僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~ 作:魔女っ子アルト姫
「にしても……良いんですかね、俺達は外にいて」
「色々と難しい話があるからきっと龍牙君も退屈するって配慮ね、まあここは親同士の話し合いの場って事で一つ」
「あっはい」
近場に繰り出して公園のベンチに腰掛けながらソフトクリームを食べている龍牙はそんな事を口にする、それをいちご味を食べながら気にせずに楽しもうという冬美の言う通りにアイスの味を楽しむ事にした。因みに抹茶とブドウのミックス、美味である。
「龍牙君にとっては根津さんってどんな人?」
「最高のヒーローです」
即答で返す龍牙、笑顔で返されて冬美は余程深い絆で結ばれている事を理解する。
「俺にとってただの親ってだけじゃなくて笑顔をくれた人です。多分、根津校長に会ってなかったら俺はヴィランに堕ちてたのは確実でしょうね」
「そこまで断言出来ちゃうんだね……」
「荒れてましたから。いや荒れてたって言うか……完全な無気力状態って言うべきなのかな……」
自分も小学校で教職についているので様々な生徒と接する、元気な子供もいればひたすらに静かな子、ちょっとしたことで落ち込んでしまう様々な子がいる。故に分かる、龍牙は昔相当に酷い状態だった。そこから救い上げたのが根津というヒーローなのだろう、その出会いが無ければ堕ちていたと断言出来るほどにその出会いは救いだったのだろう。
「まあ校長だけじゃないんですよ俺を救ってくれた最高のヒーローは。もう一人いるんですよ」
「へぇっどんな人?」
「ギャングオルカって知ってます?」
「ああっあのヴィランっぽいヒーローランキングで何時も上位をキープしてる……」
冬美のそんな言葉を聞いて師匠の世間的な認識はやっぱりそこに行ってしまうのかと思いつつ、自分も何れこんな認識をされるのだろうかと軽く思うのであった。
「その人が俺の大切なヒーローでその……師匠でもあり親なんです」
「えっそうなの!?あっえっとそのごめんなさい……」
「いえ、俺も師匠の見た目はそういう系だって事は分かってますから」
笑っているが、その笑いが乾いている事に気付いた冬美は申し訳ない事をしたと思いながら必死に話題を変えた。なんとか雄英での事に切り替える事が出来た時には思わずホッとしていた、そして流れは……
「そういう時はやっぱり洋服とかジュエリーショップだと思う。女の子はそういうの気を使うし、その子が透明だっていうなら猶更気になると思うの」
「成程……んじゃこういうのは如何でしょう?」
葉隠と遊びに行くときにはどんな場所に行ったらいいのかという相談へと変わっていた。そこにはお見合いをしていた二人ではなく、教師と生徒のような立場の二人が座りながら会話を続けていた。
「一つ聞いてもいいかな、君たちの行動がどれだけ愚かな事なのか理解しているのかな……ねぇっビーストマン、ミラー・レイディ」
敢えてヒーローネームにて目の前の二人へと呼びかける根津の瞳には冷たい光が宿っている、鈍い光を放つ瞳に見つめられる二人は身体の神経が凍り付いてしまっているかのように動かない。同様に根津の隣のエンデヴァーも同じような視線を送り続けている。何時まで経っても何も言おうとしない二人に痺れを切らしたのか、次のカードを切る。
「黒鏡 龍牙。旧姓、鏡 龍牙。確かに血縁上は君たちと親子だ、君達夫婦は10年以上前にそれを放棄している。態々専門の弁護士やらコネやらを使って徹底的に自分達との関係を絶ってまでね」
「そ、それは……」
「ですがあの子は私たちの息子である事は事実です……!!」
「事実なだけだよ。そこにあるのは血縁上の親子という情報でしかない、法的には彼は君たちの息子じゃない」
淡々と突きつけていく事実は嘗てこの夫婦が行ってきた事象、それを聞いてエンデヴァーは少し肩身を狭くしながらもそれを受け止める。自分も親としては失格だろう、今からでも変われるだろうかと思い始めた。
「確かに龍牙の個性はヴィランのような見た目、だがただそれだけだろう。君達も望んでいた筈だろう、彼が個性を使う事を」
「望んではいましたが……あんな恐ろしい個性なんて……思いもしなかったんです」
「ああっあれを見た時、俺達は龍牙が龍牙ではない物に変わってしまったと思った。そして怖かったんです……あいつが」
震えながらの独白だがそれは全く根津とエンデヴァーの心に届かない。此処にギャングオルカが居たらどうなっていただろうか、最低でも全力で殴っていた事だろう。
「怖かったのは龍牙じゃなくて世間からの反応だろう、マスメディアは面白可笑しく騒ぐだろうね。あの鏡夫婦の息子はヴィラン!?ってね」
「自分達の立場が崩れる事を恐れた、という訳か……俺が言えた義理ではないが、よくもまあそれで娘がまともに育ったもんだ」
正しく龍牙の推測通りだった。この夫婦はエリート思考が今も残っている、二人は自分が今ある社会的な地位や人気に誇りを持っているだけではなく執着している。それが弛まぬ鍛錬や努力に繋がっているのは事実、だがそれが悪い方向に結び付いた。何れは家を、ヒーローとしての地位を譲ろうとしていた息子の個性がヴィラン顔負けの姿、それによって自分達の立場が悪くなることを危惧し、龍牙を遠ざけようとした。
だが10年ぶりに再会した龍牙はヒーローを目指していた、しかも恐ろしげな見た目であることを吹き飛ばすかのような力強さを纏って……。それを見てやり直したいと思ったのだろうがそれは親としての感情ではない……龍牙を物として見ている人間のそれと同じだ。
「僕は彼の見た目なんて気にしない、世間の目が何だって言うんだい?親ならそれと戦って子供を守るのが役目だろう、君達はそれを放棄したんだ。今更なんだ、君達は龍牙を馬鹿にしてるのかい」
「「―――……っ」」
「しかも今回龍牙に一言も無しに縁談を進めるなんて言語道断。親どころか一人の人間として失格だよ」
そこまで言い切ると根津はもう一度、冷たい視線を浴びせ掛ける。
「二度と愛する息子に近づくな、今度何かしたら―――僕の全てを捧げてでも君たちを潰す。覚悟しておくんだね」
そう言って去っていく根津、それに続くようにエンデヴァーも二人へと言葉を投げかける。
「俺としては感謝しておく、お前たちのお陰で俺は俺を見直す事が出来た。お前たちのような親にはならないようにこれから変わる。ではな」
そう言って去っていく二人を目で追う事も出来ないまま、二人は血が出る程に拳を握りしめるが、何も出来ないまま、影を落とし続けていた。
一旦決着……な訳はない。
これが、何か嵐を呼ぶ……?