僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
間もなく始まるは準決勝第一試合、轟 焦凍 VS 黒鏡 龍牙。今トーナメント注目の一戦としてプロアマ問わず注目を集めている。
轟は言わずもがなの№2ヒーローのエンデヴァーの息子としての知名度、その圧倒的な個性出力による実力によって注目され、1年の優勝候補と言われ既にサイドキックとして狙いを定めているヒーローも多数いる程の逸材。氷と炎という二つをあの大出力で扱える、これに注目せずして何に注目しろというのか。だがそれは戦う相手も同じ、注目度で言えば負けはしない。
対するは黒鏡 龍牙。全く注目されなかったが個性はヴィラン顔負けの凶悪な風貌、だがそれが秘める力はすさまじく常闇との激戦は観客の頭にまだこびり付いている。何よりも、あれほどの恐ろしさであるのにもかかわらずクラスからの人望は強く、彼を応援する声は会場の声を圧倒する程だ。そんな二人の激突に皆が注目していた。会場の全ての視線が、と向けられたカメラの映像を見つめる視線が、戦いの場に立つ二人へと注がれている。
「轟、お前姉さんっているか」
「居る。それが如何した」
「いや少し前にエンデヴァーさんが俺のところに来てよ」
それを聞いて轟の表情が硬くなる。ハッキリ言って焦凍とエンデヴァーの関係は悪いの一言に尽きる。憎悪していると言ってもいいかもしれない関係をしている、そんな彼に対してエンデヴァーが訪ねてきたと言えばどんな反応が返ってくることだろうか……。
「……何を言ってた」
「いや世間話をしただけ。単純に俺の応援もしてくれるとも言ってた、後はまあ……ここでする話じゃねぇな。後でする、お姉さんの事を聞いた理由もその時に」
「……分かった。兎に角今俺達がすべきなのは戦う事だ」
互いに構える。腰を深く落とす龍牙と半身を反らすような構えを取る轟、そして一直線に向けられる集中力。既に二人の中に周囲の雑音は消え失せていく、対戦相手しか映らない。唯一聞こえるのは開始を告げる合図程度だろう、それ以外の音に反応出来ない程に集中してしまった。凝縮された時、刹那が永遠にまで延長されているかのような開始前の重苦しい空気。
時間が停止しているかのような静寂、それを破るのは―――開始の合図。
「っ―――!!!」
解凍された時、動き始める時間が最初に刻むのは―――轟の速攻。大気が凍り付くと同時に、龍牙の周辺を一気に凍結させていく。龍牙が周辺への景色を視界に捉えて脳が命令を出すよりも早く、彼の身体に氷が纏わりつき拘束するとともに周囲から伸びている氷の柱が上る。そしてその柱の合間の空気を凍らせるように橋が繋がり、柱は巨大な氷山への変貌した。
半冷半燃。右で凍らせ左で燃やす、それが轟 焦凍の個性。温度も範囲も未知数、あれほどの出力でありながらまだまだ先があるという恐ろしさ。その大出力が一瞬で龍牙を凍結させたうえに氷山に封印するという力技を可能にした。
『ひょっ氷山に黒鏡が飲まれたぁぁああああ!!!??というかあいつも凍り付いてんじゃねぇのかこれ!!?』
マイクの驚きに見た絶叫に皆が同意しつつ、氷山へ意識が向く。観客席にいる人間までも凍てつくような寒さを感じるというのに、その中心地である龍牙が感じる物は尋常ではない筈。最早完全に凍り付いて死んでいるのではないかという考えすら及ぶ程の零度。絶対零度という言葉も連想させる寒さの中、葉隠は一人、全く心配もしていなかった。
「大丈夫、龍牙君なら絶対に大丈夫!!だって言ってたもん!!」
―――もう俺は自分を恐れない、俺はあれを俺の物にする。
あの言葉は嘘なんかじゃない、ならば龍牙は絶対に負けない。そう信じている。ほらっ聞こえてくるもの―――龍の咆哮が。
「お、おいいくらなんでもこれはやばいだろ!!?」
「主審も副審も何で止めない!!?」
「おい救助に行くぞ!!」
凍死を心配する一部のプロヒーローが席から飛び出そうとしていた。経験からこの温度は確実に拙いと思っての行動だろう、だがそれを静止する二つの影があった。
「「黙って見ていろ」」
ギャングオルカとエンデヴァーの二人だった。低い声で唸るような威圧する声に思わず怯む、動くのをやめたのを見ると氷山へと目を移しながら互いに声を掛ける。
「お前の弟子と聞いた、如何なんだ」
「自慢の弟子、いやそれ以上だ」
「そうか。話がある、根津校長も交えてな」
「了解した」
短い言葉のやり取りを終えると、再び氷山へと意識を向ける。二人は同時に思う。
「「来るぞ」」
大きな音を立てながら氷山に亀裂が入っていく。次第に亀裂が氷山全体へと拡散していく、地震で震えているかのように氷山全体が揺れる。揺れるたびに激しく亀裂が蠢いていく、深く深く入った罅からは黒い物が溢れようとしていた。
『ゴアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』
そして氷山の上部の全てに亀裂が入った瞬間、爆音のような龍の咆哮が響く。咆哮と共に氷山の上部が完全に吹き飛びそこから黒い炎が天へと目掛けて昇っていく。氷山の噴火、世にも奇妙な光景がその場に広がっている。炎は氷山を融かしながら、その中央部には氷を突き破りながら姿を見せた影があった。
朱い瞳を爛々に輝かせながら現れる黒い龍。力任せに氷塊を殴り割りながら、完全に氷山を消し去る。お前の氷なんて俺には効かないという意思表示だろうか、氷山から脱した黒龍は見た目に負けない程の迫力と威圧感を周囲に発散させながら自分に向けて敵意を向けながら吼える。
「悪いが轟、俺はもう止めらない。ノンストップで行く、黒龍は止まらないってな」
笑いながらそう龍牙は左手に剣を握りしめながら構えを取る。轟としても龍牙が今の姿を投入してくることは想定していた。だからこそ氷での速攻を仕掛けた、変身する前に完全に動きを殺してしまえばいいと。だがそれは甘かった。龍牙の炎は恐らく自分の炎と同程度の力を誇っているのだろう、でなければ氷山を融かす事なんて出来る訳がない。
「出し惜しみ、なんてしてる暇はねぇらしいな……行くぜ龍牙!!」
轟は左腕に炎を纏わせ自身の体温を調節しながら地面から雪崩のように迫る氷塊を放つ。その氷塊は龍牙を閉じ込めた物と同規模、それを龍牙は右腕の龍頭から炎を放ち融かし、そして言い放つ。
「来やがれ轟。躊躇いと恐怖を捨てた俺を見せてやる!!」