僕のヒーローアカデミア~ビヨンド・ザ・リュウガ~   作:魔女っ子アルト姫

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職場体験に臨む黒龍

職場体験初日、龍牙達の姿は雄英から最寄りの駅にあった。此処から各自の職場体験先へと出発していく。担任の相澤から簡単な挨拶と体験先に迷惑を掛けすぎない事や本来公共の場などで着用が許されないコスチュームなどは絶対に落とすなと厳命される。自分だけのコスチュームを落とす間抜けなどいないとは思うが、盗まれる可能性もあるので確りと持っておくのに越した事は無い。なので龍牙はコスチュームケースに鎖のようなアクセサリーをつけ、それと制服と繋いで対策しておく。

 

「んじゃ踏陰、遠いから気を付けろよ」

「ああ分かっている。精々プロにしがみ付いて技術を得て見せる」

 

腕をぶつけ合って互いの無事を祈るライバル二人、常闇の行き先は九州。なので此処から最寄りの空港へと行きそこで飛行機に乗って九州まで行く手筈になっている。他のメンバーに比べて断然遠い、遠い分大変だろうがそれだけ声援を込めておく。

 

「龍牙、お前も師匠に世話になって来い。俺も親父の技術を吸収しに行って来る」

「師匠には普段から世話になってるけどな、後自信も普段からバッキバキに折られてるから……」

「おい目が死んでるぞ」

 

教室でギャングオルカが師匠であることを明かした後、当然のように自分に待っていた質問攻め。普段どのような指導を受けているのかと言われて龍牙は正直にそれを話した。師匠からは話のタネ程度にはしてくれていいと言われているので遠慮せずに話した―――師匠の鬼っぷりを。話していくうちに目からハイライトが失われていき、死んだ魚のようになっていく龍牙を周りは必死に話すのを止める程には、龍牙はギャングオルカに日常的に扱かれているのである。

 

「さて、俺も行くか……」

 

別れもそこそこに自分も職場体験先に向かう事にした。自分を指名した師匠ことギャングオルカは都心から1時間ほど離れた場所に事務所を構えている。街中ではあるが道を行けば直ぐに海に行く大通りに出れる、ギャングオルカは基本的には海か海から程近い場所を活動の範囲にしている。場合によってはそんなもの関係に活動はするが、個性の関係であまり乾燥しやすい場には出向かない。

 

電車を乗り継いで事務所へと向かっていく龍牙。改めて考えてみると師匠の事務所に足を踏み入れる事は初めてになる、仕事の邪魔になる事も考えて足を運んだこともなかったし基本的にはギャングオルカの方が出向いてきてくれることが大半だったのも理由の一つ。そんなこんなで事務所の前へと到達した龍牙。8階建てのオフィスビル、このビル丸ごと一つが事務所だと言うのだから驚かされる。一つ深呼吸をするとビルの中へと入る。

 

「あのすいません。雄英高校から職場体験に来ました黒鏡 龍牙と申します」

「ああはいはいお話は伺っておりますよ、それでは此方にどうぞ」

 

受付に話をすると直ぐに案内を受ける。矢張り前もって話がされていたらしい。素直にそれに従ってついていき、ギャングオルカが待っているという部屋に案内される。

 

「シャチョー、黒鏡君をお連れしました」

「入れ」

「(シャチョー……?)」

 

扉があけられるとそこは応接室、多くのプロヒーロー達の姿があった。20人以上のヒーロー達が規則正しい隊列を組み、その中央にはギャングオルカが堂々とした姿で仁王立ちをしていた。見慣れた師匠だが不思議と緊張を覚えてしまい背筋が伸びていく。

 

「よく来たな黒鏡 龍牙、事務所の主としてお前を歓迎しよう」

「雄英高校1-A所属、黒鏡 龍牙です、1週間お世話になります!!」

 

と頭を大きく下げる龍牙。綺麗な礼を見てサイドキックのヒーロー達は礼儀がなっていると小声を漏らす。彼らは龍牙がギャングオルカの弟子である事は一応は知ってはいる。ギャングオルカが龍牙を鍛える際には彼らの協力も仰いだりもしている、だが詳細は知らずギャングオルカが龍牙の事を息子として可愛がっている事は一切知らない。

 

「龍牙、お前のヒーローネームは何だ。1週間の間は仮とはいえお前もウチの事務所のメンバーだ、コスチュームを纏う間はヒーローネームで呼ぶ」

「リュウガです。俺はリュウガです」

「……そうか、お前らしい」

 

自身の名前と同じヒーロー名を聞いて師は少しだけ笑った、彼がどんな名前にするかはある程度予想はしていたが矢張り大本命はリュウガという名前だった。

 

「最初に言っておくぞ、俺はお前を甘やかすつもりはい。職場体験のつもりで来たのならばその認識は捨てろ、俺はお前をサイドキック同然の扱いをしていく」

「ちょシャチョー何言ってるんですか!!?」

「そうですよ!!それって彼を俺達と同じ活動をさせるっていってるようなものですよ!!?」

 

思わぬ言葉にサイドキック達からは驚きと焦りの声が溢れていく。龍牙はまだヒーローとしての免許はおろか仮の免許すら取得していない一般人に近い立場にある。そんな子供をプロのサイドキック同然に扱うという事は彼を命の危険に晒す事を意味する。流石に全く同じ活動はさせられないだろうが、それでも新しく採用したサイドキック育成コースは適応させる気満々なギャングオルカに周囲は焦る。

 

「彼はまだ俺達が守るべき立場にいるんですよ!?それをヴィラン確保最前線に連れて行くつもりですか!?」

「当然だ。こいつには才能とそれを開花されるだけの力がある、それを埋もれさせるなど愚の骨頂だ」

「だからって余りにも……!!」

「決定事項だ、やる気がないなら他の事務所に行けばいいだけの話だ」

 

弟子だから、それだけでは済まない厳しさ。ただ厳しいだけではない、苦痛に満ちた道を歩み気が無ければ俺の弟子をやめろと言うニュアンスも含んでいるであろうギャングオルカの方針にサイドキック達は動揺する。だが龍牙は、リュウガとして一歩前に出て言った。

 

「俺は噛みついてでも行きますよギャングオルカ。それが茨の道だろうが修羅の道だろうが」

「……口先だけではない事を期待する、こいつに事務所を案内しておけ」

 

そう言って出ていくギャングオルカにサイドキック達は追いかけていく。今すぐにでも方針を変えさせるために、だがギャングオルカは変えるつもりなど無かった。これで弟子に恨まれようが構わないとさえ思っている、龍牙が成ろうとしているヒーローがどれだけの苦難が待っているのか、誰かに頼られるというのがどれだけ辛いのかを彼自身に教え込む為に。

 

「俺の期待を超えてみせろ、龍牙」




「……校長、これで俺、嫌われたりしませんよね……?」
『そこら辺はまあ上手くやるしかないね、それで嫌われたら自業自得だよ』

内心、不安まみれなギャングオルカであった。

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