僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「ゼリャアアアア!!!」
「ゴアアアアッッッ!!!」
爆発と爆炎、それらが絶えることなく上がり続けていく。ステージの範囲内を自由自在に飛行しながら、蹴りやパンチなどに交えて爆破を織り交ぜながら攻め続けていく爆豪。それとは対照的に爆豪の攻撃を完璧に受け切りながら爆煙を切り裂き、爛々と瞳を輝かせながら前へと進みカウンターを狙うようにしていく龍牙。斬と音が立つ、爆風を切り裂きながら振るわれたドラグセイバーが爆豪を捉えようとする。
「クソがぁっ!!」
咄嗟に刀身を蹴って後ろへと飛び退く、油断などしていなかったしカウンターも十分に警戒していたのに相手の警戒を突破して挟み込まれてくるカウンターの上手さに表情が引き攣る。苛立ちではない、口角が嬉しそうに吊り上がっている。
―――これだ、これこそ俺が求めていた戦いだ!!
そう言わんばかりに爆豪の表情は歓喜に染まっている。今まで爆豪は余りの天才っぷりに周囲から持ち上げられてきた、自分に比類する相手など存在もしなかった。だが今目の前に存在する黒い龍は自分に比類する力を秘めながら全力で自分と戦っている。それが愉しくてしょうがない、愉悦の極みだ。
「だぁぁぁああああ!!!」
「がぁっ!?」
力強く、空気を焦がすような熱を纏った剣によって上着の一部が切断され燃やされていく。それを脱ぎ捨てながら爆豪は思う。そうでなければ面白くない、圧勝するのもいい、圧倒するのもまた一つの楽しみ。だが互角の相手と此処までギリギリの戦いをする事の楽しさに比べたらカスのような物、爆豪自身も何処かで望んでいたのだろう。互角の相手という物を。
「まだまだ行くぞクソがぁぁあああ!!!」
「来やがれぇっ!!」
爆豪が三度突進する、それに合わせたようなカウンターパンチが襲い掛かるが咄嗟に身体を回転させつつも爆破で空中で制動を掛けていく。龍牙のパンチの上を滑るように転がって回避すると彼の首へと膝蹴りを連続で決めていく。重々しい打撃音、流石の龍牙もよろめくが、そのよろめいた勢いのまま身体を沈ませると爆豪の身体に無理矢理身体を回しながらの蹴りを炸裂させる。
「テメェッ……!!」
「俺のタフネスを舐めんな、ダイナマイト野郎!!」
「んだとぉヴィラン野郎がぁ!!!」
立ち上がった男たちの拳が互いの身体に炸裂する。
迫力満点の大激戦、絶えず爆発と炎が上がっているからか見栄えはある上に肝心の両者の激しい格闘戦、爆発と黒炎のぶつかり合いも凄まじい。両者のアクション一つ一つに観客たちは声を上がる、互いの身体が地面に沈めば大規模の歓声が上がる。会場は凄まじい熱気に包まれている。
「……ちっ」
だがそんな空気を嫌っている者もいた、龍牙の師匠で親であるギャングオルカだった。個性の関係で乾燥に強くないという事情があるから、という訳ではない。彼は見抜いている、何故ここまでの大熱狂になっているのかを。
「こいつら、龍牙がどんな思いをしているのかも知らずによくもいけしゃあしゃあと……!!!!」
「落ち着けチンピラ、水掛けるか」
「舐めてんのかこの蚊取り線香丸……!!」
と互いを煽りあっているギャングオルカとエンデヴァー。仲が良いのか悪いのか良く分からないが、エンデヴァーもこの会場の現状には良い思いは抱いていない。何故ならば、プロヒーローらは違うだろうが、観客たちの多くが抱いている感情は二人への罵声に近い物なのだから。
全員がそうではないだろうが、それでも多くはこう思っている筈だ。爆豪と龍牙、この二人が互いに戦っている姿を見て嬉しいと。ハッキリ言って今戦っている二人は受けは良くはない、爆豪は試合内容、龍牙は見た目などで受けは良くない。そんな二人が決勝まで勝ち上がっていて優勝を争っている光景は面白くないと思う者も多い事だろう。
『受け入れられない者同士が潰しあう、そんな光景を見て愉しんでいる』
そのようにエンデヴァーとギャングオルカは感じ取っていた。ギャングオルカも今でこそ広く認められているヒーローであるがデビュー当初はそれは酷評されていた、それに負けずに活動を続けて漸く受け入れられた。今の光景はまるで過去の自分を見つめているかのような物に等しかった。
「だが彼はこれを跳ね除けると信じているんだろう、これら全てを自らへの声に変えてみせると」
「……ああ。あいつの夢は誰からも愛されるヒーローになる事だからな」
ギャングオルカから聞いた龍牙の夢に口角が上がった。見た目からは読み取れない程に子供っぽく純粋な夢だ、しかし龍牙にとっては何物にも変えられない程に壮大な夢なのだろう。
「愛と平和を謳うヒーローとも言ってたな、俺は絶対になれると思っている」
「……あの見た目でか」
「あいつにそれを言うな、絶対傷つく」
「分かった」
エンデヴァーは内心でギャングオルカの事を親馬鹿認定したのであった。
「ダァァァアアアッッッ!!!」
「ドリャアアアア!!!!」
互いの身体に、爆破と黒炎、それぞれを纏った一撃が炸裂して吹き飛びながらも立ち上がり休む暇も絶えない連撃が加えられていく。だがそんな中、それを裂くような一撃が加えられた。
「ぐっ……!!」
「食らいやがれぇぇぇぇッッ!!」
一瞬怯んだ隙を見逃さぬ爆豪の怒涛の連打。爆破の連打に少しずつだが龍牙が押されだし始めている、爆豪の身体は最高潮にエンジンがかかっている。爆破を繰り出せば繰り出す程に威力が上がっている、それもあるだろうが流石に龍牙にも限界が近づいてきていた。
常闇と焦凍、この二人との激戦が想像以上に龍牙の体力を蝕み疲労を蓄積させている。そこに爆破にダメージが畳みかけてきている。頭部で炸裂する爆破、それを受けた龍牙は遂に膝を地につけてしまった。
「ぐっ……(やばい、流石にまずい……!!)」
「ドラァァァアアア!!!」
「がぁっ!!」
「ここだぁぁぁぁっっ!!」
爆破で押し出すかのように吹き飛ばす爆豪、身体が浮いた龍牙へ飛び膝蹴りを命中させた。流石の龍牙も空中では対処しきれない、吹き飛ばされあと少しでステージから出てしまう。そんな所で踏ん張って耐える。
「流石の龍牙も体力の限界か……常闇君とお前の息子で大幅に体力を失っている状態では流石にきついか」
「対して爆豪はそれほど相手に苦戦していない、体力は十分に残っているだろうからな」
それでも龍牙は立ち続ける、負けは認めない。瞳を輝かせながら爆豪に向かい続ける。爆豪もそれを見て笑う、矢張りこいつは良い相手だと思いながら。
「ヴィラン野郎……テメェはヴィランみてぇでムカつくが、本物だな」
「褒めてんのか貶してるのかどっちだよ……」
「だからこそ、テメェとは別の場所で完全な決着をつけてやる。互いに完全完璧な状態でな―――だから、それまで俺以外に負けんじゃねぇぞ」
「―――好き勝手言いやがって……良いだろう、今は預けておくぞ。この王座をな」
それを言い切った龍牙はゆっくりと後ろへと倒れこんでいった。ダメージが蓄積しすぎた、流石に彼も限界だと悟った。リカバリーガールの治癒の影響で溜まった疲労も身体を蝕んで動かなくなってきた。故に彼は倒れる事を選び、爆豪もそれを了承してそれを受けた。龍牙の身体がステージから出た、それによって決定するのは―――
勝利という栄光を得るのは爆豪という事。