一歩になった、違うか」

「―――ええっ間違いなく。今の俺は今までの俺とは違うって胸を張って言えます」

「そうか……そうか」

 

感慨深そうにギャングオルカは龍牙の頭を撫でる、そこにあったのは先程までの厳しい師としての姿はない。弟子が大きくなったことを喜ぶ優しい師だった。そんな師匠の大きな手で撫でられる事に心地よさを覚えながら龍牙は頬を欠いた。

 

「龍牙、思いっきり暴れてこい。お前の力を見せ付けてやれ!!!」

「はいっ師匠!」


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