僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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番外編、梅雨ちゃんルート。

今回の番外編において、初期に葉隠さんが怖がり話しかけなかった場合というIFになっております。なのでかなり異なっている所があるのでご了承ください。


蛙が吹く歌は梅雨の中で龍が舞う

入学から少し立った頃、龍牙は普段通りに一人でいた。初日の一件、自らの個性の見た目に関しては致し方ないと思っている。これから変えていけばいい、自らの在り方で変えるのだと思っていたが―――それでも矢張り、目の前であのような光景があると辛さが滲み出ていた。恐ろしげな表情の下で表情は沈み、涙すら零れそうになるほどにその瞬間は辛かった。

 

それでも前に進むという選択肢しか持てない、ヒーローになりたいと彼は雄英で頑張るつもりだった。それでも孤立してしまった、常闇という存在が歩み寄ってくれてはいるがそれだけで龍牙の心に広がって雨は晴れる事は無い。雄英でも一人で居続ける彼は殆ど無表情、機械のように淡々と過ごしていた。そんな時、一人の少女が歩み寄ってきた。

 

「少しいいかしら、龍牙ちゃん」

「ああ、えっと……蛙吹さん……でしたっけ」

「そうよ蛙吹 梅雨。梅雨ちゃんと呼んで」

「あっはい、分かりました……」

 

唐突に話しかけられた事で何処かおっかなびっくりに受け答えする龍牙は少女の事を少しだけ知っていた、といっても教室にいる時に耳に入ってきた話で名前を知っている程度。そんな少女、蛙吹 梅雨は梅雨ちゃんと呼んでと話しかけながら皆が昼食を取る為に食堂に行ってしまい、教室で一人残っていた龍牙へと声を掛けた。

 

「お昼は食べに行かないの?」

「いや、弁当を作って来てるから食堂には行けないよ。後で適当に食べておくつもり」

「あらっそれなら一緒に食べないかしら、今日は私もお弁当なの」

 

女の子らしい可愛らしいケースを片手に持っている梅雨、そんな一緒に食べようと誘ってくる。今まで孤立していた龍牙にとっては驚きの誘いであると同時に戸惑いが訪れた。何故ならばクラスの女子が向けてくる視線は恐怖か戸惑いの何れでしかなかった。

 

「……俺なんかで良いなら」

「そんな言い方はしない方がいいわ、それじゃあちょっと机近づけるわね」

 

そんな日、初めて龍牙は誰かと昼食を取る事になった。

 

「龍牙ちゃんのお弁当って彩り豊かね、色合いのバランスが凄い良いわ。お料理の本に乗ってる見本みたい」

「そうかな、特に意識してないから何とも言えないけど。そっちだって可愛いものがいっぱいじゃないか」

「ケロッそうね。今日はお母さんが作ってくれたの、一緒にお弁当を作ってくれたの」

 

そんな会話を行いながらの昼食は龍牙にとっては楽しかった、常闇は何方かといえば言葉少なめなので此処まで喋った事もないからか何処か愉しさが滲み出ていた。普段ならば食べるというよりも淡々と処理するような食事もその日は時間をかけた物だった。

 

「今度は一緒に学食に行きましょうよ」

「それも、良いかもね……。今日はありがとう、蛙吹さん」

「梅雨ちゃんと呼んで。それと今日だけみたいな言い方はしないで、また明日も誘うから」

 

そう言ってウィンクをしながら一旦教室から立ち去っていく姿を見送った龍牙は自分の物を仕舞いながら、楽しかったという思いの心地よさからか薄っすらと浮かべた笑顔に気付かずに次の授業の準備を行った。

 

そんな風に龍牙の孤立していた日々は彼女によって少しずつ楽し気のある物へと変化していた。共に取る食事の楽しさやその時にする会話の楽しさなどもあり少しずつ笑うようになっていった。未だに彼女の事を梅雨ちゃんと呼べずに蛙吹さんと呼んでしまうのが、彼女からすれば不満だったがそれぐらいしかなかった。

 

「龍牙ちゃん、何か私に言いたい事があるんじゃないの?」

「えっ―――」

 

それも唐突でいきなりの事だった。その日は天気も良い事だから外で一緒に弁当を食べようと決めていたのか、二人ともに外にいた。そんな時に彼女の言葉に思わず龍牙は詰まってしまった、突然何を言うのかと問おうとするのだが彼女の何処か鋭くも自分の心を見透かすような瞳が言葉を詰まらせる。

 

「私、思った事を何でも言っちゃうの。龍牙ちゃん、何かあったのかしら」

「……」

 

その言葉通り、何かあった。だがそれを話していいのか、話してしまったら今のこの楽しい時間が壊れてしまうのではというそんな小さな恐怖が付き纏っていたために言葉に出せなかった。しかし、彼女にそう聞かれたならば言わなければならないという義務感があった。それは彼女に対する礼儀であり今日まで楽しかった時間を受け取っていた自分が言うべきだと思った。

 

「―――この前に、聞いたんだ。蛙吹さんがその……俺といる事に対して心配されてるって話をしてるのを……」

「あの時、聞いちゃったのね」

 

不意の事だった。龍牙は教室に忘れていた物を取り返った時の事だった、その時に聞いてしまった。彼女とクラスメイトが話をしていた事に。話をするのは当然だろうからそのまま、自分の用を済ませようともしたがその時の話は自分の事だった。思わず、身体が動かなかった。

 

そこにあったのは自分と共に居るのかに対する問、彼女を案じる声だった。彼女以外からすれば自分は恐ろし気な姿を持つ良く分からない存在、そんな相手と共に居る事に対しての不安があったのだろう。それを尋ねていた。

 

「だから龍牙ちゃんは私といない方がいいと思ったの、でも私が自分から一緒に居るって事も分かってくれたから悩んでたのね」

「……」

「そうなのね」

 

自分の思いを見透かすように語る彼女に龍牙は沈黙を作る事しか出来なかった。彼女の言葉は全てがあっている、その通りだから。そんな彼に蛙吹は何も言わずに手を上げて、彼の頬にそっと手を当てた。少し大きな手が頬に触れた時に顔を下に向けていた龍牙は不意に上げてしまったがそこにあったのは暖かみのある表情を作っていた蛙吹の姿だった。

 

「私は龍牙ちゃんと本当に仲良くなりたくて一緒に居るのよ、あの時だって龍牙ちゃんは優しくて良い人だってことを伝えてたの。皆は本当はそれを分かってるけど初日を事を気にしててなかなか前に踏み出せなかっただけなの」

「―――」

「有難う龍牙ちゃん、私の事を思ってくれて。この時間が楽しかったから話したくないって言うのも分かってた、龍牙ちゃんならそう思ってくれるって」

 

そこまで言われて本当に何も言えなくなっていた。彼女は長くはないと言える時間の中で自分の事を此処まで理解していた。そこまで自分に歩み寄ってくれた、それが信じられないという思いと共に喜びが溢れてきてしまった。不安の中で自分が離れようとしたことさえも自分への歩み寄りと受け取って、感謝を述べてくれた。それを感じると涙が溢れてきて止まらなくなった、それを見た彼女はそっとハンカチでそれを優しく拭う。泣かないで、笑ってと笑いかけてくる、それに応えるように龍牙は不器用な笑みを作った。

 

「―――これからも、一緒に居てもいいかな……梅雨ちゃん」

「勿論よ、こちらからお願いするわ龍牙ちゃん。ケロケロ♪」

 

この時、初めて呼んだずっと呼んで欲しいと言われていた呼び方をした。梅雨ちゃんと、まだぎこちなく恥ずかしさがある呼び方だったが彼女は嬉しそうにしながら笑顔で答えた。

 

この日から龍牙は自分から他のクラスメイトに歩み寄ろうという努力をするようになる。不安もあるようだがそこを梅雨ちゃんが上手くフォローし支える事で龍牙の気持ちが相手に上手く伝わっていったのか、徐々にA組の皆と打ち解けあうようになっていった。そんな風に導いてくれた梅雨ちゃんに龍牙は心からの感謝を述べながら、彼女と共に居るようになっていく。

 

「梅雨ちゃんちょっと近くないかい?」

「そうかしら、そんな事は無いわよ。この位が普通よ」

「そうかな」

 

徐々に距離が狭まっていく二人、歩み寄り手を取る彼女とそんな彼女の手を取って歩む彼。気付けばいつも一緒に居るようになっており、龍牙の暗さは失われていた。明るい梅雨ちゃんのように明るくなっていく。

 

「好きよ龍牙ちゃん、大好き」

「―――えっあのその……お、俺も大、好きです……」

「龍牙ちゃんったら顔が真っ赤よ、可愛いわね♪」

「そ、そんな事言わないでよ……」

 

彼女の言葉に顔を真っ赤にしながら自分の気持ちを吐露するが、龍牙の言葉を聞いて改めて笑顔を作りながらも龍牙をからかう。少し悪女っぽさを見せながらも顔を隠す彼に抱き付いた。やわらかな感触に戸惑う龍牙、そんな彼を見て彼女は―――

 

「龍牙ちゃん」

「もう、勘弁してよ梅雨―――」

 

その先の言葉が出なかった、それは何故だろうか。それは―――二人の影が一つになっていたからだろう。暫ししてから龍牙は更に顔を真っ赤にしながらも梅雨ちゃんの背中に手を回して抱きしめるようにして顔を隠していた。そんな彼に抱かれている彼女も顔を赤くしつつも幸せそうな表情を浮かべる。

 

「今度は龍牙ちゃんからお願いね♪」

「うううっ~……」




―――という訳で番外編、梅雨ちゃんと恋人になるという話でした。

何を隠そう、ヒロアカの中で一番好きな女性キャラが梅雨ちゃんだ。故か自然と筆が乗って長くしようと思わなくても長くなる。やっぱり好きだなぁ彼女……。


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