僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「龍牙君龍牙君!!ホント、ホントにカッコよかった!!こう、炎がぐわぁ~ってなってごぉ~と炎と一緒にだぁあ!!って感じになって、えっとえっと!!」
「葉隠さん、ごめん抽象的過ぎて全然分からない」
ギャングオルカとの一幕、精一杯の応援と温かさを受けた龍牙は身体に残る疲労など吹き飛ぶような良い気分で医務室を後にした。事実、身体は綿のように軽くなっており何時でも全力戦闘が出来そうな程。病は気からというが、その逆も然りという奴だろう。そんな龍牙が廊下を歩いていると葉隠に遭遇した。彼女は自分を見つけるなり常闇との戦いの感想を並べ始めていく。余程刺激的で言葉に出来ないのか、擬音のオンパレードになっている。
「兎に角カッコ良かったよ本当に!!」
「そう言われると素直に照れるな……カッコいいか、そうか俺ってカッコいいのか……」
何度も何度も深く噛み締めるように言葉を繰り返す。個性を完全に発動させた場合、自分に飛んでくる言葉なんて罵倒や恐怖、助けを求める物ばかりだった。そんな龍牙にとってカッコいいという言葉は酷く刺激的且つ甘美、魅惑的な表現になる。頬が緩み、口角が上がっている。
「うんっとっても素敵だったよ龍牙君!流石は私の憧れってあっ!!?」
見えない筈の彼女が思わず両手で口を塞いでしまった。失言だった、言うつもりはなかったのに言ってしまった。なんて言えばいいのだろうかと思う中で龍牙は変わらずに笑いながら呟き続けていた。
「素敵、素敵……ふふふっ俺は、そうなのか……♪」
酷く上機嫌にしている龍牙。またもや言われた言葉に感激してその言葉の味に酔っている。何度も何度も繰り返している姿に思わずホッとする葉隠だが、同時に少し位は気にかけてくれてもいいじゃないかという想いも沸く。自分がどれだけ龍牙に魅了され、憧れているのかも少しは知ってほしいという複雑な乙女心がそこにあった。
「んもう、少しは聞いてくれたって……」
「えっごめん何か聞き逃しちゃったかな俺」
「ううん何でもないっ」
「?」
見えない頬を膨らませて少し拗ねる、こういう時自分の顔を見られないのは個性の利点だが逆に、自分の感情を伝えにくいのもこの個性の欠点だと葉隠は真剣に思う。
「と、所でさ、次は轟君とだけど大丈夫?」
強引に話を変えて次の対戦について持っていく事にした。これ以上自分の事に関わる事を言うとボロを出しそうと思ったからだ。次の龍牙の相手はA組最強と呼び声高いあの轟。第一試合ではその圧倒的な個性の出力で瀬呂を瞬殺し、次の緑谷との対戦では今まで使わなかった炎を完全解禁して更に強さを増している。
葉隠としては常闇との激戦の記憶が新しい故か龍牙の負ける姿など想像できない、絶対に負けないという確信こそあるが心配はあった。だが龍牙は力強くサムズアップでそれに応えた。
「負けるつもりなんてないさ、今度は最初から全開で俺は行く」
「じゃあ最初からあの姿で?」
「ああ」
リュウガ、龍牙のもう一つの姿である彼にとっては様々な意味を持つ姿。忌避される姿をされている故に、葉隠はこのトーナメントでは余りならないのでは?という予想を立てていたのだが、それから真っ向から立ち向かうような力強い言葉が返ってきた。
「ずっと俺は怖かったんだ。あの姿が、あれになるのが怖かった。でもさ、今日それが変わったんだよ。全部葉隠さんのお陰だよ」
「わ、私の?」
正確に言えばA組のお陰だろうが、一番大きな影響を与えてくれたのは間違いなく彼女だ。自分の姿をカッコいいと言ってくれた、素敵と言ってくれた、あの言葉が、自分への恐れを口にする者達の声を全て跳ね除けた。自分の事を此処まで思ってくれる人たちが出来た。心からの歓喜だった。
『校長に師匠聞いてよ!俺、俺の個性をカッコいいって言ってくれる人に会えたっ……!』
『おおっそれは素晴らしいじゃないか!!僕も嬉しいよ、君が笑顔でいてくれると』
『そうか、そうかぁ……良かったな本当に良かったな龍牙ぁ……!!』
歓喜は更に大きく激変する。歓喜は力に変わり、不安を打ち消していった。恐怖を切り裂いて、恐怖によるブレーキを打ち壊す。
「もう俺は自分を恐れない、俺はあれを俺の物にする。その切っ掛けをくれたのは葉隠さんなんだ、だから次の俺の試合も見ててくれ」
「―――うん。絶対に見る」
そう言われ笑みが浮かぶ。葉隠からそんな言葉を受けて胸の奥がじぃんと熱くなるのを感じる、そしてその熱さに引かれるように手を伸ばした。伸ばした先は葉隠の手だった、女の子らしい柔らかくて暖かい手を握りながら龍牙は改めて礼を口にするが、葉隠は酷く困惑したような声を出した。
「ど、どうして私の手が分かったの!?透明で見えないのに!?」
「なんとなくそこかなって……勘かな、まあ兎に角俺頑張るから応援してね!」
そう言うと龍牙は一度強く握りしめると、そのまま控室の方へと歩いていていく。その足取りは軽く、スキップを踏んでしまいそうなほどに軽かった。次に戦うの轟がいかに強かろうがそんな事はもうどうでもよくなっていた、自分は最初から全力で立ち向かうだけなのだから。
「りゅ、龍牙君の手……大きくて硬くて熱くて……うううっっいきなり手を握るなんて反則だよぉ……龍牙君のばかぁぁぁっ……」