僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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決着をつける焦凍と黒龍

「……強いな、彼は」

「当然だ。俺の弟子だ」

 

地面から次々と伸びていく巨大な氷柱、貫かんと迫るそれを自らの刃と龍の頭で砕き、融かし尽くす。連続しての大氷結、普通ならば身体が冷えきってしまっても可笑しくはないが轟は炎で体温を調節する事で最大の氷を何度も放ち続けている。それをいとも簡単に融かす黒い炎を放ち続ける龍牙、炎を吐き続ける彼にも疲労の色は一切見えない。

 

「奴が最も優れているのは総合持久力、スタミナだ。俺はそれを重点的に伸ばした」

「成程……戦う相手にとって一番キツい事だな」

 

如何なる攻撃を仕掛けようが、戦いを仕掛けようが立ち続ける相手程厄介なものはない。立ち続け、戦い続ける持久力と精神、それらを重点的に鍛え上げたギャングオルカ。故に龍牙を倒すのに一番必要とされるのはそのタフネスさを上回る程の大火力かタフネスを無力化出来る戦い方でしかない。ギャングオルカも毎回毎回それらを駆使して龍牙をねじ伏せている。

 

「奴は強いぞ、お前の息子よりもな」

「なんだ息子自慢かオルカ、堅物のお前にしては珍しいな」

「誇れる息子を誇って何が悪い」

 

そんな風に胸を張って龍牙を見つめているギャングオルカにエンデヴァーは少し目を見張った。仕事での付き合いしかなくそこまで親交が深いという訳ではない相手だが、仕事に実直で堅物だと思い込んでいたギャングオルカが親馬鹿じみた事を言うとは思ってもみなかった。どうやら龍牙とはかなり深い絆があるようだ。

 

「そうか、ならばその息子関連の事で話がある」

「あの馬鹿夫婦の事だな」

「そうだ、あの腐れ馬鹿夫婦の事だ」

 

ギャングオルカも龍牙からのメールで事情は把握している。龍牙に一切の断りもなく話を進めた事を知っている、実の息子に対する労いの言葉が一つもない上に勝手に縁談を進めている。許せる行為ではない、あの二人は一体何を考えているのか。確かにあの夫婦にはエリート思考があったが、それが悪化しているのが原因なのだろうか……。

 

「根津校長も親らしいな、是非とも共に話をしたい」

「いいだろう。この後時間取れるか」

「問題ない」

「では決まりだな」

 

そこで話を打ち切ると二人は試合へと意識を向け直した、今は息子たちの戦いに集中するとしよう。あの夫婦への対応はその後からでいい。

 

 

「ちぃっ!!」

「だぁっ!!」

 

津波のような勢いのまま迫りくる氷の波を炎で融かしていく龍牙。それが幾度もなく繰り返されている、轟も何時までもこんな応酬をしていたとしても無駄なのは理解出来るがハッキリ言って近接戦で龍牙勝てる根拠は全くない。格闘にはそれなりの自信はあるがハッキリ言って龍牙を圧倒出来るものではない、故に個性で押すしかないと思ったのだが……龍牙の個性の力強さは予想以上。

 

黒い龍、龍と言えば力強く圧倒的な存在だと皆が思うだろう。それを轟は誰よりも強く感じていた、目の前にいる龍の強さは尋常な物ではない。自分に匹敵いや、超える程の炎をもう何度も使い続けているのにも関わらず衰える気配が全くない。轟も氷による体温低下というデメリットを炎で打ち消しているが、それでも疲労は溜まっていく。やがて氷の生成速度も落ちていくだろう、だが龍牙はそんな様子を全く見せない恐ろしさがあった。

 

「だぁっ!!」

「ま、まだまだぁ!!」

 

再度、氷が粉砕される。再び氷を生み出して襲わせるが、一瞬だけ隙が出来た。変わらない状況、衰える事の無い炎の勢い、無尽蔵と思えるほどの力の奥底に寒さとは無関係な震えが起きる。そこを突くかのように龍牙動く。保持していたドラグセイバーに自らの黒炎をを纏わせていった。轟々と唸りを上げて燃え盛る炎を食らうかのように自らの力に変える剣、徐々に炎が固形化するかのように刀身が伸びていく。大太刀を思わせるような長さとなったドラグセイバー、それを大きく振り回しながら龍牙は吼える。これが俺の力だ、受けてみろと言わんばかりの咆哮を上げながら振り抜かれる。

 

「ぐぅっあああっっ……!!」

 

振るわれた黒き爆炎の剣の一閃、本能的な危険を感じて最大級の氷を発生させ盾の役割を持たせながら攻撃をする。だが刃はそれをあっさりと両断した、果物をナイフで斬るかのようにあっさりと両断して見せる。そして切り口から黒炎が舞い上がり爆発するように周囲を燃やし尽くしていく。

 

「バーニングセイバー……決める……!!うぉぉぉおおおおお!!!」

 

黒炎に染まった剣、先程の刀身の長さこそない。それでも通常時の2倍ほどの長さを維持したまま駆けだしてくる龍牙。一歩一歩迫ってくる黒龍はすさまじいまでの威圧感を纏っている、危機感が増す中で轟は氷を放ってなんとか龍牙の足を止めようとする。氷の弾丸、氷の壁、様々な手段を用いて龍牙へと攻撃を仕掛けていく。その中、遂に体温調節だけにとどめていた炎にも手を伸ばした。

 

「ぐぉっ……!」

「はぁぁぁぁっっ!!!」

 

氷と炎、それらを同時に繰り出して龍牙へと浴びせ掛けていく。氷の濁流と炎の激流、それらが同時に龍牙へと襲い掛かっていく。それに対する龍牙は全力で黒炎を帯びるドラグセイバー、曰くバーニングセイバーを振るってそれらを打ち払っていながら前へ前へ進んでいく。それでも回避しきれないのかその身に炎と氷を受けるが全く速度が落ちない。無類のタフネスさに物を言わせた猛進、恐ろしいまでの力となって嵐を掛き分けていく。

 

「ゴアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

迷いと恐怖を捨てた龍牙は躊躇なく、龍としての咆哮を上げる。もう黒龍の力を忌避する姿はない、完全にそれを受け止めている。自身と龍を一体化させ、一つの命として進んでいく龍牙。身に受ける氷結と炎熱を全て無視して直進する、そして間もなく刃が届く所まで来た。あと一歩!!と思った時だった、足元から氷が伸び自らの顎を捉えた。その直後背後から氷の壁が迫り自らを圧し潰すかのようにして固定する。

 

「はぁはぁはぁはぁ……漸く止まったな龍牙……!!」

「やってくれるなっ……」

 

轟も負けていない。一切引かない強さをもって龍牙に立ち向かっている、止める事が出来た。ならば後はこのまま場外に押し出すだけだととどめの一撃を放とうとした時だった、自らの目の前に歪んだ鏡のような物が出現した。歪んだ龍の頭部のような鏡、一体何かと刹那、轟の思考が死んだ。そして思い出した、これは以前戦闘訓練の時に龍牙が使っていた技の一つだと。

 

「龍は執念深い、やりすぎると逆鱗に触れるぞ」

「てめぇまさかっ!!!」

「―――いやお前はもう触れてるんだよ、逆鱗にな」

 

鏡は形を完全に作った。そこには自分の姿が映っている、いや自分の攻撃が映し出されている。自身が龍牙に向けて行った濁流のような氷河、それが映っている。そしてそれは鏡を突き破るかのように溢れ出して自身へと襲いかかってきた。

 

「ぐああああっっ!!?このぉおお!!!」

 

鏡の内部から迫ってくる氷、感覚的にそれが自分が放った氷と全く同じであることを感じ取る。受けた攻撃を相手に返す能力まで持っている事に驚きながらも轟は炎を開放して迫る氷を融かす。そして龍牙へと反撃をしようとした瞬間、目の前に迫っている龍牙を見た。

 

「なっ―――!?」

「ドラゴン・ストライク!!!」

 

黒炎を纏った龍頭が自らの身体に叩きこまれた。炎は当たった瞬間に、龍の頭部を形どると爆発的に膨れ上がって轟を吹き飛ばした。それを受けた轟は吹き飛ばされながらも氷を発生させて何とか留まろうとするが、余りにも勢いが強すぎるのか作った氷を突き破っていく。それでも何度も何度も氷壁を突き破りながらもなんとか自分を食い止める事に成功する、だが―――既に轟は場外へと出てしまっていた。

 

「くそっ……!!」

「俺の勝ちだな」

 

 

「どうだエンデヴァー、俺の息子が勝ったぞ」

「何勝ち誇ってる、さっさと根津校長の所に行くぞ」

「なんだ悔しいのか?」

「焼かれたいのかこのチンピラシャチ……!!」




「常闇、鏡の技ってどんな名前にしたらいいと思う?」
「そうだな……復讐する龍の鏡、リベンジ・オブ・ドラゴンズ・ミラーというのは如何だ」
「何それカッコいい、お前天才か」

というやり取りが龍牙と常闇の間で、試合後あったとかなかったとか。

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