僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「えっと、こういった場合は初めましてで良いんでしょうか……?」
「多分それでいいと思うわ。それじゃあまずは自己紹介からね」
「あっはい。黒鏡 龍牙です、本日はお時間を作っていただいて有難う御座います。こうしてお会い出来る事を嬉しく思います」
とある料亭の一室、そこを貸し切ってとある二人が顔を合わせていた。一方は龍牙、その隣には根津が腰かけている。その反対側にはエンデヴァーともう一人、焦凍によく似ている白髪と少しだけ混ざっている赤い髪が何処かマッチしてて優しそうな雰囲気を纏っている眼鏡をかけている女性が此方に笑いかけている。丁寧に挨拶をすると女性は少しだけはにかみながら肩から力を抜いていいよと言って来る、どうやら他人から見ても力が入ってしまっているのが分かるらしい。
「改めまして轟 冬美です、今日はお会い出来て光栄です。弟からお話は聞いています、とても仲良くしてくださってるみたいで」
「仲良くし始めたのは最近でして、それにどっちかと言ったら私の方が焦凍には世話になる事が多いような……」
体育祭から数日経っている、そんな日の中で設けられた席。今行われている龍牙とエンデヴァーの娘である冬美とのお見合いである。と言ってもあくまで形式上だけの物でありそれは冬美も理解したうえでここに来ている。
「それにしても今回は本当にご迷惑をかけてしまって申し訳ありません冬美さん」
「いえお話は父からも聞いてます。私なんかで良ければ力にならせてください、弟のお友達ですし」
「そう言って貰えると僕としても嬉しいのさ!」
と根津はニコニコしながらも内心では冬美の協力的な態度に胸を撫で下ろしている。同じく教職にある冬美のスケジュールもそうだが、形式だけの見合いをしてくれという頼みをしている手前、罪悪感に似たものが付き纏っている。彼女としては弟に漸く出来た友達の為と思って参加しているので余り気には病んでいない。
「俺としても冬美には済まないと思っている。態々休日を潰してしまってすまん」
「いいのよこの位。それに話を聞けば龍牙君も被害者なんだし、放っておけないわ」
と、少しだけ胸を張る冬美に龍牙は良い人だなぁと素直に好感を寄せる。教師がこんな人ばかりならば虐めにも真剣に向き合ってくれるだろうし、問題行動を起こす生徒も激減するだろうなぁと思ったりする。
「にしても校長、形式上と言っても見合いをやる意味ってあるんですか?冬美さんに態々御足労頂いちゃったのもありますし、開いたって言えばいいだけなんじゃないですか?」
「いやいやいや確実にそこで行われたという事実が必要なんだよ、それに言い方が悪いけどこの見合いは完全に罠なんだよね」
「罠、ですか」
「そうだ、あの馬鹿夫婦には開始時間が2時間ほど後と伝えてある」
鏡夫婦には見合いの開始時間はあと2時間ほど後と伝えており、自分達はそのタイミングで料亭を出て夫婦と対面するだけでいい。それだけでいい、龍牙の親とエンデヴァーと冬美で確りと見合いを行ったのだから。
「焦るだろうねぇ……焦るだろうねぇ。龍牙、君は彼らに僕たちの事は言ってないよね?」
「校長と師匠が親って事ですよね、全く言ってないですよ。未だにあれは自分達が親だと思ってますよ」
「上々。こちらは龍牙がエンデヴァーから縁談の話を持ち掛けられたから、親の僕に相談した結果として今がある。それだけで良いんだよ、僕は全て知ってるからねぇ……」
悪どく笑っている根津に冬美も思わず教職にあるべき顔じゃないですよと言ってしまう。そう言われて笑って誤魔化そうとしているが明らかに無理な話だ。彼も彼で息子に対する侮辱的な行為でキレている。でなければこのような罠なんて仕掛けはしない。
「それじゃあ後はここで少し時間を潰すだけだね、折角だから此処でご飯でも食べていこうか」
「元よりそのつもりでここを予約したんだ。冬美と龍牙君も遠慮しないで好きな物を頼んでくれ、ここは俺の奢りだ」
「えっいいのお父さん、私お財布持ってきてるよ?」
「……偶には父親らしい事をさせてくれ」
そう言ってお品書きに目を向ける父に冬美は珍しそうな目を向けながらも、父親の中で何かが変わっているのかもしれないという小さな予感を持った。父に話をされた時は驚いた、自分に申し訳なさそうにしながらできれば力を貸して欲しいと言ってきた父の姿には本当に。それだけ龍牙の実の両親というのは酷いのだろうか、あまり深くは踏み込まなかったが一先ず肝心の龍牙は今の親に愛されている事が分かって少しホッとしている。
「あ、あの校長……お品書きが読めないんですけど……」
「いや本当に達筆だね、これは慣れてないと確かに読めないね。どれどれ僕が龍牙が好きそうな奴を頼んであげようか」
「お願いします。マジで読めません……」
目の前では自分もお品書きを見ようとするのだが、肝心の内容が全く読めずに根津にそれを見せながらどうしたらいいのか相談している龍牙の姿がある。微笑ましい光景に自分の頬も緩む。
「そうだね、この御膳なんていいじゃないかな。魚を使った奴みたいだよ」
「いやでもこれ値段が凄いですよ……なんかクラクラしてきました」
「なんだそれじゃあ足りんだろう、もっと頼め。そうだな、この牛御膳も追加しておこう」
「あの、値段が凄い事に……」
値段の心配をしているのか、自分が食べる事になるだろう物に顔を青くしている姿にクスリとしてしまう。話は聞いていたが本当に良い子のようだ。暫しすると料理が運ばれ、超一流の味に舌鼓をする。冬美も絶賛する美味しさだが龍牙は余りのおいしさに完全に言葉を失い、貧乏舌が食べるような物じゃないと肩を落とす。
「……言葉にならない美味しさで御座いました……」
「久しぶりに来るが味が変わって無いようで安心だ。中々の物だったでしょう校長」
「う~ん実に素晴らしい物だったのさ!!偶にお邪魔しようかな此処」
食後の余韻を楽しみながらも話をしながら時間を潰していく、冬美も雄英での焦凍について尋ねる。龍牙もそれに関しては快く話す。そんな事をしているとあっという間に時間は流れていく、気付けば間もなく時間になっているころだ。
「さてそろそろ行こうか」
「もうそんな時間か、では行くか。龍牙君、気を楽にな」
「大丈夫です。美味しいご飯のお陰か今凄い幸せな気分です」
「結構かわいいところあるのね龍牙君って」
そんな会話をしながらも料亭の女将さんへの挨拶や料金の支払いをエンデヴァーは済ませる。その際に聞こえてきた金額に龍牙は顔を青くさせる、そんな龍牙にエンデヴァーは気にするなとサムズアップするのであった。そして支払いを済ませて外に出た時、表情が凍り付いてくのを目にする。
「おやおやここでお食事かな―――ビーストマンにミラー・レイディ」
「「ね、根津校長……!?」」
わざとらしく、笑いながら根津がそう告げると鏡夫妻は驚いたように、身体を硬直させながら言葉を口にする。如何して校長が此処にいるのかという思いもあるが、周囲にいるエンデヴァーや龍牙にも目が行く。
「お、お久しぶりです校長。以前の体育祭ではご挨拶もせずに申し訳ございません……」
「いいさいいさ、君たちだって忙しいんだろ?来てくれただけで有難いってもんさ、本当にね」
含みのある言い方に寒気を感じる。
「そ、それで如何して校長は……?」
「いや大した事じゃないさ、エンデヴァーからお見合いの相談を受けてね。今それをやってその帰りなんだよ」
「「お見、合い……!?」」
それを聞いて二人の顔が一気に青ざめていく、自分達がしようとしたことが完璧にバレている事を理解する。そして同時に分かった、龍牙が言っていた今の保護者が一体誰なのか……。
「そう―――君たちさ、僕の息子に何してくれるのかな?」